第6話 空間都市

 サイボーグやアンドロイドの研究を続け、やっと博士の研究が、ある程度までくると、そこから先は、結構早かった。サイボー後、アンドロイドと、立て続けに第一号ができてから、実験体制が整うと、その研究は、実験段階に入り、その状況を見ながら、並行して、量産への体制を着々と進めていたのだった。

 実験には、慎重に慎重を重ねて、十分な期間を要し、国家からも実用可能な許可が出た。さっそく、企業との営業に入ったが、その間に博士の側では、独自の量産方法を編み出していて、密かに、一企業に絞って、量産開発を進めていた。まずは量産施設の確保であったが、それもスムーズに行えて、実際に量産にも入っていた。

 しかも、量産方法には複数が存在し、博士が一任した企業にだけ許可された方法が導入され、あとは、一般企業向けの、限られたアンドロイド製作だけしかできないようになっていた。

 このことは、法律でも守られていて、要するに、博士の研究は、国家として公認の事業だったのだ、

 当然、管轄は文部科学省になり、そこで行われた研究は、そのまま、国家直轄の企業に委ねられることになった。

 その企業は、国営というわけではなかったが、ほぼ国の機関と言ってもいいくらいで、博士もそこに対しての絶対的な発言力と、立場としては、派遣顧問のような立場となっていたのだ。

 そこでは、アンドロイドの全面的な開発と、サイボーグが扱えた。

 前述のように、サイボーグというものの扱いは、実にデリケートで、他の企業ではとても扱える代物でもなかった。

 しかも、半分は生身の人間なのだから、そのメンテナンスは結構ハンパではない。下手に民間に任せてしまうと、サイボーグの寿命は、ほとんどないといってもいいだろう。

 それでもサイボーグが必要なのは、他の星や、未来からの、肉体を狙ってこられた時のための対策でもあった。

 今のところ実際にはそのような事実はないが、かなりの確率で、そのようなことが起こるのではないかという懸念が、当時にはあり、実際に未来において、その予感は的中するのだが、国家も、その考えに同調し、というよりも、

「博士のいうことだから、万が一にもウソはないだろう」

 という、国家も、

「そこまで信用するのか?」

 というほど、博士に全幅の信頼を寄せていたのだ。

 博士は、科学者としても、タイムマシンなどの開発においても、SF的な発想としての協力者として、参加もしていた。

 その他の研究に関しては、博士は一切かかわることはなかった。ただでさえ、サイボーグ、アンドロイドの研究にはかなりの対応時間がとられる上に、これは博士側からの要望だったのだが、タイムマシン関係への積極的な関与だけで、本来なら、一人の人間のキャパシティをはるかに超えていたのだが、

「よくできたものだ」

 と周りは感心していた。

 実はこれこそ、国家にも極秘だったのだが、博士はすでに自分のダミーを作成することに成功していた。

 ダミーに一定期間だけ、自分の頭脳のコピーを移植して、その間は博士としての機能を発揮していたのだ。

 ただし、継続性に決定的な欠点があり、タイムマシン研究に携われる時間は、十時間までと決まっていた。まるで、電池の有効時間のようなものである。

 それでも、

「本来の研究の方が、忙しい」

 という理由で、一日七時間だけ、タイムマシン研究に尽力していた。

 他の人からバレることはなかった。それだけ完全なるコピーだったのだ。しかも、本物と、ダミーは接触してはいけないような設計になっていたので、本物を知っている人はダミーをほとんど知らず、逆も同じことであった。

 博士は、どちらの研究もおろそかにすることもなく、しっかりと、研究を重ねてきた。

 そのおかげで、

「タイムトラベルに対応できる。アンドロイドやサイボーグの開発も見えてきた」

 のだった。

 そもそも、人間ですら、タイムトラベルには、かなりの危険性を伴っていたので、特にサイボーグのようはデリケートであった。しかし、これは、サイボーグにとっても死活問題としての重要性を孕んでいた。したがって、タイムマシンの研究は、サイボーグの命運をかける意味もあって、博士が主導する意味が十分にあったのだった。

 そんなタイムマシンの研究が、いい方向に歩んでいたと思っていたのは、表の研究がうまくいっていたからだ。前述のように、タイムマシンの研究が飛躍的に発展し、タイムパラドックスの根拠を打ち消すことができたのは、パラレルワールドの存在があったからだった。

