第4話 問題:心の飛翔能力も退化するのか?

 由己ゆきが言う。

 「だったら、心に翼があっても、どこかに飛んでいくっていうのは、負担なのかなぁ、だから飛んでいく必要がなくなったらそこから退化しちゃうのかなぁ、って」

 「そうなんじゃない?」

と言いそうになって。

 朝穂あさほは踏みとどまる。

 気もちとしては「そうなんじゃない?」と答えたい。

 目の前に安心安定な生活があれば、翼をはばたかせてどこかに行くより、いまの生活を選ぶでしょう、って。

 でも。

 いま、朝穂はんでみたい!

 あえて、「安心安定」ではないほうに。

 「じゃあ、その鳥の話、科学部に乗り込んで聞いてみよう」

 「はあ?」

 はたして、由己は、由己らしくない反応をした。

 続けて、

「科学部なんて、どこにいるかわからないよ」

ととても常識的なことを言う。

 たしかに、科学部が部活の部屋としてどの教室を使っているかは知らない。

 だいたい、まじめに部活をしているところなんか見たことがない。

 しかし。

 「あの掃部かもり千枝美ちえみって部長も、いっしょにいた澄野すみのあいも、寮生だよ。だから寮に行けばいいんだって」

 「えーっ?」

 さらにいやそうな由己の声!

 「だって、寮委員長、樹理じゅりだよ?」

 たしかにそうだった。あのうるさくてすぐ怒る橋場はしば樹理が寮委員長なのだ。

 いや。

 でも。

 そこで翼をはばたかせて翔ばないと!

 軽く樹理の上を翔び越してやる感覚で。

 「だからまだ帰ってないって」

 樹理はまじめだから、朝穂のようにいまの講演から逃げるように飛び出てくることはしないだろう。

 したがって、いま樹理はまだ体育館にいる。

 講演の前に終わりの会はすませているから、このまま帰って問題ない。寄り道はよくないかも知れないが、同じ学校の生徒しかいない寮に行くぐらいならいいだろう。

 朝穂が言う。

 「だからさ、さっ、と寮に行って、千枝美か愛がいれば部屋に入れてもらって、いなければさっさと引き上げればいいんだよ。樹理が寮に帰ってくる前に」

 「はあ」

 由己は感心したのか、ため息をついたのか、よくわからない。

 でも、続けて由己は

「じゃ、行こうか」

とさばさばと言った。

 ため息ではなかったらしい。


 ※ 次回の更新は8月1日の予定です。しばらく間が空きます。申しわけありませんが、何とぞよろしくお願いします。

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