第10話 戦前、戦中、戦後…なんで愛が知ってるの?
「やっぱりその時代はハエはいっぱいいたでしょ? とくに、その時代は女子は台所担当って決まってて、台所にハエがいっぱい出て来たらいやじゃない?」
とろとろしながら話を先に進めてしまう
それは台所担当でなくてもいやだけど。
「で、もともと絹の糸の研究で、カイコの研究とかしてたその研究所がそのハエの研究をやって、有名になって。それで、戦後って時代になって、高等女学校っていうのがなくなって、大学といまの高校とに分かれたときに、その
はい。
はえ、ではなくて、はい……。
しかし。
明珠
唯一の理系学部だから、ほかの学部と単純に比較はできないけど。
でも、明珠女の大学で県外からも学生を普通に集められるのは、生活科学部だけらしい。
「だから、戦後すぐってころは、明珠女の教室って、ガラスの筒がいっぱいあって、そのなかにうじ虫がいっぱい
ちょっとどころか。
かなりぞっとする。
そんな恐ろしい話をしておいて、愛は自分のアップルティーを平気で飲んだ。
話を続ける。
「それから、天文部のほうは、戦争中に陸軍が明珠女の建物の上に高射砲造っててね」
高射砲というのは飛行機を落とすために空に向けて撃つ大砲だったと思う。
ここは工業都市
その飛行機に対抗するために、ここに高射砲というのを造ったのだろう。
「その建物が戦争に負けて返還されて、もちろん大砲は取り払われたんだけど、その建物が高校のものになって、どうせならその高射砲のあったってところに何か造ろう、ってことになって、望遠鏡、ってことになって、それで、天文部ができたんだよね。だから、天文部も、明珠女のいまの高校ができたときからある」
「はい」
「科学部できたのってそのずっと後だから、先にあった生物部と天文部を合併するなんてできないんだよ」
と愛が言う。
……って。
それの説明だったの?
「……って」
と、
由己はもともと小さいし、ベッドの高さが低いので、愛を見上げる姿勢になるのだが。
「なんでそんなに知ってるの?」
なるほど。
ここはそう感心すべきところなんだな。
「そんなの学校案内に書いてあるじゃん」……。
……とか言わないよね、愛?
言わなかった。
「ここの寮副委員長をやることになったときにね」
と愛は説明する。
「ときにねー」と延びる感じがまた萌えっぽい。
「
「でも」
と
愛の萌えっぽさにかかわらず、考えたことをきいてみる。
「寮委員会だったら、委員長、
「樹理もいっしょに聴いてたけど」
「けど」?
何だろう?
「樹理って、そういうの、興味ないからさ」
ああ。
やっぱり。
「眠そうだった」
と言って、愛はアップルティーを「喉を潤す」程度に飲む。
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