第14話 検証結果と、ちょっと不自然なショーグン

 ショーグンがミゾにはまった日の夜、フロに入りながら品種改良について考えていた。

 本当は朝、畑を見ながら考えたかったが、ショーグンに気をとられすぎていたのだ。

 まったく。お騒がせにも程がある。


 さて、まず考えるべきは、品種改良するごとに結果は異なるかって話だ。

 ラディッシュとバナナ、ラディッシュとキャベツをそれぞれ五回ずつ品種改良したが、育ち方に違いはなかった。

 芽の出かたも、育っていくパターンも形状も、ほぼ差がなかった。

 最終的な結論は収穫物を見なきゃ出せないが、かけ合わせる作物が同じなら常に同じ結果がでる可能性は高いだろう。


 つぎ、ラディッシュがどう作用するかだ。

 ラディバナナもラディキャベツも生長が早かった。

 ラディバナナは土からバナナがモコっと。ラディキャベツはおなじくキャベツの玉が土からモコっと。

 たぶん、ラディッシュは生長の仕方と速度に影響を与えているのではないか。

 今のところラディッシュそのものが収穫できそうな雰囲気はない。

 ラディッシュが全部こうなのか、この組み合わせがたまたまそうなのか、現時点ではわからない。

 これから、いろいろ検証していきたいと思う。

 

「でもなあ、ラディキャベツは商品にならないなあ」


 ラディキャベツ、生長がムチャクチャ早いのはいいんだけど、大きな問題があるのだ。

 キャベツを切ってみると、中が土まみれなのだ。


 キャベツは生長とともに葉が茂ってくる。

 それがやがて丸まって、よく見る玉の形になる。結球と言われる現象だ。

 だが、ラディキャベツは玉の状態で土から顔を出すのだ。

 どういう原理かわからないが、土の中で結球するみたいだ。

 その際、土も一緒に取りこんでしまう。

 結果、葉の間に土が入ってしまうわけだ。こんなもの売り物になるわけがない。


「葉ものはダメだな」


 レタスやホウレンソウなどの葉物とラディッシュは相性が悪いのかもしれない。

 ちょっと組み合わせを考えなきゃならないな。


 あとは受粉が必要な作物もそうだ。

 土のなかでどうやって受粉するんだって話だ。

 調べたところバナナは受粉を必要としない。受粉なしで実になる。

 組み合わせるなら、受粉を必要としない作物だな。

 ん~、となると何だ?

 ちょっと、整理してみるか。


 まず俺が育てられそうな作物は、大きく四つに分類できる。

 キャベツや白菜などの葉類、トマトやキュウリなどの果菜類、そして、さつまいもやラディッシュなどの根菜類だ。

 そこに樹木などの果樹類が加わる。

 オーソドックスに考えるなら、同じ種類の作物を組み合わせるべきだろう。

 根菜類なら根菜類。葉類なら葉類といった特徴の似ているもの同士が、たぶんムリがでない。

 これが異なると、育ちはするが収穫に困る。そんな気がする。


「旦那様」


 あれやこれやと考えていたら、扉越しに誰かに声をかけられた。

 この声はショーグンか?


「どうした?」

「お背中流しましょうか?」


 やはりショーグンのようだ。

 だが、ショーグンは驚くべきことに、俺の背中を流してくれると言う。


「なんだ? なにをたくらんでる!?」


 反射的にそう言ってしまった。

 だって、明らかにウサンクサイんですもの。


「これは心外ですね。武士たるもの、お互いの背中を流しあってこそ親睦が深まるというものです」


 あ、これは時代劇の影響か。

 べつになにか企んでいるわけじゃないのか。


 でも、武士にそんな文化あったっけ?

 背中流しあうって、町人っぽくない?

