第5話 おっさん達の宴

 火をつけてしばらくすると、鍋がコトコトと音を立て始め、味噌のいい香りが部屋中にひろがる。料理人のような凝った料理では無いが、特製の田舎風鍋だ。具材は地鶏、クリ、サツマイモ、自然薯、人参、そして野草をたっぷりと煮込んである。出汁は、昆布と煮干しでとった少し癖のある出汁を使っている。おれたち冬の奥山のどうぶつ達は、こういったクリやイモなどが大好きなのだ。田舎味噌をすこし多めに使った、塩辛めのイモをつつきながら熊吟醸を傾けると思わず声が出てしまう。


 「あ~、雑食動物に生まれて良かったぜぇ~」

 「お味噌の風味が、染みわたりますねぇ~」

 「なんや、熊て肉食動物ちゃうの?」

 「ん~、まあ、肉も好きだけど、9割以上は植物性のものを食べてるな。秋から冬にかけてはやっぱりドングリとかだな。」

 「ドングリは、挽いてピザ生地なんかを作ると美味しいですよねぇ…」

 「パスタに練り込んでも、野趣あふれる風味で美味いぜ。」


 ふと、来年はドングリ・イタリアンと地ビールをあわせてオクトーバーフェストなんかのイベントをやったら、お客さんがたくさん来て盛り上がるかな?ドイツ要素が少し足らないかな?などと商売の事を考えてしまった。ともあれ、ワイワイと喋りながら、干し肉や鍋を囲んで飲む酒はうまかった。みんな、日ごろの憂さを忘れてなんだかとても陽気な気分になってくる。酒のまわりやすいクマイがさっそく唄いだした。


 「汽~笛~ 一声~ 新橋を~!」

 「(ポッポ~!)」


 こいつは酔うと鉄道唱歌を唄うくせがあった。アルベルトも乗ってきて、三人でシュッポシュッポ言いながら八畳間を走り回った。いい歳してバカみたいだが、童心に帰ったようで何だかそれが楽しい。ただし、鉄道唱歌の歌詞は長く、いつまでも歌わせておくと東海道線を超えて九州、そして日本一周まで続きかねないので、沼津あたりで運休させることにする。


 おれも調子に乗って十八番のネタを持ち出した。金爆の替え歌だ。


 「クマすぎて!クマすぎて!クマすぎて! 辛いよぉ~!」

 「いやいや!クマすぎ!ってなんやねん(笑)!」


 アルベルトが腹を抱えて笑いころげている。クマイはこのネタは何度も聞いてるはずなのに大笑いしている。いろんな意味で感情の沸点が低いのがクマイの良い所である。楽しければ腹の底から笑い、他人の辛い話を聞けば同情してポタポタと涙を流す。そんな素直な感情をもったシロクマなのだ。その割に怒りの沸点だけは高いのか、天然だからあまり気にしないのか、こいつはあまり怒らない。ただ、ごく稀にガチギレすると怖いのである。クマイは安全とか人命についてはかなり厳格な考え方の持ち主なので、重大事故のニュースなどで機嫌が悪くなる時がある。純粋なクマイは、不注意や怠慢、そしてそれらをカバーすべきシステムの不備で人命が損なわれることについて、とてもセンシティブなのだ。


 その時、ガラッと扉があくと、


 「おっさん達、何してるの?」


 そんな冷めた声と共に狸三郎が入ってきた。


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