第17話 お食事会
「おいし~」
マイちゃんがハンバーグ食べながら言った。
いまは俺とマイちゃん、母とショーグンの四人で夕飯を食べているところである。
そうなのだ。みごとショーグンは、マイちゃんを連れてくることに成功したのだ。
「でしょ~、お母様の作るハンバーグは最高なんですよ」
そんなショーグンは、ホクホク顔でハンバーグを
遠慮のカケラもない。ミッションを達成し、とうぜんの権利を得たとでも思っているのだろう。
――いや、食べるのはいいんだけどさ~。
懲らしめるためにメシ抜きっていっただけで、本気で食べてはいけないとは思ってなかったし。
でも、なんか納得いかんのよな。
マイちゃんを連れてきたら食べていいって言ったのは、母であって俺じゃないから。
なにゆえ俺の命令がキャンセルされてるんだろうか?
しかも、そのすぐ前に俺が言った、しゃべるなって命令をあっさり破ってるし……。
「また、このソースがいいんですよね~。コクと深みがあって」
ショーグンは母のご機嫌取りに
この家の権力者が誰かをしっかり理解してやがる。
コイツ算数できないクセに、そういうとこはしっかりと計算してるんだよな。
ほんとコイツどうなってんだろ?
設計そのものがおかしいのか、コイツだけ変なのか。
ただ、そのハンバーグのソースはレトルトな。
母さんが作ったわけじゃないから。
それ褒めたことになってねえから。
「なあ、ショーグン。お前、さっきからバクバク食ってるけど、俺食べていいなんて言ってないからな」
ここはハッキリさせとこう。
お前の持ち主は俺であって、母ではない。
母の言葉を聞いちゃいけないわけじゃないが、俺の命令より優先度が高いってのはさすがにおかしいんじゃないか?
「お前、なんで俺の命令ムシしてんだよ。今回は身の危険に関わる内容じゃないだろ。しかも、持ち主でもない母の命令で上書きまでして。それ、お前の言っていたルールとやらに反するんじゃないか?」
調べたところ、ロボットには三原則みたいなものがあるらしい。
ひとつ、ロボットは人間に危害を加えてはならない。ふたつ、ひとつめに反しない限り人間の命令に従わなくてはならない。みっつ、それらに反しない限り、自身を守らなければならない。みたいなやつだ。
宇宙人の作ったロボにそれが当てはまるかは分からないが、たぶん似たようなルールは定められてると思うんだよな。
「え? まあ、そのへんは問題ないですね」
しかし、ショーグンは問題ないとか抜かしてきた。
なにぃ、コイツ、いけしゃあしゃあと。
「なんで?」
「確かに私の所有者は旦那様です。ですが、お母様は旦那様の制作者でもあられるのです。お母さまにはある意味、より上位の権限があるとも考えられるわけでして……」
勝手な解釈!
法の抜け道を探す悪徳弁護士みたいなこと言ってんじゃねえよ。
あと、製作者って言うな!
俺が生まれたのは、愛の営みの結果だよ。
ふだん、妙に人間っぽいのに、そういうところだけメカっぽい言い回しするんじゃねえよ!
「え~、なんの話?」
ここでマイちゃんが尋ねてきた。
「いや、それがね」
こうなったら、言ってしまおう。
ちゃんと説明せんと俺がイヤガラセしてるみたいに思われてしまうからな。
これまでの経緯を、ザックリとマイちゃんに伝えた。
「はははは、そんなことがあったんだ」
俺の話を聞いてマイちゃんは、ただ笑っていた。
ショーグンに対しても俺に対しても、悪い印象は持たなかったみたいだ。
「いや、笑いごとじゃないよ。これから会社としてやっていくのに、働いてるやつが商品を勝手に食べたら商売として成り立たないよ」
「あははは、確かに。でも、ミノル君、そのバナナは商品としてじゃなくて、みんなで食べようと思ってたんだよね」
うっ!
痛いところを!!
「いや、まあそうなんだけど……」
「だからいいとは言わないけど、でも、こうして四人でお祝いはできたわけだし」
まあ、たしかに。
目的自体は達成した感はある。
「とはいえ、このままだと困るんだよなあ」
「うん、わかるよ。食べたことそのものじゃなくて、勝手にされちゃあ困るってことだよね」
そう、そこなの。
そんなんじゃこれから先が不安というか。
「ショーグンちゃんはまだ子供なんだね。善悪がまだよくわかってないのかも」
そう……なのか?
ショーグンはまだ善悪のわかっていない子供……。
たしかにそういう一面があるのかもしれない。
ショーグンはあくまで宇宙人が作ったメカだもんな。
変に知識があるから勘違いしがちだけど、地球人の細かいニュアンスや価値観まで理解しているわけがない。
知っているのと理解しているのは違う。とくにそれが人の感情に関するものだったら。
ショーグンは知識だけもった子供。なるほど、たしかにそう考えると納得できなくもない……か?
「ほんと、ビックリしたよ。ショーグンちゃんが突然家に来て、助けてください! とか言うから何事かと思って」
コイツ、そんなこと言ったのか。
「これで悪いことしたってショーグンちゃんも分かったんじゃないかなあ」
いや、ショーグンの心配事はハンバーグが食べられないことだ。
善悪というより利害に反応しているだけなのでは……?
「ねえ、収穫のとき私も呼んでくれる? 手伝うから」
マイちゃんは突然話を切り替えた。
あいかわらずの女子高生だ。
「もちろん。むしろ、こちらからお願いするよ。今度はちゃんとバイト代払うからさ」
「え、いいよ。そんなの」
マイちゃんはいらないと言うが、今度ばかりはちゃんと払っておきたい。
収穫物を売ったら、お金が入るはずだから。
「だめだめ。こういうのはちゃんと受け取ってもらわないと。次から頼みにくくなっちゃう」
「あー、そっか」
マイちゃんは納得してくれたようだ。
「あのー、つかぬことを
ここで急にショーグンが入ってきた。
なんだよ、せっかく二人で話してたのに。
「なんだ?」
「わたしの給料は、いついただけるんですか?」
……え?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます