荒野の旅人

第1話

果てしない荒野にいた。

どこを見渡しても灰色の地面が続いている。

いつからここにいたのだろう。

昔のことを忘れてしまったみたいだ。

状況を確認しよう。

革ジャンとダメージジーンズ、ドクターマーチンを身につけていて、右手の人差し指にはシルバーリングが嵌めてある。

髪はロングヘアで無造作にくくっている。

どこから来たのだろう。どこへ向かおうとしていたのだろう。

雲が空を覆っており、時間もわからない。

空腹と疲労感を感じている。

何か食べなければ。いや、水を飲まなければ。


なぜ...?

なぜ生きようとしているのだろう。

本能に従う意味はなんなのだろう。

生命維持のための活動をして、その先に何があるというのだろう。

どこを見渡しても灰色の地平線が続いているだけなのに。

いいだろう、何も考えない方が楽だ。

固い地面に寝転がって死を待ってみる。

あ、怖い。

死ぬことじゃなくて、孤独が怖い。

今気づいた。私は独りだ。完膚なきまでに孤独だ。恐ろしい。死んでもいいと思考したはずなのに、恐怖に抗えず、走り出した。

誰かいないのだろうか!!

涙が出た。

おかしい。死んでもいいはずなのに、なんでこんなに恐ろしいのだろう。なんでこんなに誰かに会いたいのだろう。私は何を忘れてしまったのだろう。なんでこんなところにいるんだろう。

灰色の地面を走る。誰もいない荒野を縦横無尽に駆け巡る。

自由だ。自由だと思った。自由を求めていたはずなのに、なぜこんなに満たされないのだろう。

おかしいおかしい、とにかく何か、何でもいいからこの恐怖を埋める何かが欲しい。このままじゃ嫌だ、誰か、誰か。

走る、走る、得体の知れない恐怖に追われて走り続ける。

心臓が破裂しそうなほど生きている。

暑い、暑い、体が熱を発する。

視界の端に、大きな木が見えた。

ああ、やっと何かを見つけた。

方向転換して、木を目指して走る。

他には何もない。あの木に縋るしかない。

何でもいいから、私を満たして何かを与えて欲しい!

ああ、身体が痛い。久しぶりに走った気がする。どうでもいい、走れ、あの木に辿り着かなければ、

どうなるかなんて考えるな、お前は走るしかないのだ。

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荒野の旅人 @kobunasui

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