第18話 バナナ収穫!

 ついにバナナが黄色く色づいた。

 これから皆で収穫していく。


 俺、ショーグン、マイちゃんの三人でだ。

 母はいない。彼女は道の駅で仕事中である。

 収穫した作物を持っていったとき、一緒に陳列する予定だ。


「よーし、じゃあ競争な! 一番多く収穫したものに5000円!」

「わ! やった!!」

「ふふふ、負けませんよ」


 俺の宣言にマイちゃんは喜び、ショーグンは謎の自信をみせた。


 マイちゃんはいいとして、ショーグンは大丈夫か?

 自信の根拠がまるでわからんのだが。


 ちなみに5000円は俺のポケットマネーである。

 だから俺は、どう頑張っても得しない。

 勝てば払わなくて済むだけである。

 それでもまあ、なんか楽しいので5000円だす価値はあるように思う。


「わかってるだろうけど売り物だからな! 丁寧にな!!」


 いちおう念を押した。

 だが、二人とも聞いてないっぽかった。


「ぬおおおお!」

「てい! てい! てい!!」


 謎の奇声である。

 とても作物を収穫するときにだす声とは思えない。


 ――まあいいや。

 俺も収穫しよう。


 ギコギコギコ。

 バナナの枝をノコギリで切る。

 一本の枝にこれでもかとなるバナナを房ごとに切り分けていくのだ。


 ちなみにバナナは草の仲間だけあって、枝や幹は比較的柔らかい。

 しかし、枝は人の腕ほどの太さで、幹にいたっては丸太のようなゴリゴリのたくましさだ。

 ノコギリでもないと切るのが大変なのである。


 ギコギコギコ。

 しかし、切りにくいなコレ。

 密集して実がなりすぎてノコギリを入れる隙間がないのだ。

 ハジから順番に切り分けていかないと実を傷つけてしまいそうだ。


 ギコギコギコ。

 やっと三房か。

 思ったよりメンドクサイぞこれ。


 体勢がしんどいんだよな。

 なっているバナナに合わせて体を傾けなければならない。

 体がナナメってると力が入りづらいのだ。


 これじゃあ高い位置にあるものは大変だろう。

 脚立を使えば届くのだが、不安定な体勢での細かい作業は危険だしな。


「ねえ、ミノルくん。これ一人じゃムリじゃない?」


 なんて思っていると、マイちゃんが話しかけてきた。

 やっぱり? 俺もいまそう思っていたところ。

 ここはまるごと切り落として、地面で房ごとに切り分けた方が良さそうだ。


「うん、そうだね。やっぱり三人で協力して収穫しよう」


 競争は早くも断念である。

 まあ、初めてなんてこんなもんだ。

 切る人、枝を支える人、受け取る人の分担作業でやっていこう。

 一本の枝になるバナナの数は100本ほど。

 枝ごと切り落とすとなると、そうとうの重さになるしな。


「ショーグン、競争はいったん中止だ。分担してやっていこう」


 ショーグンは怒るかもしれないが、しかたがない。

 続けたところで、どうせアイツが優勝する見込みもないだろうし。

 あの背丈じゃな。

 ちんちくりんのショーグンでは、高い位置は届かないだろう。


「あれ?」


 そのショーグンから返事がないので探してみた。

 そこで驚くべき光景を目にしたのである。


「なんで?」


 やけに高い位置にあるバナナと格闘しているショーグン。

 しかし、その体は、あきらかに俺の背より高い位置にあるのだ。


 木によじ登ったのか?

 ショーグンの足元を見る。


「マジかよ」


 パイプのようなショーグンの細い足は、ニョ~ンと伸びて二メートルほどになっていた。

 そして、横からバナナの枝を涼しい顔で切っているのである。


 足、伸びるのかよ!!


 てことは、たぶん手も伸びるんだろう。

 これか、やけにショーグンが自信たっぷりだった理由は。


 そう言えば不思議だったんだよ。

 まえにバナナを勝手に食べていたとき、どうやってあんな高い位置にあるものを俺に気づかれず取ったんだ? って。

 手足がニョ~ンと伸びてむしり取っていたのね。


「汚ねえぞショーグン。足が伸びるなんて聞いてねえぞ」


 中止を伝えるはずが、不正のツッコミを入れるハメになるとは。


「いえ、これが標準サイズです。普段はムリに縮めているんですよ」

「そんなわけあるか! このヤロウ、詭弁きべんを言いやがって」


 よくもまあ、そんな出まかせを淀みなく言えるものだ。

 ステータスみたいなものがあったら、ショーグンのパラメーターは言い訳に全フリなんだろうな。


「もうどっちでもいいよ。とにかく中止だ。バラバラにやってたら危険だし、効率も悪い」

「ゴメンね、ショーグンちゃん。私一人だとちょっと難しいの」


 後ろからついてきていたマイちゃんも説得に加勢してくれた。


「ヒドイです! 負けそうだからって、そうやって二人で私を悪者にして」


 だが、ショーグンは納得しなかった。

 けっこうガンコなショーグンなのである。

 チッ、しゃーねえなあ。


「わかった、わかった。お前の勝ちでいいよ。ちゃんと5000円やるから。だから残りはみんなで収穫しような」

「まあ、そういうことでしたら、協力することもやぶさかではないですね」


 お金をもらえると知ると、この変わりようである。

 なんとガメついメカなのだろうか。


「危うく、また、やりがい搾取されるかと思いました」

「言い方!!」


 しかも追撃である。

 何がやりがい搾取だよ。まったく、どこでそんな言葉を覚えてくるんだよ。


 しかも、またって。

 これはアレだな。

 自分の給料をいつもらえるのかって聞いてきた件だな。


「アホか! お前は経営者だから金を払う側なんだよ!!」って返したら絶句してたからな。

 その仕返しをいましているのだろう。


「メカが金ためてどうすんだよ……」


 とりあえず、ありきたりなツッコミをする俺なのであった。




※本来バナナの収穫は緑のうちに行う。

 その後、温度管理された倉庫でエチレンガスで熟成させる。

 フツーに熟させると亀裂も入るし、皮が黒くなりやすいからだ。

 それじゃあ売り物にならない。

 というか、熟すまで待っていたら木が枯れて倒れるんじゃないだろうか?

 ジャガイモも地上部が枯れてから収穫だし。


 まあ、創作なのでこれでいいでしょう。

 たいして人気もないド素人の小説にそこまで求められても困るし。

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