 パラレルワールドというのは、

「並行世界」

 あるいは、

「並行宇宙」

 とも言われ、つまりは、

「同じ次元に、もう一つの酷似した世界が存在し、その世界を、論理物理学の世界でも、その証明が現実化されている」

 ということから、パラレルワールドの存在が注目され始め、博士の研究において、

「パラレルワールドというのは、その存在において、過去に何か起こっても、それが未来に直接は影響しない。その辻褄を合わせるため、つまりは、タイムパラドックスの矛盾を解消することができる、唯一の存在なのだ」

 ということから、タイムマシンの開発が急に進んで、実用化されるようになったのだが、そのために、未来から過去にやってきた連中が、

「未来における問題も解決を、過去に求める」

 ということを考えたのだった。

「過去を変えたとしても、未来の我々に影響しないというパラレルワールドにいけるタイムマシンを開発すればいいのだ」

 という発想が未来に起こったのだった。

 元々、博士は、

「タイムマシンの開発では、パラレルワールドの垣根を超えることは、絶対にタブーだ」

 ということで、タイムマシンを開発したのだが、その発想は、実はパラレルワールドにいる博士にも、同じ考えがあり、そこまではうまくパラレルワールド同士で、交差した関係を持つことは禁止されていたのだが、パラレルワールド側で、肉体の衰えをいかにするかという存続問題が出た時、

「もう一つの世界に手を伸ばすことで、この世界の問題を解決しよう」

 という発想が生まれた。

 パラレルワールド側の博士には、確かにこちらの世界と同じ発想があり、

「犯してはならない、タブーである侵略行為」

 ということで、パラレルワールドを超越した干渉は、

「侵略」

 とされ、世界レベルでの犯罪となり、

「死刑だけでは済まされない大罪」

 ということであったが、それを国家ぐるみで、しかも、自分たちの今と未来を守るために行う、一種の、

「緊急避難的な発想は、今の法律の違法性の阻却の事由と同じ発想になるのではないだろうか?」

 という考えの元、世界レベルで、未来のパラレルワールドが、パラレルワールドの垣根を制御するタイムマシンの開発に成功したのだ。

 そこで、やつらは、未来から時空と、パラレルワールドの境界を越えて、この世界にやってきた。

 本来ならそれは世界レベルでの犯罪行為だったのだが、それを超極秘として、世界各国の首脳ですら知らない、国家レベルの、

「救済計画」

 が実施されていたのだ。

 その状況を把握できないでいた、もう一つの世界警察の目を盗んで。一部の過激な団体が、こちらの世界に、

「若い肉体」

 である、サイボーグを求めてやってきたのだ。

 もちろん、目的は、その肉体である。それ以外は、どうすればいいのかということを、深く考えることなく、計画を実行した。

「サイボーグは、肉体を維持するには、その精神もともにあってこその問題だ」

 ということであるのだが、悲しいかな、パラレルワールドの連中には、そこまでの解釈はなかったのだ。

 そのため、彼らは、こともあろうに、この世界と、パラレルワールドのトンネルを、空間に作ったのだ。

 それも、いわゆる、

「疑似空間」

 というもので、その空間は、こちらの人間には見えなかった。

 というか、そもそも、向こうのパラレルワールドは、未来の世界なのだ。

 こちらの世界のような感覚ではなく、科学力もハンパではない。しかし彼らも知らなかったのだが、トンネルを超えてこちらにやってくると、頭の構造は未来とは隔絶され、レベルは過去に戻ってしまう。そのことを、まったく理解していなかったのだ。

 なぜなら、パラレルワールドというのは、あくまでも、

「並行世界であり、同一次元であるからだ」

 ということなのである。

 だから、どんなに文明が発達した未来であっても、行ける過去の範囲はかぎられていて、しかも、その過去へのトンネルが作れるのは、彼らの科学力をもってしても、疑似空間でしかないのだ。

 しょうがなく、疑似空間を作って、こちらへの侵略を本格化させようとして、実際に計画に移したのだが、想像していたものと違ったのだ。

 当初の計画通りに、疑似空間にサイボーグをおびき寄せ、向こうの世界に拉致するところまではよかったのだが、本来の目的である、

「若い肉体の確保」

 は思うようにいかなかった。

 なぜなら、こちらの世界のサイボーグを連れていって、向こうのアンドロイドに移植しても、拒否反応がすごくて、使い物にならなかったり、移植できたとしても、すぐに肉体が亡んだりした。

