第151話 下準備
思わず綾子ちゃんの両肩を掴み、「でかした!」と叫ぶ。
「精神的なデバフばっかじゃないか! 本当にそう聞こえたんだな? 間違いないな?」
「そう、ですけど……」
「使い方はわかるよな? 頭の中で説明があったはずだ」
「……中元さんにも聞こえてたってことは、幻聴じゃなかったんですね」
別に俺にも聞こえていたわけじゃないのだが、一々指摘するのも面倒なのでやめておく。
俺は適当に話を合わせつつ、さっそく三種のデバフを弱めの出力でかけてもらった。
「よし」
表面上はなんの変化もないが、これで俺は道徳心、理性、信仰が軽度に低下した状態になったはずである。
この手のデバフは効果時間も長い方なので、頻繁にかけ直す必要もない。
エリン対策が順調に進行していることに満足感を覚えながら、俺は綾子ちゃんに声をかける。
「さ、帰ろう」
「嫌です」
「……帰ろう?」
「意味が分かりません。どうしてここまで来て何もしないんですか? 何を考えてるんですか?」
意外な頑なさを見せる綾子ちゃんだった。
これは説得に骨が折れそうだな、と思わず肩をすくめる。
「……きちんと説明してくれなきゃ、嫌です。女の子をこんなところまで連れてきておいて、女装おじさんとだけ遊んで帰るなんて。中元さんは酷い人です」
「えーとな」
なんと説明したものかと考え込んでいると、綾子ちゃんは音もなく距離を詰めてきた。
「……何かしてくれなきゃ、嫌です」
「……何かって、具体的にはどんな?」
「き、キスとか」
「なんだそんなことでいいのか」
それで満足するなら、と唇を吸う。ほのかに甘い、少女味の柔肉。綾子ちゃんの下唇はアンジェリカよりは薄いが、リオよりは厚い。
個人差があるんだよな、などとどうでもいいことを考えつつ、ついでに乳も揉んでやる。
ずっと気になっていたEカップのサイズ感をやっと堪能できたわけだ。
……ふむ。
なるほど、これはいいものだ。ただの哺乳器官にしておくにはもったいない弾力である。揉まずに放置するのは罪としか言いようがない。なので俺が揉みしだくことによって、人類は巨乳の無駄使いという原罪から解放されるのである。
「善行ってのは気分がいいな、念入りに揉んでおこう」
「……えっ? えっ?」
唖然としている綾子ちゃんをくるりと回転させ、尻も撫でる。ほどよく引き締まった曲線は、手のひらがよくなじむ。
「どうしたんですか急に?」
「……前も撫でた方が……いや駄目だろ……」
もう手遅れな感はあるが、言い訳させてほしい。
これは何もかも、デバフのせいだ。
今の俺はモラルや理性が低下しており、可愛い女の子に迫られると、勝手に手が出てしまうのである……。
「くそ……猿かよ俺は……」
「よかった……ちゃんと女の子にも興味あったんですね……!」
しかし怪我の功名とでも言うべきか、綾子ちゃんの機嫌はすっかり直ったようだ。
「中元さんには、ノンケの心がわずかでも残ってる。それがわかっただけでも十分です……」
何を言っているのかわからないが、綾子ちゃんは泣いていた。何かに安心しているらしかった。
俺は適当に相槌を打ちながら綾子ちゃんを背負うと、急いで自宅へと送り届けることにした。
道中、何度も手が意思とは関係なく動いて綾子ちゃんの尻を撫でまわしたが、そのたびに【大槻綾子の好感度が9999上昇しました】とメッセージが流れた。
地獄だった。
「ただいまー……」
マンションに戻った俺は、倒れこむようにして玄関に座り込んだ。
獣と化した己の肉体を制御するのは、多大な精神力を要する作業だった。やはり最強の敵は、いつだって自分自身なのかもしれない。
「おかえりなさーい」
トタトタと足音を立てて駆け寄ってくる気配。アンジェリカの声だ。
顔を横に向けると、白い生足が視界に飛び込んできた。脛から膝、膝から腿となぞるようにして視線を上げていく。
どうやらアンジェリカの奴、下半身は下着以外何も身に着けていないらしい。
上半身はだぼっとした白Tシャツで、なのにブラが黒という組み合わせなので見事に透けている。
相変わらず目の毒な娘である。
もの凄く危険な存在と言える。
「あー……すまんアンジェ、今日はあんまり近付かないでくれ」
「えっ。酷くないですか。あんなに熱烈な赤ちゃんメールを送ってきたのにその態度はなんですか!?」
せっかく授乳しやすい恰好に着替えたのに! と意味不明なことを言っている。
心当たりなどこれっぽっちもない言動は当たり前の如くスルーして、本題に入る。
「話せば長くなるんだが、今の俺はデバフがかかってる」
「……戦闘があったんですか?」
「まあな。けどデバフはわざと食らったんだ。エリン対策の一環でな」
「デバフを食らうとエリンさん対策になるんですか?」
「色々あるのさ、抜け道が。とにかくそういう事情だから、このデバフは解除できないんだ。主にモラルや理性を低下させる性質のを食らったんで、正直自分でも何をするのかわからない状態にある」
「理性なき義父と、一つ屋根の下ですか……」
ゴクリと唾を飲む音が聞こえた。
とてつもなく嫌な予感がする。
「おとーさん、さっきからずっと目を合わせてくれませんけど……ひょっとして」
言うや否や、アンジェリカは滑るようなモーションで俺の隣に正座した。
そしておもむろに、その大きな乳房を俺の顔面に押し当ててきた。
「……や、やめろ……本当にシャレにならないんだよそれ……」
「お父さん、顔赤い……照れてるんですか?」
「……マジでやめろ! お前やたらいい匂いするんだよ! うっかり孕ませちまったらどうするんだ!?」
「凄い……私のおっぱい撫でながらお説教してる……お父さん、本当に理性が劣化してる……!」
アンジェリカはぽろぽろと涙を流していた。
嫌がっているのではなく、感動の涙なのだと容易にわかる表情だった。
「やっと妊娠できるんですね……。私、ずっとつるつるのお腹周りがコンプレックスだったんです……早くここをぐるりと妊娠線で覆いたくてたまらなかったんです……! あれは既婚女のチャンピオンべルトですからね、なんとしても欲しかったんです」
「……お前の生殖にかける情熱は凄いな……」
「さ、早くベッド行きましょうね。今すぐ妊娠すれば生まれるのは来年の年始でしょうし、そのあとすぐ第二子を孕んだら同じ年に二回出産できる可能性がありますからね! これは素晴らしいことですよ!」
「……お前もう、脳みそまで子宮が詰まってる感じだな。……ひょっとしてアンジェって、昔助けた子宮が人間に化けて恩返しにきたとかいう設定だったりするのか?」
「子宮を助けた経験があるんですか?」
「あるわけないだろ」
俺も大分混乱しているのである。
支離滅裂な言動を繰り返しながら、ずるずるとアンジェリカに引きずられていく。
ああ、このまま禁断の父娘姦が始まってしまうのか……とうなだれていると、何か柔らかいものとぶつかった。
腕を組み、仁王立ちしている綾子ちゃんであった。
こめかみに浮いた青筋が、一連の会話はばっちり聞いてましたよと如実に物語っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます