その魔法は、キズを治していません! 妹から婚約者を奪われた姉は、隠れていた才能で……

甘い秋空

一話完結 その魔法は、キズを治していません! 妹から婚約者を奪われた姉は、隠れていた才能で……


「エルザのような偽聖女は、僕の婚約者として相応しくない、婚約破棄だ」


 突然、どこかの令息が宣言し、言われたエルザ様は、固まりました。



 私はギンチヨ、伯爵家令嬢です。


 私の先輩であるエルザ様の屋敷の中庭で、二人でお茶会を楽しんでいたところに、いきなり、令息が割り込んできて、修羅場が始まりました。



「クロード様、お体のケガは、治ったのですか?」

 エルザ様が、驚いています。


 栗毛の、まぁまぁイケメンは、クロードと言うのですか。

 あれ? もしかして、例の侯爵家の三男かな。



「私は、偽聖女ではありません。少しですが光魔法を使えますので、正式に、聖女として、末席に控えております」


 そうです。エルザ様は、聖女の一人として、認められています。


「そして、毎日、侯爵家に通い、クロード様のケガを治癒してきましたのに、なぜ、そんなことをおっしゃるのですか」


 やはりそうでしたか、この令息は、先日、落馬でケガを負い、ベッドから起き上がれなくなったという、例の侯爵家の三男ですね。



 エルザ様は、悲しい顔で、令息の言葉を待ちます。



「ケガは、お前の妹が、治してくれたよ」

「彼女こそ、本当の聖女だった。お前は偽物だ」


 令息は、通常ではありえない事を言いました。



 私は、聖女でもあり、思わず立ち上がり、言いました。


「重いケガは、数日をかけて治癒するのが通常ですよ」


 重いケガは、急に治癒させると、患者さんの体への負担と、聖女の魔力消費が大きいので、ゆっくりと数日をかけて治癒させます。


 瞬時に全治させたとしたら、その女性は大聖女です。



「誰だ、お前は?」

 鋭い視線が、私の方に向きました。


「伯爵令嬢のギンチヨ様です。私のお客様に無礼は困ります」


 エルザ様が、止めに入ってくれました。


「たかが伯爵令嬢が、侯爵令息の僕に意見をするな」

 これは、絶滅させるべきパワハラ令息ですね。


「綺麗な銀髪だな、顔も良い。僕の愛人になれ」

 セクハラ令息でもあるのですね、断罪決定です。



「私たちの婚約は、両家で決めた政略結婚ですので、破棄となれば、両親の承認を得る必要があります」


「それなら、今、承認を得てきた」


「え?」



「僕は、お前の妹と、婚約を交わした」

「そしてお前の追放も決めてきた」

 令息は、得意顔です。



「私の、光魔法が弱いのが原因なのですね……」

 エルザ様は泣き崩れました。


 私は、違うと思いましたが、この状況では言えません。




    ◇




 傷心のエルザ様を、教会にお連れしました。


「不便をかけますが、しばらくは、この教会で身を隠して下さい」


「分かりました、私に出来ることがあれば、言って下さいね」

 心優しい彼女です。


「それでは、治癒室のケガ人を治して頂ければ、助かります」


「魔力の少ない私の光魔法に、大きな治癒は難しいですが、出来ることはしたいと思います」


「大丈夫です。エルザ様には、不思議と、何かしらの力を感じますから」




「ここが治癒室です。奴隷の方が原因不明のケガで運ばれており、なぜか治りが遅くて困っています」


 どうも光魔法と相性が合わないケガみたいです。



「奴隷がケガをしないように配慮するのは、貴族の義務として、法で決められています」


 エルザ様は、知識が豊富です。このような方が、人の上に立つべきです。



「実は、エルザ様の妹が買われた奴隷です」


「え? 聞いていません。使用人だけで十分なはずですが」



「買われて数日で、ケガをして、ここに運ばれて来ました」


「分かりました。私の光魔法で、治癒のお手伝いをいたします」


 エルザ様は、意識を集中します。



「あの、ギンチヨ様……」

「この患者さんのケガは、呪われたケガです……」


「闇魔法の影が見えます」

「誰かのケガを、この方に移したようです」


 え? エルザ様は、呪いが見えるのですか。



「元に戻しますね」


「私の魔力で、少し補助します」

 面白そうなので、お手伝いします。


「ありがとう、術者の呪いを反射させるだけなので、そんなに魔力は必要ありませんので、少しだけで」


 エルザ様が祈りを捧げました。



「治った」

 ケガで動けなかった患者さんが、立ち上がりました。


 これは奇跡です。



「でも、困りましたわ、ギンチヨ様の魔力が気持ち良くて、力が余計に入ってしまいました」


「倍返しになってしまったかも」


 エルザ様が困っていますが、呪いをかけた者の自業自得なので、大丈夫ですよね。




    ◇




 あの侯爵令息は、ケガが再発し、さらに悪化したため、亡くなったと聞きました。


 侯爵令息のケガを奴隷に闇魔法で移したのはエルザ様の妹だったようです。彼女にも、反射した呪いが刺さり、大ケガの痛みの中で、亡くなりました。




「ギンチヨ様、お久しぶりです」


 実家が取り潰しになり、忙しかったエルザ様ですが、一段落したとのことで、当家を訪れてくれました。


「エルザ様、お久しぶりです」


「神殿での、闇魔法の訓練はいかがですか」


 エルザ様は、闇魔法についてSランク級の才能が隠れていることが判り、神殿での保護の下、キズを他に移すなどの魔法を研究しています。



「ギンチヨ様、先日は素晴らしい令息様をご紹介頂き、ありがとうございました」


 私の知人を、エルザ様に紹介したので、その後を心配していましたが、お二人は、来月、式を挙げるそうです。



 ところで、私の運命の人は、いつ現れるのでしょう?





━━ fin ━━



あとがき

 最後まで読んでいただきありがとうございました。

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