第153話 お前ひょっとして

 脱衣所に着くと、アンジェリカ達はさも当然といった顔で上着を脱ぎ始めた。

 二人の美少女は惜しげもなくブラジャーを晒し、その豊かな膨らみを見せつけるようにして動き回っている。

 あまりの光景に、軽く立ち眩みを覚える俺がいた。

 

「お父さんは脱がないんですか?」

「……何か間違ってる。そんな気がしてならない」

「え?」


 アンジェリカの深い谷間に釘付けになりながらも、俺は言う。


「さっきから頭の隅っこで警告が鳴ってるんだ。お前らと風呂に入ったら、取り返しのつかないことになるんじゃないかって」

「でも私達の胸は、お父さんの体を洗うためにあるんですよ? これは泡を付けて、お父さんの腕や足を挟んでゴシゴシするためのものなんです。でなきゃここまで膨らんでる理由が説明できないじゃないですか」


 そうですよそうですよ、と綾子ちゃんが賛同する。

 ……そうなのか?

 人より大きな乳房というのは、父親の体を洗いやすく進化した結果なのか……?


「いや違う。いくら理性が劣化してたってさすがにわかるぞ。お前らの乳は、赤ん坊に吸わせるために膨らんでるんだ」

「……授乳に使うだけなら、乳首さえあれば十分だと思いません? わざわざ乳房全体が膨らむのは、父親孝行に使うために決まってますよ」


 アンジェリカは両手を広げ、まるで人々に神の教えを説く聖職者のようなオーラを醸し出していた。ようなというか、よく考えたらこいつは本当に聖職者なのだが、そんな神聖なご身分でありながら父娘姦を正当化しようとしているあたり、世も末としか言いようがなかった。


「考えてみて下さい、お父さん。女の子の二次性徴って、まず胸が膨らむところから始まるじゃないですか?」

「え、そうなの?」


 綾子ちゃんに確認を取ると、コクコクと首を縦に振られた。どうやら本当のことらしい。


「おっぱいは初潮が来る前から成長してるんですから、これは赤ん坊のための膨らみではないです。父親に愛されるために膨らむんです」

「……馬鹿な。人間の体が、そんな禍々しい設計思想なものか……」

「まだ赤ちゃんを作れない、十代前半の少女が敏感で膨らみかけの乳房を授かるんですよ? 生殖能力より先に、性感帯が発達するんです。どうして神様は、女の子の体をこうも淫らにお創りになられたんでしょうか? もちろん、母親が妊娠している間、娘が父親の相手をするためにです。父親の性欲は発散されるし、娘は望まない妊娠をする恐れはない。おっぱいを使って楽しく親子のコミュニケーションができる。ほら、幸せ家族計画じゃないですか」

「違う! そんなのは間違ってる! 大体その幸せ家族計画とやら、母親はすげー不幸じゃねえか……! 実の娘に夫を寝取られてんだぞ、よりによって妊娠中に」

「お湯湧いてますよ」


 アンジェリカが長々と反社会的思想を垂れ流しているうちに、湯船の方は準備ができあがっていた。

 ……ひょっとしてさっきの語りは、時間稼ぎだったのだろうか?


 いかんな、と頭を振る。


 ただでさえ口下手だってのに、理性低下でさらに丸め込まれやすくなっている。

 現在の俺は知力こそ落ちていないものの、普段より欲望の制御が難しい。そのためアンジェリカ達の乳を見ていると、あまり頭が働かなくなってしまうのだった。

 これでエリン戦は大丈夫なのかと一瞬心配になるが、あいつは幼児体型なので色香に惑わされる恐れはまずなかったりする。

 

「寒いからさっさと入りましょうよ、風邪引いちゃいますよ」


 ほらほら、と背中を押される。

 釈然としない気持ちのままぼーっとしていると、アンジェリカ達は競うように俺の服を剥ぎ取り始めた。

 俺の知る限り、最も卑猥なイベントが始まった瞬間だった。




 一時間後。

 俺は洗面所で髪を乾かしながら、罪の意識に苦しんでいた。


 十代の少女とお風呂に入り、洗いっこをする。

 これだけでも重罪だろうに、よりによって一度に二人の少女と致してしまったのだ。未成年が二つ。おっぱいが四つ。罪に罪を重ね、もはや犯罪のミルフィーユである。


「……罪の味ってのは、甘いんだな」


 俺はそっとドライヤーのスイッチを切ると、リビングに戻った。

 よろよろとソファーに近付き、力なく座り込む。

 

 バスルームの方からは、アンジェリカ達の声が聞こえてくる。女の子の風呂は長い。まだ二人ともやることが残っているらしく、中々出てこない。

 きゃっきゃとはしゃいでいるところからすると、途中から水遊びに発展したのかもしれない


 ああやって少女達が仲睦まじく戯れている声を聴いていると、全部夢だったんじゃないかと思えてくる。

 俺は一人で入浴を済ませて、あとからアンジェリカと綾子ちゃんが一緒に風呂に入り始めたんじゃないかって。

 俺は無実なんじゃないかって。

 そう思えてならないのだ。


 けれど視線を下げると、内ももに髪の毛が絡みついているのが見える。

 金色の直毛と、長く黒い直毛。アンジェリカと綾子ちゃんの髪の毛。こんなものが股間付近に付着している以上、さきほどの犯罪行為が現実にあったことなのはまず間違いないだろう。


 ご先祖様に申し訳ない。

 俺はいい歳して、十代の少女とえちえちな行為に及ぶような人間に育ってしまった。

 ……でもよく考えると、何代も前の先祖だと十代で妊娠するのが普通な時代の人だから、逆になんとも思われないんだろうか? どうなんだこれ?


 一人で混乱していると、ベッドの上で体育座りをしているフィリアと目が合った。やけに顔が赤い。

 

「そういやまだ着替えてなかったな」


 乙女な反応で気付いたが、今の俺は腰にタオルを巻いただけという有様なので、フィリアからすれば直視ははばかれるのだろう。

 男性経験のない女神官さんには刺激が強すぎたかな、と少々反省しながら着替えを取り出し、袖を通す。


「……ん?」


 が、途中で違和感を抱き、顔を上げる。

 フィリア、幼児退行してる割には女心を感じさせる振る舞いだったよな、と思ったのである。


「フィリア?」


 そういえばこいつ、普段のノリならアンジェリカ達に混ざって風呂場に突撃してきそうなものだが、今日は混じって来なかった。

 

「……まさかお前……」


 正気に戻ったのか?

 嫌な予感を覚え、すぐさまステータス鑑定を試みる。

 しかし肝心の備考欄には「中元圭介にオムツ替えされることに喜びを見出している」としか書かれていなかった。

 これだけでは判断がつかないし、なによりこれで正気に戻っていたとしたら引く。シリアスな悪役だった人が、年下男にオムツを穿かされて幸福感を得ているのはかなりきつい。


「……そんなはずないよな」


 フィリアは相変わらず知性を感じさせない顔で、首をかしげている。虚ろな青い目が、まっすぐに俺を見つめていた。

 もしもこの動作が演技だとしたら、こいつは名女優だ。

 

 そこまでの器用さは、持ち合わせていなかったと思うが。

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