第19話 スーパー食材

 収獲したバナナは、道の駅に収めてきた。

 初めての販売だ。たくさん売れてくれればいいが。


 ちなみに道の駅では、商品の陳列は生産者が行う。

 割り当てられた棚に、生産者自らの手で乗せていくのだ。

 道の駅で売りたい生産者は多い。

 だから、ひとりが置ける場所は限られている。

 今回陳列したのは収穫したバナナの五分の一にも満たない。

 売れれば補充できる。だが、売れなければ在庫を抱えてシクシク泣くことになる。

 悲しい。ひとつでも多く売れることを願う。


 幸い、母が道の駅で働いている。

 もし売れれば、俺が行かなくても商品は母が補充してくれる。

 このアドバンテージは、まあまあデカいのではないだろうか。


 しかし、思ったよりバナナが実ったな。

 緑のままのバナナも、まだ半分くらいある。

 これは道の駅以外にも販売ルートを確保せねばならないかもしれない。

 育てているのはバナナだけじゃないしな。


 となるとだ。

 売り方として考えられるのは他に四つ。

 農協への出荷、個人販売、インターネット、無人店舗だ。

 どれも営業許可はいらない。道の駅も同様だ。

 加工品ともなれば営業許可と食品衛生責任者資格が必要になってくるが、作物を売るだけならとくにいらないのだ。


 う~ん、どれがいいだろうか?

 一番規模が大きいのが農協だ。

 メリットは全量買い取ってくれることだ。たぶん、ここが一番楽だろう。

 ただし、品質にはうるさく、基準を満たさないものは買い取ってくれない。

 あとデメリットとしては、金額を自分で決められないことだ。

 市場価格の変動で買取金額も変わってくる。

 またその金額も安い。

 聞くところによると、農協の取り分は2%だ。そして、市場が8.4%で中卸業者は13~20%、小売店が25~30%だ。

 ようは半分、あるいはそれ以上取られることになる。

 

 ちなみに道の駅は15%だ。卸しもいなければ小売りもいない。だから残りの85%がまるまる農家の取り分となる。

 だから、同じ量売れたのならば、圧倒的に道の駅が儲かるってことだな。


 んでもって、あとの三つ。

 個人販売、インターネット、無人店舗は、全額農家の取り分だ。


 ただ、売れるかっつーと、けっこう厳しいものがある。

 人のいないところで無人店舗など開いたところで誰も来ないし、個人販売はルートがない。

 可能性があるのはインターネット販売だが、送料がネックになってくる。

 バナナ100円、送料700円じゃあ誰が買うんだっつー話よ。

 もっと品種を増やして詰め合わせ販売でもしない限りどうにもならないだろう。


 まあ、ぼちぼちやっていくか。

 俺の強みは回転率の速さ。いろんな作物を短期間で収穫できる可能性がある。

 そして、超低いランニングコスト。

 なんたってショーグンが食った作物がそのままタネになるんだ。

 苗や新たにタネを買う必要もない。


 てことはだ。

 かかるのは食費か。

 それはそれでけっこうバカにならないな……。


 ――いや待てよ。



―――――――



「なあ、ショーグン。ちょっとこれ食べてみて」


 そう言って一本の植物をショーグンに差しだした。


「なんです? それ?」

「知らねえの? ねこじゃらしだよ」


 そう、ねこじゃらし。

 道端にたくさん生えてる先端がモコモコした雑草だ。


 俺はひらめいたのだ。

 雑草ならいくら食べてもタダじゃね? と。

 それに繁殖力といい、成長速度といい、激高だ。

 おまけにやたらめったら病気強い。

 これをかけ合わせれば、スーパー作物になるのでは? 


「それ、食べられるんですか?」

「ん?」


 食べられる?

 コイツは一体何を言っているのだろうか?


「おまえ、出されたものはなんでもいただきますって言ってただろうが」


 ちゃんと覚えているぞ、俺は。


「そんなの食べ物の中でに決まってるじゃないですか!」


 すかさず反論してくるショーグン。なんとナマイキな。

 ……でもまあ、たしかにそうだな。

 好き嫌いがないって言っているやつに、たとえばじゃあ雑巾食ってみろとか小学生の理論だしな。


 ――いや、ちょっと待て。

 そもそもコイツはメカじゃねえか。

 食べられる食べられないとか、ねえから。

 ここは負けてはいけない。

 ゴリ押しで行こう。


「大丈夫だ。ウシや馬はおいしそうに食ってる」

「家畜と一緒にしないでください! それはメカ差別ですよ!」


 差別ときましたか。

 まったく、コイツは本当にこんな知識をどこから仕入れてくるんだろうな。


「メカ差別ってなんだよ。人間じゃねえんだから差があって当たり前じゃねえか!」

「ヒドイです。人間だけ特別扱いなんてエゴイストです。生きてるものみな平等ですよ!!」


 いや、いまオマエ、家畜と一緒にするなって言ってなかったか?


「そもそもオマエは生物じゃないだろうが! 有機物と無機物でぜんぜん違うだろうが!」

「そんな難しい言葉使わないでください! そうやってごまかそうとするなんて卑怯です!!」


 メカが難しいとか言うなよ……。

 無機物とか中学生で習う内容だろ……。


 それにしても、コイツはどうやって食べ物かどうか判断してるんだ?

 知らなけりゃわからないハズなのに……。


 こうして、なんとか食べさせようとする俺と、頑として受け付けないショーグンとの攻防はしばらく続いたのだった。

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