第1話

重たい扉を開くと、麝香の香りがお出迎え…

僕はこの甘くてやわらかい香りにもまた浸る

僕はこの香りが好き…


奥からイカつい見た目の店主が、

「いらっしゃい 今日はどこやんの?」

と、僕に話しかけてくる。


「今日は… 耳… 軟骨…」

僕はこの痛みに生かされてる。


「いつも通り、麻酔なしでいいんだよね?」

「すぐ始める 奥に来て。」

店主の言われた通りに着いてく。

正直僕はこの人が苦手だ。

何を考えてるか分からないから。

でもこの人がサディストのおかげで僕は生きる心地を、痛みを得ている。

言い換えればこの人に生かされてる。


「軟骨は安定までに時間かかるし、出血量も多い。開けるのは簡単だけどアフターちゃんとやれよ」

なんて言われてるが、それより僕はその痛みが欲しかった。


"ザクッ"


音ともにピアスの穴がまたひとつ空く。

そして じーん とした痛み。


これだ。これでいい。

この痛みが生きてる心地。

ひとつまたひとつ 穴が増える度

僕は生まれ変われる気がした…


「ありがとう。お代はここに置いとく。また来るよ。」


そう言って、僕は店を後にした。


あぁ、まだ夜。

開けたばかりのピアスの痛みとともにネオン煌めく街を歩き、1人家路について眠る。


目が覚めたらきっと、あの痛みがまた恋しくなるのだろうと思いながら

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