第234話悪魔城 思惑

魔王の間にて、玉座に座るベルゼブは、京太達を待ち構えていた。


「あ奴らでは、止める事が出来なかったのだな・・・・・」



バアルの消滅。


キラーウッド、ダークエルフの敗北。


その事実が、ベルゼブを追い詰める。


それと、もう1つ。


一つ目の使い魔からの映像が途切れる寸前、

画面に映り込んだケルベロスを見たベルゼブは、

懐かしそうに笑みを浮かべた。


「まさか、『冥府の神』まで来ているとは・・・・・」


神と悪魔の戦争の時、

ベルゼブは一度、『冥府の神』オシリスと戦った事があった。



その時は、ケルベロスに苦戦し、

退散を余儀なくされた事を、思い出していた。



――あのクソ犬ども、切っても、切っても、すぐに再生しやがって・・・・・

  本当に、厄介だったな・・・・・・



頭を振り、忌まわしき思い出を振り払い、

ベルゼブは、近くに控える配下に声をかけた。



「エウリノームは、どうした?」



「はっ、森の異空間に向かった筈ですが、未だ連絡がございません」



――死んだとは、思わぬが・・・・・・



「連絡が取れ次第、祭壇に向かわせろ」



「畏まりました」



命令を受けた配下が、魔王の間から消え去ると、正面の扉が開く。


姿を見せる京太達。


ベルゼブは、その前に、合図を送り、

配下の悪魔達を、隠している。



「待っていたぞ・・・・・」



姿が見えるのは、ベルゼブと京太、それと仲間達だけ。



「ここまで来た事を、先ずは誉めてやろう。


 しかし、ここが貴様らの墓場だぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


その言葉を合図に、隠れていた悪魔達が、姿を見せる。


だが、京太にも、隠し玉がある。


「食事の時間じゃ。


 だが、早い者勝ちかもしれぬぞ」


その言葉に、正面の扉を潜り、

ケルベロスの大群が、魔王の間に入ると同時に、悪魔目掛けて走り出した。



ベルゼブは、次々に魔王の間に押し入る、ケルベロス達に驚いている。


「な、なんなんだ!

