第2話 遺産相続
「ミノル、遺産相続の件だけど……」
「うん」
夜テレビを見ながらまったりしていたころで、母がじいちゃんの遺産相続について話しだした。
母が言うには、じいちゃんの遺産は銀行に預金していた約二百万と古い家と大きな土地だ。
相続するのは母だ。
しかし、母はなにやら迷っているようだ。
「相続するべきか迷ってるんよ。土地はかなり広いんだけど、売ってもお金にならないし売れるかどうかわからない。家も古くなってきて、そろそろリフォームしないといけなくなってる」
「うん」
たしかに家はもう古くてだいぶガタがきてる。床もきしむし、洗面所なんかもポタポタ水が垂れている。
家の裏は山だ。そこもじいちゃんの土地だけど、広いばかりで価値はない。逆に管理にお金がかかるくらいだ。
田舎の山は、手ばっかりかかって負の遺産だってよく聞く。まさにうちなんかそうだ。
あとは畑だ。
じいちゃんが農家としてやっていたわけだけど、じいちゃんが死んでやる人がいなくなってしまった。
これも負の遺産にちがいない。
「でも、じいちゃんの預金は?」
俺がもらったのもそうだけど、母が銀行からおろした預金も遺産に違いないのだ。
遺産を相続しないなら、それも手放す必要がある。
「預金はもうおろしたから大丈夫」
いやいや、それまずくない? 資産隠しになっちゃうよ。
たしか相続は、するかしないかの二択。
家族で分配はできても、土地は放棄して預金だけ受けとるとかできないはずだ。
そう言おうとしたが、つぎの母の言葉で飲み込んでしまう。
「もうちょっと街の中心部に引っ越そうかと思ってるんよ。そこならパートももっとあるだろうし、ミノルの仕事だって見つかるんじゃない?」
引っ越す?
あ、もしかして一緒に暮らそうって言っているのか。
なんやかんや言って、母もさみしいのかもしれない。
今まではじいちゃんと二人暮らしだった。そのじいちゃんがいなくなったら、一人きりになってしまうから。
――いや、違うか。
もしかして俺のことを考えてくれてるのか?
仕事なんかこっちで探せばいいじゃないかって。
それだけ心配かけてたってことか。
申し訳ないな。
とりあえず仕事のことは後で考えるとして、気になるのは遺産の相続だな。
山なんて相続したって買い手が見つかるとも思えない。
家も建て替えやリフォーム費用を考えたら、二百万では逆に損かもしれない。
母の言うように相続は放棄した方がトータル得なのか?
でも、二百万の現金は惜しいんだよなあ。
う~ん……。
そうかんがえていたら、いきなりドン! という大きな音がした。
外からだ。
母と顔を見合わせると、二人して窓をのぞく。
……暗くてよく見えない。
「ちょっと、あぶないよミノル」
母は止めたが、すぐさま外へと飛びだした。
キョロキョロと見回すと、山のほうで赤く燃えるなにかが見えた。
「母さん。懐中電灯ある?」
玄関から顔をのぞかせていた母は、うなずくと姿を消した。
しばらくして巨大な懐中電灯を手にもって現れた。
古い!
しかもデカい!!
単一電池の懐中電灯だ。LEDですらない。
それをひったくるように受け取ると、スイッチを入れ点灯を確かめる。
ちゃんとついた。
大きさの割に明るくはないけど。
「うちの山でなにか落ちたみたい。母さんは家の中で待ってて。二時間して戻らなかったら警察に連絡して」
「ちょ、ちょっと、アンタ何言ってるの。まさか見に行く気?」
「大丈夫、スマホがあるから。なんかあったら警察と一緒に来てよ。二人で行ったら助けを呼ぶ人がいなくなっちゃう」
正直、自分でもなにを言っているか分からなかったが、母を守りたい、危険な目には合わせたくない、みたいな気持ちがあった。
それが伝わったのかは分からなかったが、母は押し黙るのだった。
――――――
ふうふう。
歩いてみると、意外と遠い。
暗くて対象物が見えないから近いと思ってしまった。
懐中電灯で足元を照らしながら、山道をのぼっていく。
「うお!」
木の根につまずいて転びそうになった。
あぶない。
しかし、よくよく考えてみれば、夜の山道を歩くなんて正気の沙汰ではない。
子供のころよく遊んでいた場所だからなんとかなっているけど、足を滑らせたらケガじゃすまないかもしれない。
引きかえすか?
いや、あのテンションで飛びだした以上、引きかえしづらいものがある。
もうちょっとだけ登ってみよう。
「なんじゃこりゃ……」
しばらく歩くと空き地へ出た。
子供のころ秘密基地を作っていたところだ。
しかし、妙に明るい。
空き地は、赤く点滅する光に照らされているのだ。
あれか。
何本かなぎ倒された木の奥、一直線に地面を削った先に、土中にメリこむ楕円形の物体が見えた。
でも、なにあれ?
楕円形の物体は、透明になったり赤く光ったりと、奇妙な点滅を繰り返している。
まさかUFO?
明らかに地球より文明が進んだ印象を受ける。
これはドえらいものを見つけてしまったぞ……。
一歩二歩と後ずさりする。
が、その瞬間、トンと背中に何かがぶつかった。
慌てて振り返る。
「わあ!」
「わぁ!」
誰かが立っていたのだ。
驚いて叫び声を上げてしまう。
すると、相手も俺の声に反応して叫び声を上げた。
「はわわわわ」
驚きすぎて声にならない。
「びっくりした。急に大きな声をだすから」
「あばばばばば」
腰が抜けるとはこのことだろうか。
足はガクガク震え、力が入らない。
思わずペタンと座り込んでしまう。
「大丈夫?」
後ろに立っていた誰かは、心配する風な言葉をかけてくる。
「たたたたた……」
それでもやっぱり言葉にならない。
なぜなら、話しかけてきたやつは、顔がタコそっくりのタコ人間だったからだ。
「大丈夫、落ち着いて」
タコ人間がなにか言っている。
でも、全然大丈夫じゃない。
コイツの体は人間だけど、顔はタコなのだ。
絶対かぶりものとかじゃない。
喋るたびに口や顔の皮膚が動いているんだ。
「僕は怪しい者じゃないよ。落ち着いて」
ウソつけ! なにが怪しい者じゃないだ。
どこからどう見ても、怪しいじゃないか!
「大丈夫。僕も大きな音を聞いて、駆けつけてきたんだ」
ぜったいウソだ!
どう考えても、あのUFOから降りてきたに決まっている。
「……あ!」
ここでタコ人間は何かに気がついたようだ。
自分の顔をペタペタと触りだしたのだ。
「……」
一瞬の無言。
が、すぐにタコ人間は、胸にあるバッジみたいなものを押した。
するとどうでしょう。
タコ人間の顔が、みるみるうちにイケメンな青年の顔に変化するではありませんか。
「大丈夫、落ち着いて。僕も大きな音を聞いて駆けつけてきたんだ」
そんなわけあるか!
言い直してんじゃねえよ!!
「……」
「……」
お互い無言が続く。
そして先に口を開いたのはタコ人間だ。
「ダメだったか。しかたがありませんね……」
タコ人間は背後からなにかを取り出した。
銀色に輝く、オカリナみたいなもの。
パっと閃光が放たれた。
それはオカリナから出たようで、俺の近くの地面を一瞬でえぐった。
暗くて深さは分からないが、えぐれた穴の直径は一メートルぐらいある。
ヤバイこれ兵器だ。
撃たれたら骨も残らないんじゃないか?
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