第24話 うまくいくことばかりではない

 ムキムキ。

 ラディもろこしの皮をむいた。

 期待と不安が入り混じった瞬間である。

 そして――


「こ、これは!」


 なんと、とうもろこしの一粒一粒がラディッシュになっていたのだ。


 なんでだ?

 これまでラディッシュが影響を与えていたのは生長の仕方や速度。

 実の方にはさして影響を与えなかった。

 しかし、今回は実にしっかりと影響を与えている。

 てことはラディッシュは必ずしも生長を促進させるだけとは限らないってことか。


 ――まあ、そのあたりの考察は後でいい。

 問題は、このラディもろこしの見た目だ。


「おえぇぇぇぇ」


 気持ち悪い。

 ちょっと小ぶりなラディッシュたちが、ギッチギチに詰まっている。

 とうもろこしは表面が平らになっているから、タイルみたいでそこまで気持ち悪くない。

 だが、球体であるラディッシュは、もこもことした凹凸おうとつがとても目立つのである。

 しかも、球体ひとつひとつに突起があり、そこから一本毛のようなものまで生えているのだ。

 これはたぶん根だ。地面に伸ばすラディッシュの根のなごりなんだろう。

 ほんとうに気持ちが悪い。

 集合体恐怖症とでも言うのだろうか、ブツブツと鳥肌が立ったのが自分でも分かる。


「これ、エイリアンのタマゴですか?」


 横から覗き込んできたのはショーグンだ。

 オイ!

 タマゴとか言うな。

 ほんとうにそういう風に見えてきちゃうじゃねえかよ!


 それにエイリアンてなんだよ。

 そもそもオマエはエイリアンの残したメカだろうがよ!!


 だが、ショーグンの言うように、まさにエイリアンのタマゴだ。

 こ、これは売り物にならん!!

 嫌悪感がハンパない。


 捨てるか……。


 ――いや、待て。

 決めつけはよくない。

 ただ、見慣れていないだけって可能性もある。

 ブドウだって似たようなものだ。

 球体が集まっているじゃないか。

 そういうものだと思えば嫌悪感はなくなっていくんじゃないか?


 それにバラせばいい。

 くっついているから気持ち悪いんだ。

 取り外してラディッシュとして売れば……。

 …………。

 ……。


 ――やっぱムリ。

 触りたくない。取り外す手間もハンパないし、なによりキモイ。

 精神を病む。

 せっかくブラック企業をやめたのに、精神を病む作業なんかしたくない。


「しょうがない。ラディもろこしは破棄するか」


 ラディもろこしはボツだ。

 生産ラインからはずす。


「え? 捨てちゃうんですか?」


 残念そうな顔のショーグンだ。


「もったいないけどな。ほかの作物を育てることにしよう。別にこれにこだわる必要なんてないからな」

「そうなんですか。わたしに任せていただけたら、ちゃんと孵化ふかして差し上げますのに……」


「やめろや! 孵化って言うんじゃねえよ。ほんとうに何か産まれてきそうじゃねえか!!」


 縁起でもねえこと言いやがって。

 エイリアンのメカであるオマエが言ったら冗談にならねえんだよ。


 こうして、ラディもろこしの実用化は見送りとなるのだった。

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