「なぜなんだ?」

 と、彼らには、その理屈がまったく分かっていなかった。

 最初、こちらの世界でも、サイボーグの消失を問題視していたのは、博士を中心とした一部の人間だけだった。

 なぜなら、当時はまだ、サイボーグの存在は、極秘状態だったため、これを事件にしてしまうと、極秘に研究していたことがバレてしまい、ここまでの努力が水の泡だったのだ。

 だから、必死にサイボーグ失踪はひた隠しに隠していた。

 それができたのも、サイボーグの記録が、公式の世界にはなかったからだ、

 人間でいえば、

「戸籍がない」

 という状態であったことを幸いに、博士はできるだけひた隠しにしてきた。

 だが、そのうちに、

「本当に極秘にする必要があるのだろうか?」

 と考えるようになった。

 公式の世界では、アンドロイドだけがいればいいだけで、サイボーグの研究は、将来に向けてのものであり、存在自体を消してしまうことはなかったのではないかと思った。

 ただ、失踪事件が起きてしまったことで、もう公開するわけにはいかなくなった。それを公開してしまうと、博士に対しての、世界のほとんどの人が失望するからだ。

「人類の救世主」

 として崇められている存在の博士が信頼できないとすれば、

「誰を信用していけばいいんだ?」

 ということになり、世界で、人がそれぞれを信用できないという問題に直面し、アナーキー状態になるかも知れなかったのだ。

 すでに博士の存在や行動変動は、社会全体を動かせるようになっていたので、博士の身体は自分だけのものではなく、

「世界の国家が共通で守らなければならない特別扱いの人間」

 になってしまっていたのだ。

 未来におけるパラレルワールドでも、博士の存在は知っているのだが、博士の影響力がそこまでとは知らなかったようだ。これほどの科学力を有していながら、それを役立てることはできない。

「なぜかって? それは、この世界がパラレルワールドで成り立っているからさ」

 と言って、未来の人からすれば、あきれたという顔になるだろうが、実際には、その過信が、過去においては、致命的だったりする。

 だから、未来からこちらに来ている人を見つけることができないのは、科学が発展していないからではなく、それぞれの世界に、絶対的な結界が存在しているからだということになるだろう。

「パラレルワールドというのは、まるで鏡に写った、いわゆる鏡面反応のようなものではないか?」

 と言っている科学者がいて、博士はその科学者のその話を気にしていた。

 実際には、その説に共鳴したというよりも、

「その説はありえない」

 と思っている方なのだが、どうしても気になるのだ。

 その理由はいくつかあって、その一つが、

「証明できないからだ」

 ということであった。

 基本的に博士が考えていることで、他人が考えたことと共鳴した場合には、まず絶対に証明できることが大前提であった。

 しかし、この場合は大前提の時点で挫折したのだ。

 ということは、

「この説は信じられない」

 と言い切ることができるのだが、それも証明できない。

 最初は、

「なぜ、証明できないのか?」

 という、その理由を考えていたが、そのうちに分かるようになったのだ。

 その理由として、まずいえるのは、

「共鳴反応を、論理的に証明できないことからだ」

 と思ってたのだ。

 鏡面反応というのは、

「鏡に写ったものは、左右は対称に映るが、上下が対称に映るということは絶対にないのだ」

 ということであった。

 この件に関しては。さすがに博士にも証明はできなかった。

 だが、実際には、パラレルワールドである、侵略者の世界では、解決していた。未来なのだから、それもありなのだろうが、同じ世界の未来では、絶対に解決できないことになっているのだ。

 これは、この世界の運命であり、パラレルワールドにも、同じような証明できないことがあり、こっちの世界では、かなり前から証明されているような、

「まさか、今さらこんなことが証明されないなんて」

 ということになっていたのだった。

 パラレルワールドという世界において、証明できないことは、

「パラレルワールドという発想そのもの」

 だったのだ。

 ではなぜ、こちらの世界を侵略できるくらいに分かっているのに、理解できないのかというと、彼らの頭では、そもそも、

「同一次元における、もう一つの世界」

 という理論が存在していなかった。

 開けたこちらの世界を、パラレルワールドのような世界だと思っておらず、同じ世界だとは思っていない。

 なぜなら、時代を超越しているからだ。

 彼らの科学力をもってしても、同一時代のもう一つの世界に入ることはできない。だから、それがタイムマシンの変形という形で開発されたというのは、彼らにとっての、

「偶然の産物」

 でしかなかったのだ。

 それが分かっているから、我々の世界は、彼らから侵略を受けるのだ。まさか、彼らの信じていない概念でしかないパラレルワールドに侵略に来ているとは思わない。まったく別の宇宙に来ていて、

