第23話 想定外

 作物は順調に育っていった。

 特に雑草とかけ合わせたものは、茎と葉の勢いがすごかった。

 病気になる気配すらない。

 とはいえ、収穫にはまだまだ遠い。

 やっとポツポツと花が咲き始めたぐらいだ。


 対するラディッシュとかけ合わせた作物たちは、すでに収穫できそうな実をたくさん付けている。


「よ~し、ショーグン。順番に収穫していくぞ」

「わかりました。どっちがたくさん採れるか競争ですね。負けませんよ」


 ショーグンはカゴを背負ったまま、鼻息を荒くしている。

 いや、商品として大丈夫か確認したいから、あんま慌てて収穫したくないんだよな。

 競争どころか、じっくり時間をかけて収穫していきたい。


 ……でも、まあいいか。

 せっかくショーグンがやる気になってるもんな。

 ショーグンには自由にやらせて、俺は確認作業に専念するか。


「いいぞ! まずはダイコンからな!! レディー、GO!!」


 そのかけ声とともにショーグンは走りだす。

 そして、ダイコンの葉っぱに手を伸ばすと、そのまま一気に引き抜いた。


 スポン!

 ズングリとしたダイコンが姿を見せた。


 ……あれ?

 なんか短くない?


 ショーグンはさらに引き抜く。

 スポン!

 またしても太く短いダイコンが現れるのだった。


 これは……。


 スポン! スポン! スポン!

 ショーグンは夢中でダイコンを引き抜いている。

 その全てがズングリとした形状だ。


 たしかダイコンの品種は『青首大根』のはずだ。

 太く、長く育つタイプのもの。

 それをラディッシュをかけ合わせたわけだ。


 これはあれか?

 小ぶりなラディッシュの特性と混ざって、小さくなってしまったのか?


 意味ねぇ。

 大きくてお得感があるダイコンを小さくしてどうすんだよ。

 ダイコンにダイコンをかけ合わせた結果がこれか。

 違う作物じゃないとダメってことか。なんてこったい。

 

 ――いや、ちょっと待て。

 ほんとうに意味がないと考えるのは、早とちりじゃないか?


 ラディッシュとして考えれば、デカいサイズのものが、そのままの成長速度でとれるってことだ。

 これはこれでアリかもしれんぞ。

 すべては味だな。

 しっかりとした甘みがあれば、逆に人気がでる可能性だってある。


「おりゃあああああ」


 ショーグンは奇声をあげながら、一心不乱いっしんふらんにダイコンを収穫している。

 収獲しやすそうだな。

 短いから引っこ抜きやすいってことか。

 なるほど。作り手にとって悪いことではない。

 継続して栽培する候補に入れてもいいかもしれんな……。


「見てください! カゴいっぱいですよ」


 そうこうしているうちに、ショーグンの背負っているカゴは満タンになっていた。

 ショーグンは地面に置いて次のカゴを背負い直している。

 まあ、あいつ肩ねえから頭に引っかけてる感じなんだけど。


 おっと、こうしちゃいられない。

 俺も収穫しないと。数が少なすぎるとサボってると思われるしな。


「よいしょ!」


 ウネをまたぐように立つと、腰を落とし、ダイコンを力強く引っこ抜くのだった。




――――――――――




「よ~し、次はラディもろこしな!」


 青首大根とラディッシュをかけ合わせた新品種、ラディダイコンの収穫を終えると、次はとうもろこしへと移る。

 こいつはラディッシュと、とうもろこしの混合だからラディもろこしだ。

 どういう風に育っているのか、けっこう興味がある。


 というのも、このラディもろこし。通常のとうもろこしに比べてやけに大きい。

 円筒形でいくつもの葉っぱに覆われているなど、形状は完全にとうもろこしだ。

 しかし、明らかにデカい。

 ラディッシュの特性を引き継いでヤングコーンぐらいの大きさになると思いきや、結果は逆。

 デカイうえに、ちょっとゴツゴツした印象を受ける。

 いったいぜんたい、どう育っているのだろうか?


「今度も負けませんよ!」


 ショーグンは息巻いている。

 ラディダイコンの収穫数で勝ったからって調子に乗っているのだ。

 まあ、ちゃんと働いてくれるなら俺の負けでいいけどな。

 ただ――


「ちょっと待て」


 息巻くショーグンを手で制す。

 収獲の前に確かめなきゃいけないことがあるからだ。


 実つきだ。

 とうもろこしは皮(葉っぱ)をむいて、実が生長しているか確かめなくてはならない。

 実が大きくなっていなければ、まだ収穫時期じゃないってことだ。

 しかしまあ、見るからにデブちんなので、確かめる必要もないと思うんだけど。


「よいしょ」


 一本もぎ取る。


「あ、ズルいです! 先に取るなんて!!」

「いやいや、実つきを確認してるだけだから。この一本はノーカウントだから」


 いちいちうるせえやつだなあ。

 ガキんちょかよ。


 ムキムキ。

 ラディもろこしの皮をむいていく。


 ……え!


「こ、これは!」


 想定外の出来事であった。

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