第4話 品種改良BOX

「あ、ミノル! 大丈夫かい!?」


 とりあえず母親に電話をかけた。

 そろそろ二時間たつ。心配しているだろうってのもそうだが、警察を呼ぶよう頼んだ時間でもある。

 ぶっちゃけ警察は呼んでほしくない。

 説明したところで信じてもらえないだろう。


「うん、大丈夫。今から帰るよ」


 とりあえず本当のことは言わず、隕石が落ちたみたい、火事の心配はない、とだけ伝えた。


「心配したよ。何度電話しても通じないから」


 え? そうなの?

 もしかしたらUFOから妨害電波みたいなのが出てたのかもしれないな。


「山だからね。電波状況が悪かったのかもしれない」


 最近はありがたいことに、こんな田舎でも携帯がつながる。

 でもまあ、言い訳としては丁度よい。


「そうかい。気をつけて帰ってくるんだよ」

「ああ」


 なんか、いろいろと疲れた。おまけに汗だくだ。

 もう一度フロに入りたい。そして、とっとと寝たい。


 ――しかしだ。

 ほっておけない物がある。

 タコ星人が俺にくれると言っていたこの大きな箱だ。


 懐中電灯で照らして、ザっと確認する。

 大きさは六十センチ四方ぐらい。白いプラスチックのような金属のような不思議な材質。

 意外と固くない。テニスボールぐらいの弾力がある。

 そして、箱のひとつの面に赤い模様のようなものがある。

 タコ星人によると、ここに手をかざせば起動するみたいだが……。


 どうしようか。

 こんな重いもの、持って帰るなんて絶対無理だ。

 置いていくのもなんとなく嫌だ。

 せっかくもらったものだしなあ。

 タコ星人だって積んで帰ろうとしたぐらいだし、たぶん、それなりに価値があるのだろう。


 研究者に売る?

 いや、信じてもらえないだろうし、めんどくさい。

 そして第一に、俺自身に興味がある。

 文字通り命をかけて得たんだ。どんな形にせよ他人にとられるのはちょっと嫌だな。


 よし、電源だけでも入れてみるか。

 言われた通り、赤い模様に手をかざした。

 すると、模様は赤から緑に変化していく。

 外側から少しずつ、中心に向かってって感じだ。


 ……大丈夫だよなコレ。最後爆発とかしないよな。


 ピー。

 なんか音がした。

 色がすべて緑になった瞬間だ。


「&$&&&##’’’’<>>$$!」


 箱から声がした!

 しかし、何を言ってるのかまったく分からない。


「ウソだろ。言葉が分からなくて使えないとか最悪だぞ……」

「言語を認識しました。ワカメ星、バナナ列島で使われている言語に設定いたします」


 え? なんか日本語になった。でも、ちょっと待って。気になる情報がいっぱいあった。

 落ち着け。

 情報を整理するんだ。

 認識しましたってことは、俺が喋った言葉を聞き取ってその言葉に合わせたってことだよな。

 すごい性能じゃないか。

 最初の意味不明な言葉は、これを作った種族の言語なんだろう。あるいは宇宙で使われている公用語とか。


 ただ、問題は次だ。

 ワカメ星ってなに?

 さっきも言われたけど、地球ってワカメって呼ばれているの?

 たしかに水たっぷりだけど。

 ワカメはあれか。髪の毛的なことか?

 タコはつるっぱげだもんな。

 髪の毛がワカメに見えるのか?


 あと、なんだよバナナ列島って。

 たしかに日本はクニャンと曲がってるけども。



 プシューと音がした。

 箱が割れて、棒状のものが伸びてきた。

 外壁を押し出すように箱の下から二本、左右の側面からそれぞれ一本ずつだ。

 あ、これ、もしかして手足か?

 尖端についた箱の外壁が、ちょうど手のひらと足の裏みたいになっている。


 ――これはメカだ。自足歩行型のロボット。

 でも、なんかダサいな。宇宙人は圧倒的にセンスがない。


「初めましてマスター。わたしは品種改良BOXです。なんなりとお申し付けください」


 謎のメカは、そう言って深々とお辞儀じぎをした。

 ほう。なるほど。チンチクリンだが、礼儀正しくはあるようだ。


「マスターはずいぶん背が高いんですね」


 しかも、褒め上手なのかもしれない。


「ずいぶんガッシリとしていらっしゃる。頼もしそうなマスターでよかったです」


 ただ問題は、コイツがずっと俺に背を向けていることだ。


寡黙かもくで、どっしり構えたところも素敵です」


 そう、こいつは俺と反対側にある木に向かって話しかけているのだ。

 なるほど、わかった。

 コイツはポンコツだな。


「ワカメ星人は野蛮な種族と聞いておりましたが、マスターは例外であられるようですね」


 そして、失礼である。


「おい!」


 チンチクリンの背中に呼びかけた。


「え?」


 するとメカは、こちらに向かってクルリと体を反転させる。


「え? あれ? ワカメ……」


 謎のメカは、驚いて目をパチクリさせる。


「お前を起動したのは俺だよ」

「……」


 謎のメカは俺をじっと見つめている。

 なんとも変な空気が流れる。


 プシュー。

 ふいに謎のメカの手足が引っ込んでいった。

 あれよと言う間に、もとの四角い箱に逆戻りするのだった。


 え、ええ~!!

 どういうことだよ。


 ――しかし。


 プシュー。

 ふたたび箱が開いて手足が伸びてきた。

 そして、こちらを見て深々と頭を下げる。


「初めましてマスター。わたしは品種改良BOXです」


 やりなおしてんじゃねえよ!

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