「宇宙がこれだけ、無限を証明している世界を作り上げているのだから、同じような存在の生物がいる星があっても不思議ではない」

 と考えたのだ。

 こちらの世界であれば、偶然をスルーはするが、存在自体を疑っているのだから、最初から証明などする必要のない世界で、この世界を証明するだけ無駄だとまで考えているおだった。

 パラレルワールドというものを信じる信じないかということを、それぞれの世界で、まったく別の考えになっている。

「疑似空間を作り出したこの世界は、果たしていくつ存在しているのだろう?」

 二つだと思うのは浅はかでると思うくらいに、発想は複雑化しているのであった。

 パラレルワールドの科学者あ、いや、そもそも、そこの住人の発想は、こちらとはまったく違っていた。

 特に一番の問題は、

「モラルや常識、そして、宗教の違い」

 だったのだ。

 こちらの世界での正義は、向こうでは悪。そしてこちらの悪は向こうでは正義、だから、こちらでタブーとされていることも向こうではできることになる。だから、彼らはそのことを知らずに、他の土地で行動を起こせば、そこに、トラブルが生じるのは、当たり前のことだ。

 しかし、彼らはこちらの世界のように、隣国とかかわりを一切持とうとしない。かかわりを持つ時は、戦争をするという意思をハッキリとさせた時にしか、行わない。

 そもそも、戦争にモラルなどないと考えている彼らには、そもそも、モラルという概念がないのかも知れない。だから、こちらの世界に肉体を頂戴するということも、

「別に俺たちは悪いことをしているわけではない」

 と思っているので、悪気も何もないのだ。

 やつらにしてみれば、命が存在しないサイボーグの身体をいただいて、何が悪いというわけだ。

 確かに、これがアンドロイドであれば、窃盗という程度で、話し合いの余地もあるだろう。

 彼らにも、こちらに提供できるものもあるのだから、彼らもそれを否定もしていないつもりのようだ。だが、サイボーグということになると、半分は人間である。こちらの世界では、

「誘拐殺人」

 ということになり、普通であれば、今の時代では、

「よくて、無期懲役、最悪は死刑」

 ということになるのだ。

 しかも、それを国家、いや世界レベルで行っているのだから、いわゆる国際法ということになる。これは、こちらの世界では、戦争も辞さない状態で、下手をすれば、

「絶滅戦争」

 ということになるだろう。

 だが、問題は、こちら側にもあった。

 彼らが作った疑似空間でのターゲットは、あくまでもサイボーグである。アンドロイドの開発は、世界的にも認められていたが、当時はまだ、国家に対しても機密事項だっただけに、これを問題にすることは、

「国家を欺いた罪」

 として、ほとんど昔あったとされる。

「国家反逆罪」

 に等しく、極刑が基本であった。

 だから、これを国家の問題にするわけにはいかない。幸いなことに、サイボーグを盗まれたことで、国家に気づかれるということも、国民や国家に何か問題が発生するということもなかった。だからこそ、とりあえず様子を見るしかないということだった。

 ただ、博士はその時、重大なことを忘れていた。

 アンドロイドはもちろんのこと、感情を込めると、

「サイボーグはフランケンシュタインのようにはならないだろう」

 という微妙なところで結界を踏みそうな問題を、実際に実証もせずに、ここまで来たという事実であった。

 これは、非常に証明には困難なことである。何しろ、フランケンシュタインという話が書く物語であり、比較ができないからだった。

 そのことは、博士だけではなく、機密プロジェクトに入っている数名の科学者には分かっていたことだが、誰も口にしなかった。

「口にしてはいけないことだ」

 というタブーだと思っていたのか、最初から、証明は不可能だとして、スルーするしかないと感じていたのかのどちらかなのだろうが、

「自分ですら、スルーしてしまうのだから、もうあとは結果が答えを出してくれるしかないのだ」

 ということであったが、ひょっとするt、今回の出来事が、その結果を証明してくれるのではないかと、思うようになっていたのだ。

 完全な他力本願ではあるが、今回出現した疑似空間による空間都市が、ただ、市民の間に不安と疑心暗鬼を漂わせていることは確かであるが、この膠着状態を、国家が先制攻撃などをして、崩さないということを願っていた。

