第4話 キノコ・たけのこ事件
クマイは携帯でごちゃごちゃと話していたが、既に出かけていた狸一郎には連絡がつかず、狸三郎だけが押しに負けて来ることになったようだ。まあ、若い狸一郎がデートをすっぽかしておっさん達との温泉旅行に来るようになったら、それはそれで問題だよな、とおれは思った。
なんだか、もうこうなったら人数は多い方が楽しいかもしれない。そんな事を思いながらおれは出入りの酒屋に行って注文を入れていた。そして、地元の商店街にある中規模のスーパーに行くと、今夜の料理の食材を買い込んだ。きちんと清掃さえすれば調理場は自由に使っていいと言われているので、今晩はおれが腕を振るうことになる。
とぼとぼと山道を歩いて温泉旅館にたどり着いた。丹沢の山の中に静かに佇む温泉旅館は、なるほど確かに「隠し湯」という風情を醸し出していた。せっせと山道をあるいていい汗をかいた俺たちは、まずは温泉を堪能することした。温泉は透明なアルカリ性単純泉で、神経痛、リウマチ、肩こりなどありきたりな効能が書いてあった。完全貸し切りの温泉は広々として、暖かさが芯まで染みわたってくるような気がした。
一っ風呂浴びるとおれはさっさと鍋の支度をしてしまい、炊飯器のスイッチをいれると部屋に戻ってきた。戻ると今度はアルベルトが語り手になっていて、彼が駆け出し雑誌記者のころ追っていた関西某重大事件の取材の話をしていた。さすがに関西人で話がうまいものだから、おれたちもついつい引き込まれてしまう。
「まず、事件の発端はな、食品大手のキノコ社の社長が自宅から拉致されたことだったんや。当日風呂に入っていた社長の家に、眼出し帽を被って散弾銃をもった4人組が押し入ってな…」
「こ、怖いですねぇ…」
「うちも食品関連企業だからな…他人事じゃないぜ。」
「そのあと、社長は自力で脱出したんやけど、今度はキノコ社の製品に毒をいれる、という内容の脅迫状が届いたんや。そして、キノコ社には現金1億円と、現有している金塊をわたすように要求があったんや。関西の食品流通はもう恐慌状態やで。そんとき、ワテはキノコ社の社長秘書に当てとったんやけど、口がかたくてなぁ…キャップにしばかれまくったわ。」
「そ、そのあとどうなったんですか?」
「続きが気になるぜ…」
「なんや、ようわからんうちに犯人が「キノコ、許したる」とか勝手に終息宣言したってな、ほんで別の食品大手のたけのこ社にターゲットを変更したんや…」
「それで、「キノコ・たけのこ事件」って言うんですねぇ。」
「けどな、他にも何社か脅されとったし、もしかしたら裏取引した会社もあるかもしれへんのや…」
話も良い感じに盛り上がってきて、記者狸も悪い奴じゃないんだな…と思い始めたころ、道中で頼んだ酒屋から酒が届いた。「熊吟醸」やら「芋焼酎
おれは、そろそろ下ごしらえをした鍋をもってきて、火にかけることにした。
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