第31話 儲かってるので機械を買う

「いいじゃないですか~、作りましょうよ」


 ショーグンがダダをこねている。

 そう、ステマに踊らされて、地下室が欲しくなっちゃってるのだ。


「いらねえよ。何のために地下室なんか作るんだよ」

「いや、さっきやってたじゃないですか。地下室がトレンドだって」


「それは金持ちの中でだろうが! 見ろ! このボロっちい家を。こんなところに地下室作ってどうなるんだよ!!」

「え~、秘密基地みたいでカッコイイじゃないですか~」


「小学生か!」


 二段ベッドを欲しがる子供じゃねえんだぞ。

 しょーがねえなぁで買えるシロモノじゃねえんだ。


「地下室なんて金も手間もムチャクチャかかるんだぞ! そんな余裕どこにあるんだよ!」

「みんなでちょっとずつ掘りましょうよ。畳をはがして夜中にスコップで」


「脱獄か!」


 人ひとり通るトンネルを掘るんじゃねえんだ。

 地下室なら当然デッカイ空間が必要だ。

 人力でやってたら何年かかるかわかったもんじゃねえぞ。


 やるとしたら重機でもないとムリだ。

 それも家が建ってない土地をショベルカーでグワ~ッと。


「え~、いいと思ったんですけどねえ」

「なにをどう考えたら、そんな結論に辿り着くんだよ」


 農作業だけでもうヘトヘトだぞ。

 それでさらに夜中働けって、どんな強制収容所だよ。


 ……いや、待てよ。

 地下室は別として、ショベルカーは欲しいかもな。

 農場の規模を大きくするなら、重機は必要だ。

 木の根や石のある荒れた土地を手作業でやるのは、あまりに大変だからな。


 やるとしたら冬か。

 育てる作物が少ない冬。

 だとしたら今から動いていかないと間に合わない。

 業者に頼むにしろ、買って自分でやるにしろ。


 値段はどれぐらいだ?

 ランニングコストは?

 運転するのに資格はいるのか?


 ちょっと調べてみるか。




――――――




「おお~、すっごくカッコイイです」


 届いたショベルカーを見てショーグンが喜びの声を上げる。


「だろ?」


 そうなのだ。なんとショベルカーを買ってしまったのだ。

 ――中古だけど。


 お値段265万円。

 なかなかの出費だ。

 ショベルカーの講習にも行ってきた。これで資格免許は無事習得済みとなる。


 ちなみにショベルカー、私有地で使う分には免許は不要である。

 必要となってくるのは、公道を走らせるとき。

 車両総重量5t未満、最大積載量3t未満のショベルカーならば、自動車の普通免許。

 車両総重量5t以上11t未満、最大積載量6.5t未満ならば中型自動車免許。

 車両総重量11t以上、最大積載量6.5t以上ならば大型自動車免許となる。


 これらは運転のみ。

 実際に作業するにあたって必要なのが「車両系建設機械運転技能講習」か「小型車両系建設機械の運転の業務に係る特別教育」の資格だ。

 車両系建設機械運転技能講習は、指定された教習所で受講し、試験に受からなければならない。

 対する小型車両系建設機械の運転の業務に係る特別教育は、受講すれば資格をいただける。

 ただし、操作していいのは3t以下だ。


 まあ、いずれも私有地で使う分には必要ないんだけど、なにがあるか分からない。持っているにこしたことはないだろう。

 とはいえ、俺が持っていたのは自動車の普通免許だけだ。

 大型をとりに行くほど、時間も必要性もいまのところない。

 だから買ったのはミニ油圧ショベル。

 普通免許で運転できる3t以下の小回りがきくタイプだ。

 これだと講習のみですむ「小型車両系建設機械の運転の業務に係る特別教育」をとるだけでよかった。

 時間も費用もリーズナブルなのである。


「でもまさか、こんなに早く届くとは」


 とはいえ、予想外だったのがショベルカーが届くタイミング。

 今はまだ夏だ。

 冬から春にかけて作業するために動いていたのに。


「ミノル、あんたよく思い切ったね」


 俺のとなりでショベルカーを見つめるのは母だ。

 ショベルカーを買おうかどうか迷っていると伝えたばかりの高速現物到着に驚いている。


 状態のいい中古ってあまり出回らないらしいからなあ。

 これだと思った瞬間、買ってしまった。

 野菜を売って、そこそこ現金が入っていたのも気持ちを後押しした。

 成金が金遣いが荒いのって、こんな心理なのかもしれない。


「大丈夫かい? お金」

「あー、それは全然問題ないよ」


 心配する母に首を振る。

 思いのほか野菜が売れているのだ。

 それも高値で。

 ショーグンのSNSがバズったってのもあるけれども、一番は野菜の高騰だ。

 いま、軒並み野菜が値上がりしている。

 いや、野菜だけじゃない。

 食料品全般が値上がりしているのだ。


 みんな大変だろうなあ。

 うちは取れた野菜を食べればいいけど、都会の人たちはそうはいかない。

 原価に輸送費、スーパーに並ぶころには、なかなかの金額になっている。

 収入が増えずに物価が上がると、そりゃあ家計に対する負担はかなりのものだ。


 とはいえ、うちにとっては稼ぎ時。今が勝負時だと俺はにらんだ。

 とにかく稼いで設備投資。

 税金で取られるぐらいなら、一気に設備を充実させてしまおう。

 畑の拡張、各種機器の購入。

 よ~し、儲けてやるぞ!

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