 そんな状態において、空間都市の連中は、こちらのことを彼らなりに考えていた。ただ、今まで戦争以外の他国とのかかわり方をしたことがなかったので、隠密にことを運ぶしかないと思っていたが、まさか数人とはいえ、自分たちの計画を知っている人たちがいるなど、想像もしていなかったに違いない。

 元々彼らの目的は、肉体だけだったので、肉体だけを持ち去るつもりであった。

 パラレルワールドの世界では、サイボーグや、アンドロイドという概念はない。ロボットという概念があるだけで、その違いは、

「意識、感情を持っているか?」

 ということであった。

 そういう意味では、こちらの世界でも、果たしてどこまで意識、感情、ひいては、感覚というものまで持っているのかということを分かっている人がいるかどうかである。

 これは、元々存在している他の生物だってそうだ。

 人間が見ていての、愛玩動物、ペットになりそうな動物であれば、文句なしに、感情が伝わってはくるだろう。

 意識くらいまではその存在くらい分かるのが飼い主というものだろうが、

「肌が合わないと思っている動物であれば、意識も感情も分からないだろう。さらに、感覚となると分かるはずがない」

 と思っている。

 その証拠として考えられることとして、

「意識と感情、どっちも存在していなければ、感覚を理解することはできないだろう」

 という思いであった。

 だから、下等動物に関しては分かるはずもない。だから、自分たちが作るアンドロイドやサイボーグには、せめて、感情くらいは分かってあげたいと思うのは、

「生みの親としての思いだ」

 と感じていたのだった。

 だから、少なくとも博士を中心とした、極秘開発チームの面々は、程度の大小こそあれ、アンドロイドやサイボーグに対しての感情は、分かるつもりでいるのだった。

 だからこそ、他の世界からの闖入者と、その目的が分かったのであって、他の人たちには分かっていないことだった。

 闖入者側としては、完璧な侵入だったので、まさか、自分たちの存在をこっちの人間が知っているなどということが分かるはずもなかった。彼らには、

「これほど楽なことはない」

 と思っての任務だったことだろう。

 だから、存在さえ分かってしまうと、彼らが何を目的にこの世界にやってきたのかが容易に分かった。

 そのため、対策として、アンドロイド、サイボーグ、すべてに、目をつけるようにして、さらに、これは以前から標準で装備されていたことだが、

「緊急時には、彼らの人工知能を一度停止させ、こちらから遠隔で操作できるように細工をしていた」

 ということで、急遽、アンドロイドやサイボーグの操作員の臨時招集を行っていた。

 まさか、このような事態になるということまで、予測していたことではなかった。このような細工を考えていたのは、元々ロボット開発への危惧とされた、

「フランケンシュタイン状態になっても、こちらから操作できるようにという、一種の救済措置だったのだが、まさか、それがここで役に立つことになるなんて」

という思いだったのだ。

 それが幸いしたのか、やつらの目的はもちろん、彼らの考え方の一部ではあるが分かってきた。少なくとも、こちらとは、モラルや感情がそもそも違っているということであり、ここからの対策は難しかったのである。

 だが、そこまで分かってくると、急にサイボーグの方が異変を起こし始めた。アンドロイドの方は問題がないのに、どうしたことなのか?

 異常のないアンドロイドに、サイボーグを観察させ、遠隔でその原因を調査していたが、そこで分かったことは、

「どうやら、やつらの作り出す疑似空間というところでは、サイボーグは、耐えられる環境ではないようだ。臓器移植の時に起こる拒否反応のようなものが、今ここで起こっている。このまま放っておくと、サイボーグは、壊滅するか、生き残ったとしても、やつらの世界の存在を脅かすことになるのではないだろうか?」

 ということであった。

 確かに彼らは、こちらのことを考えずに、肉体を盗みにきた。しかし、それもモラルの違いから、まったく悪いとは思っていないのだから、

「罪作りだ」

 ということになるのだろう。

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