 この数は!?」



大量発生したイナゴの群れの様に、

隠れている悪魔を見つけては、食い散らかす。


ベルゼブ配下の悪魔達も、必死に抵抗するが

ケルベロスは、数に任せて襲い掛かる。


完全にケルベロス達の餌場と化した魔王の間。


それは、檀上でも変わらない。


玉座に、腰を掛けていたベルゼブに対しても、ケルベロスは、遠慮しない。


だが、魔王であるベルゼブも、必死に抵抗する。


飛び掛かるケルベロスを薙ぎ払い、首を斬り落とす。


だが、直ぐに傷が癒えると、ケルベロスは、再びベルゼブに襲い掛かった。


ここでも、数にものを言わせるケルベロス。


ベルゼブに、大技を使わせず、徐々に追い詰めて行く。


繰り返される攻撃に、徐々に疲労の色が濃くなったベルゼブは、

生き残っている悪魔を盾にして、逃亡を計った。


悪魔を食いちぎり、はしゃぐケルベロス達。


その様子を、魔王の間の入り口で、茫然と見ている京太達。



「私、『神』になる必要あったのかなぁ・・・・・」



そう囁くサリー。


「それ、私も思う・・・・・」


続くラム。


「深く考えない方が良いかも・・・・・・」


締めたのは、マチルダだった。


「ハハハ・・・・・」


から笑いをするしかない京太。


そんな中、ケルベロスが声を上げた。


「ガウッ!」


鳴き声を発したケルベロスに、アイシャが近づくと

そこには、屋上に続く階段があった。


ベルゼブも、その階段を使って、逃げたようだ。


「京太!」


急いで駆け寄る仲間達。


「行こう」



京太を先頭に、階段を駆け上がる。


そして、辿り着いた屋上で目にしたのは、床に膝をつくベルゼブと

漆黒の宝石の前で、椅子に座るエウリノームの姿だった。



「ベルゼブ様、今まで、ご苦労様でした」



ケルベロスの攻撃により、深手を負ったベルゼブ。


何故か、壇上の椅子に腰を掛けているエウリノーム。


普段なら、咎める所だが、今は、余裕がない。



「早く、回復の魔法を使え!」



エウリノームは、その命令に対して、首を横に振る。



「そんな無駄な事は、致しませんよ」



「無駄、だと・・・・・」



「はい、貴方のお役目は終りました。


 この先の事は、私にお任せください」



驚いているベルゼブだが、それでも言葉を返そうとしていた。



「何を言っているのだ・・・・・・貴様は、何を・・・・・」



エウリノームは、ベルゼブに、右手を差し出す。



「貴方も糧となるのです」



漆黒の宝石より、伸びる禍々しい触手。


その触手は、ベルゼブを捕らえた。



「き、貴様、裏切ったなぁぁぁぁぁ!!」



叫び声と共に、漆黒の宝石に吸い込まれたベルゼブ。



京太は、エウリノームの後ろにある、触手を放つ宝石に見覚えがあった。



――シャトの街で、ゴット フリートが使った『真っ黒な宝石』・・・・・


あれに、似ているのだが、

あれは、懐に入る5㎝程の宝石だった。


しかし、目の前の宝石は、直径5メートルを超えている。



――何を呼び出すつもりなんだ・・・・・



警戒を強める京太。


隙を見て、一匹のケルベロスが、エウリノームに襲いかかったが

エウリノームの周囲には、結界が張ってあり、跳ね返された。



「フフフ・・・・・無駄ですよ」



エウリノームは、右手を向ける。



「少し、足らないみたいですから、

 貴方達にも糧に、なって頂きましょう」



エウリノームの命令に従い、触手が、京太達に襲いかかる。


「また、触手!?


 悪魔って、こういうのが好きなの!」


騒ぎながらも、触手を躱すラム。


「そんな事無いから!」


リリスは、触手を鞭で切り裂きながら、訂正の言葉をラムに告げる。


「私を、あいつ等と一緒にしないでよね」


その声に反応するエウリノーム。


リリスを、発見すると、エウリノームの表情が歪んだ。



──ああ、そうか・・・・・

 

作戦が、失敗したのは、リリスのせいだと決めつける。


「そう言えば、裏切り者がいましたね・・・・・・

 悪魔が、人間の味方をするなんて、笑えます。


 消えなさい」


全ての触手が、リリスに襲いかかる。


だが・・・・・


リリスには、届かない。



「死なせません」


「はい、主が信じると言ったのですから」


クオンとエクスが、立ちはだかったのだ。



「グヌヌヌ・・・・・人間が、悪魔を守るだと・・・・・・」


「当然だ、僕達」は、リリスを信じると決めたんだぁ!」



京太が結界を切り付けると

大きなヒビが入った。



「なんだと!」



今迄にない程、驚きを見せるエウリノーム。


エウリノームの張った結界は、

対魔法防御、対物理攻撃を幾重にも施した結界。


それを一撃で、破壊されかけたのだから

エウリノームが焦るのも当然の事。



「クッ、このままでは・・・・・


 仕方ありません。


 少し足りませんが・・・・・・」



エウリノームの足元が光る。




いにしえより語られし、悪魔の王よ。


 我が声、我が願いに応え、この魂を以って、

 この地、この場所に、姿を現し賜え」


屋上の上空に、暗雲が立ち込め始めると

大声で笑う


「フフフ・・・・・ハハハ・・・・・

 これで、貴様らも終りだ!」



エウリノームひび割れた結界の中で、笑うエウリノーム。



「そんな事は、させないっ!」



京太は、再び結界を切り付けると

結界は、粉々に砕け散る。



「うぉぉぉぉぉ!」



そのまま、エウリノームに向かう。



「ハッハッハ、私は復活する。


 だが、貴様らは、ここで終りだぁぁぁ!!!」



エウリノームは、京太に切り倒された。



悪魔は、全員倒したが

暗雲は消えない。


それどころか、風が吹き荒れ始めた。


海も、荒れ始める。


島の周りを暴風が包み、この島から、誰の逃がすつもりが無いように思えた。


そんな中、漆黒の宝石が、空へと浮かび上がり、暗雲の中へと消える。



「あの宝石、術者がいないのに・・・・・」



京太は、エウリノームを倒した時点で、安堵していた。


だが、既に、エウリノームの術は、成功していたのだ。



暗雲に隠れた漆黒の宝石から、鼓動が鳴り始める。



『ドクンッ』!


『ドクンッ』!!


『ドクンッ』!!!


その音は、京太達にも届いていた。


空に浮かぶ漆黒の宝石からの鼓動が、地の底から響く。


その音は、どんどん大きくなり、やがて、地震を起こした。


鼓動に合わせて揺れる床。


その振動は、激しさを増し、京太達も立っていられなくなる。



「空へ退避!」



京太達が、空に避難して、暫くすると、

目の前に漆黒の宝石が現れた。


「グフフフ・・・・・」


宝石が割れると、中から悪魔が現れる。



「我は、【大悪魔ザーダ】。


 我が子供達よ、今一度、祝福を授けよう」



その言葉と同時に、地震が止むと

地上には、倒した筈の悪魔、竜魔族、魔人化した亜人達が現れた。


――嘘だろ・・・・・・


空中で、茫然とするしかない京太。


そんな京太の前で、ザーダは笑う。


「神よ、今一度、楽しもうぞ」


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