 少なくとも将軍の行いではないが。

 それにさっきまでコイツ、スネてたからなあ。

 勝手にどっか行って、勝手にミゾにはまってたくせに。

 急にこんなこと言いだして、すごく不審なんだよなあ。


 けどまあ、背中を流してくれるって言うんなら、断る理由もないか。

 仲直りしようとコイツなりの行動かもしれんしな。


「かたじけない」


 とりあえず武士っぽく返してみた。


「では、失礼つかまつる」


 ショーグンも乗ってきた。

 カラカラっと扉が開くと、タオルを持ったショーグンが入ってくる。


「ではお背中を」

「うむ」


 背中を向けるとゴシゴシとショーグンが洗ってくれる。

 ……悪くはない。

 意外な才能の発見である。


「では、拙者せっしゃも」

「ふむ」


 お返しだ。ショーグンからタオルを受け取ると、その背中を……。

 ――いや、ちょっと待て。これ大丈夫か?


「ノッてるとこ悪いが、おまえ水、大丈夫なの?」


 機械に水はNGじゃないだろうか?

 ショートして感電とか絶対にイヤだぞ。


「ああ、これは伝え忘れておりました。わたくし、完全防水でございます」


 へ~、そうなんだ。

 腐っても宇宙人の残したメカなんだな。

 ――まあ、作物は腐らせたけど。


「じゃあさ、雨の日でもヘッチャラってこと?」

「もちろんです。これでもシェアNo1ですから」


 シェアNo1、そういやそんなこと言ってたな。

 他の情報が濃すぎて忘れてたよ。


「へ~、すごいな」

「ええ、よく言われます」


 なんか調子に乗ってんな、コイツ。

 元通りっちゃ元通りなんだけど、さっきまでスネてただけにヤッパリ違和感がある。

 ちょっと仕掛けてみるか。


「だったらさ、雨の日にお出かけとかできる?」

「もちろん、可能です」


 ふむふむ。


土砂降どしゃぶりでも?」

「シェアNo1ですから」


 自信たっぷりだな。

 じゃあ、これは?


「嵐の日でも?」

「……なんでそんなこと聞くんですか?」


 自信マンマンだったショーグンは、何かに気がついたようで警戒し始めた。

 意外にスルドイなコイツ。


「嵐のときってさ、畑が心配じゃん。川が増水するから。だから、お前に見回ってもらおうかと」

「……それはムリですね」


「なんでだよ!!」


 まあ、予想してたけどさ。


「体は大丈夫でも、心は大丈夫じゃないんですよ」


 どっかで聞いたようなセリフだ。

 心とか言うんじゃねえよ。

 まったく、どんなメカなんだよお前は。


「まあ、しょうがないよな。晴れた日ですらミゾにはまるようなやつが、嵐の日に見回りできるわけないもんな」

「なんとでもおっしゃって下さい」


 チクリと突いてやったのに、やけに冷静な返答だ。

 ――やっぱ、なんかおかしいよな。


「おまえ何か企んでんだろ? 嵐の日に外行けとは言わないから、正直に答えてみ?」

「そんなわけないじゃないですか。なにも企んでいませんよ」


 ショーグンは動揺することなく否定している。

 あれ? 企んでないの?

 ウソ言ってる感じでもないな。

 なんだろ? 俺の思い違いかな?

 でも、なんか変なんだよなあ。


「じゃあ、なんで急に背中流すとか言い始めたの?」

「ああ、それは練習です」


「練習?」

「マイさんと一緒にお風呂入る約束をしたんですよ」


 なにいいいいい!!!!!

 オイ! どういうことだよ! 聞いてねえぞ、それ!!


「ですので、予行演習としてですね。旦那様にご協力していただいた次第でありまして」


 なんでだよ。いつの間にそんな約束してたんだよ。

 だから、いきなり機嫌が直ったのかよ。


 クソ、どうする? 止めるか?

 いや、でもなんて言う?

 機械とフロ入るなって?

 たしかに俺がショーグンの持ち主だけど、それを言うのもなんか違う気がする……。


 どうする? どうする?

 ――いや、待て。その前にいちおう確認しておくことがある。


「なあショーグン。おまえ、録画機能ない?」

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