第2話 ルポライター狸
ウキウキとした気持ちで家を出たにもかかわらず、唐突に面倒くさい奴に出会ってしまった。ルポライターのアルベルト
「おや、クロイの坊ちゃんじゃないですか! なんや天気もええし、どこかお出かけですかいな?」
「ああ、ちょっとそこまで、軽く散歩にでも行こうかと思ってね」
「散歩にしてはなんやえらい大荷物ですなあ、なんやどっか旅行でもいかはるん?」
「ええ! 実はクロイさんのお父さんの温泉旅館に招待されたんですよ!」
「…………」
クマイは良い奴だが、こいつはバカがつくくらい正直だ。このまま行くと、なんだかとても面倒くさい事になりそうだと思っていると、事態は想像よりもどんどん悪い方向へ進んでいった。
「なんや面白そうでええなぁ…… 温泉かぁ、なんやうらやましいわ!」
「ねぇクロイさん、よかったら狸山さんも誘ったらどうですかねぇ?」
「え? ああ、いい考えだな。でも、オヤジがなんというかな」
最悪だ。せっかくの静養が下世話なルポライターのタヌキと一緒ではたまらない。根ほり葉ほり聞かれて、話題になりそうなところだけ切り取られてあること無いこと、面白おかしく悪の一族みたいに記事にされたらと思うと冷や汗が出る。なんとか断る口実を探そうとしているうちに、
「ええ、はいはい、そうなんですわー。ワテも忙しいんですけど、是非にと言われましてん。せっかくですからなぁ、ワテも同行させてもらえたら最高ですわぁ。そうですか、ありがとうございます、えらいおおきに」
おれが逡巡しているうちに、この狸はオヤジに電話して勝手に話をまとめてしまった。おれの携帯にオヤジからのものと思われるLINE通知がピコピコと来るが、もう読む気にもなれない。
「坊ちゃん!お父さんがぜひ一緒に、て言うてくれましたわ!」
殴り殺したり噛み殺してやろうかと思ったが、ことは今となっては万事休すだ。しかもクマイは
「大勢で、みんなで行った方が、楽しいかもしれませんねぇ!」
「そ……そうだよな。人数が多い方が楽しいもしれないよな……」
ここであからさまに不機嫌になるのも大人げない。なんだかなぁ、という気持ちを抱えつつ、俺は気持ちを切り替えて温泉に向かうことにした。そのとき、クマイがまた何やら思い付きを口にした。
「せっかくですから、
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