第5話 靴でアスファルトをてきとうに擦って

 (口上)

 この連載を休止しているあいだに、私が十年以上慣れ親しんだ鳥印のSNSが「×」印のSNSに変わってしまいました。

 鳥印のSNSには折に触れてさまざまな思い出がありました。愛惜をこめて、この鳥の物語を鳥印のSNSの思い出に捧げたいと思います。


 *    *    *


 学校の正門の守衛所で掃部かもり千枝美ちえみ澄野すみのあいの部屋番号を聞いた。

 正門から寮まで靴でアスファルトをてきとうにって歩く。

 由己ゆきがきく。

 「なんで学校の守衛所なの? 寮に行くのに」

 寮の管理をどうして学校の守衛さんがやっているのか、ということだ。

 「そこの寮、管理人さんいないから」

朝穂あさほは答えた。

 寮は学校の正門のすぐ近くだ。近くだから、寮の警備も兼ねている、ということだと思うけど。

 由己はふしぎそうに不服そうに言う。

 「女子寮なのに?」

 いろいろと貴重でデリケートな一〇歳台後半の女子が群れて住んでいるのに。

 ほんと、女子校にいると、女子ばっかり群れているのがあたりまえで、貴重さはともかく、デリケートさは忘れそうになる。

 貴重さも、かな。

 朝穂は

「ま、委員長が樹理じゅりならいらないでしょ?」

と言って由己に笑って見せる。

 自分がはぐらかしたのはわかっている。

 「いや」

 由己は口をとがらせた。

 「だって、いつも、部活のとき、樹理、ほかの学校の子まで寮に入ってくる、って言ってたよ。だから、樹理の力では止められないんじゃ……?」

 部活のときにぐちぐち言ってる、ってことは、止められてないから、という発想は、由己、たいへんによい。

 それ以前に、寮の問題を、部活のときにぐちぐち言わないでほしい。

 樹理。

 朝穂が説明する。

 「いまは監視カメラあるからね。男子が入ろうとすると警備員さんが飛んで来るよ。親でも絶対に止められるって」

 問題の古典文芸部の丹部たんべ咲江さえという二年生がこの寮に入った。

 咲江はいいところのお嬢ちゃんらしく、引っ越しが終わったのを見届けるためにお父さんが来た。

 ところが、そのお父さんが黙って寮に入ろうとしたら、警備員さんが飛んで来て止められたという。

 親まで止めることないのに、と、咲江は不満そうに言っていた。

 さすがに最近は着ていないけど、五月になって半袖でも汗ばむようになるころまで、この子はスプリングコートを着ていた。

 無愛想なのか、気弱なのか、鈍感なのか、それともじつは勝ち気なのかわからない、ふしぎな子だ。

 そういえば、このあいだの「歌合うたあわせ」には、この子、来てなかったな。

 古典文芸部にはほかにも来ていないメンバーがいた。

 勝てそうな子だけ選抜して出場させたのかな、古典文芸部。

 あのゆるい部がそんなことをするとも思えないけど。

 八重やえがき会は全員が出てその古典文芸部と互角だった。

 普通なら、古典文芸部選抜チーム対八重垣会全員で、全員チームが選抜チームに対して互角に持ち込んだからいいじゃん、と思うところなのに。

 うちの部は、しないんだよね。

 そういう発想……。

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