第209話 フィアンセは増殖する


 どうする。

 どうする。

 どうする!?


 胸の中に猫耳少女を抱き、背後には俺の下半身をつけ狙う女の子。

 助けを求めようにも、部屋の外も俺の体を狙う(そして嫉妬深い)女だらけときている。


 まさしく四面楚歌というか、四面酒池肉林とでも言うべき状況だ。

 

 だが、慌てることなかれ。

 俺はどんな時だってピンチを切り抜けてきたじゃないか。

 時々流されたこともあったけれど、一線を越えてしまったことはまだ一度もない。

 未成年との本番行為はギリギリのところで回避してきた、健全な大人なのである。


 だからきっと、今度も大丈夫。

 そうやって俺が油断しきっていると、綾子ちゃんは「……やっぱり手を出してくれないんですね」といじけたような声を出した。


「そりゃそうさ。わかるだろ」


 確かに毎度毎度寸止めが続いているけれど、年齢とか倫理観とか色々あるんだということわかってほしい。

 

「子供に手を出すわけにはいかない」


 俺は大人の男として、毅然とした態度で拒絶してみた。

 ちなみに今エリンの乳を揉みまくっているが、こいつは成人済みなのでこれは何の問題にもならない。

 そういうことなのである。どういうことだよ、と自分でも思うが、とにかくそういうことなのである。


 誠意が伝わったのか、綾子ちゃんはするすると腕を放してくれた。

 これで一安心、とほっと安堵の息を吐くと、今度は鼻をすする音が聞こえた。ぐす、っという男心にズキリと刺さるサウンド。


「あ、綾子ちゃん?」


 背中に熱い液体がしみ込んでくるのがわかる。

 綾子ちゃん、俺の背中に顔を押し付けて泣いてらっしゃる……!


 糞、これならヤンデレモード全開で首でも締めてきた方がなんぼかマシだ。

 どうしてここで弱々しさを強調してくる!?

 俺がやはりエリンの乳を揉みしだきながら慌てふためいていると、綾子ちゃんは涙声で言った。


「……やっぱり中元さんは、他に好きな人がいるんですよね……」


 私知ってるんです。今もエルザさんのことが忘れられないんですよね。

 何度も何度もしゃくり上げながら、綾子ちゃんは大当たりな発言を繰り返す。

 

 ああ、そうさ。 

 確かに俺は毎日違う女の子の唇を吸って乳尻をまさぐってるけど、今でもエルザを愛している。

 もはやどこにも説得力がないが、なんだかんだであいつのことが一番なんだと思う。

 でも、それを悟られたら終わりなんだよ……。


 綾子ちゃんがいじけて交番に駆け込んだりしたら、その瞬間俺の人生は終わる……!


 未成年女子と同居してしまった以上、全員と良好な関係を維持しておかないと、俺の社会的地位が崩壊してしまう。

 ここはなんとかしてなだめなければ。


 しかし、一体どうすれば……。

 エリンを隠すようにして抱きしめながら、背後の綾子ちゃんの機嫌を取るなんて、体が二つなければできないんじゃないか?


「……あ」


 いや、そうだった。

 最近使ってなかったからすっかり忘れていた。

 俺には「二回行動」スキルがあるんだった。同時に二人の女を口説くには、やっぱこれに限るな。と人として最底の思考を繰り広げながら、俺はスキルを起動した。


【勇者ケイスケはMPを2000消費。二回行動スキルを発動】

【180秒の間、一ターンに二回の行動が可能となります】


 二回行動。それは因果に対する干渉。

 全く同時に異なる選択肢を選ぶという、物理法則を超越した現象を可能とするスキルだ。

 感覚としては、「見えない分身が俺の代わりに作業をしてくれて、一瞬後にそいつの記憶が入り込んでくる」といったところか。


 ・エリンを抱きしめて、綾子ちゃんから見えないようにする。

 ・くるりと寝返りを打って、綾子ちゃんをなだめる。


 一つの体では不可能な事象が、スキルの効果で処理されていく。

 

「……中元さん……」


 数秒後、唇にしっとりした感触がやってきた。

 どうやらもう一人の俺は、綾子ちゃんをキスで黙らせて、ご機嫌取りをしたようだ。

 ちょっとやり方は過激だが、致し方ない。よくやった、という感じだ。

 俺の本体はずっとエリンを抱っこしたままなので、見えない分身グッジョブと言いたい。


「……今のが中元さんの本心なんですか?」

「ああ。伝わっただろ?」


 瞬間。

 俺が一番好きなのは綾子ちゃんだよ、と言いながら、あのEカップを揉み倒した記憶が湧いてくる。

 ……は? 何やってんだもう一人の俺?

 誰もそこまでしろとは言ってないだろ? 何誘惑に負けてんだよ!?

 いや、しかし……一瞬だけそういうことをしてみたいと思ったのは事実だ。

 これが二回行動の厄介なところだ。

 

 本来切り捨てたはずの選択肢を拾い上げてしまうせいで、戦闘はともかく、人間関係においては自動ハーレム作成機となってしまうところがある……。


「A子と付き合いたいからB子のことはフラないと。B子も可愛いんだけどここは我慢」が常人の感覚だが、二回行動の世界では「A子もB子も好き! どっちともイチャイチャする!」が当たり前のように実行に移されてしまうのだ。

 ていうかB子とベロチューをしたあげくバストを弄るとか、それもうB子が本命じゃねみたいな気がするが、不可抗力なのだ。


「ま、まあ、だからほら、安心していいんだ。俺は綾子ちゃんのことを凄く大切に思ってるし……」


 直後、二回行動スキルで発生したもう一人の俺が、綾子ちゃんのパンツを脱がせながら「結婚しような」と囁いた記憶が入り込んできた。


 ……いや。

 いやいや。

 だから何言ってんだよ俺の分身は?

 なんか俺の手元に生暖かいパンツが絡みついてるし!? 


「……中元さん……う、嬉しいです、私……」


 今度は綾子ちゃんの耳元で「十八歳になったらすぐ入籍してあげるからね」と囁いた記憶が入り込んできた。

 やめろ、何やってんだ二回行動さんは!?

 効果が切れるまであと三分近くあるのも地獄なんだが!?


 その後もスキルの一人歩きは続き、俺は綾子ちゃんが十八歳になったら即孕ませて嫁に貰うという、後に引けない口約束を交わしてしまうことになったのだった。

 

 リオに続き、二人目のフィアンセ(未成年)をゲットにしたことになるんだろうか、これは。

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