sui side

 物心つく頃から女の子が好きだった。

初恋は幼稚園の年長。眼鏡をかけた女の子。髪は猫っ毛で肩口でぱつんと切りそろえられていた。絵本を読んでくれた。お礼にとふくふくのほっぺたにちゅっと口づけるとレンズ越しの目がまんまるになって驚いてかわいかった。淡くてきれいな思い出。


 母が病気でなくなってから2年経つと、父は再婚した。父より一回り若い継母に恋をしたのは14歳のとき。失恋したのは継母に妊娠を告げられ、この人は父のものだと気付いたから。

 妹が産まれ、家に居づらくなって街を徘徊するようになった。暇つぶしに入った喫茶店でいい感じにやる気のないマスターがテレビを見ていた。

 それはアイドルのドキュメンタリーだった。たくさんのファンに愛される彼女たち。

私もアイドルになれば愛されるのだろうか。


 アイドルになりたい。

そう顔に書いてあったのだろうか。家に帰る途中にアイドルのスカウトに声をかけられた。スカウトなんて今までもうざいくらいあったけどそのときは運命的なものを感じた。

 声をかけてきたのが女性でしかも真面目そうだし話を聞いてみた。


 そこからはトントン拍子に話は進んだ。一人で地下アイドルグループを運営しているという沙織さんは私の親にも話を通し、私は念願のアイドルになったのだ。


 新メンバーとして加入したグループは私を含めて5人だった。

 センターを務めるすみれ、リーダーの環、ムードメーカーのゆか、顔はきれいだが物静かな凛。最年少の私を皆優しく受け入れてくれた。


 毎日がきらめいて見えた。ずっとこの5人でやっていきたい。ファンに囲まれて楽しく。

 特にすみれは私のことを気にかけてくれた。四国の田舎町から上京してきたという彼女は、3つ上なのにいつまでも無垢で悪い人間に騙されてしまわないか心配なくらいだった。彼女に惹かれるのは、意識しても止められなかった。

 グループを壊すことになる恐れもあったが、いきなり想いが露見するよりはマシだろうと気持ちを伝えた。


 すみれは躊躇いながらも私の気持ちに応えようとしてくれる。だんだんと距離も近付き、幸せを噛み締めた。ようやく私も人と通じ合えることができたと。


 二人の関係に他のメンバーも気付いているようだったが、見守るように受け入れてくれていた。

 こんな日がずっと続きますようにと願ったのがいけなかったのだろうか。


 解散はあまりにも突然だった。

すみれが実家の農家を継ぐため、帰るという。婿を取らないといけないため、私とも別れる。

 そう告げる彼女の瞳は揺らぐことなく、嫌だとかそういったことを言える隙は全く無かった。


 連鎖するように進学、就職を理由に次々とメンバーはアイドルを辞めていった。

 残された私は抜け殻のようにソロとしてアイドルを続けた。愛してくれるかもとファンとも付き合ったが、彼女たちは結局アイドルとしての私と付き合いたいだけでこちらを見ていない。それはとても空虚だった。

 



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