第233話悪魔城 先へ

仲間と離れて、1人になる京太。


『はぁ』っと溜息を吐く。


リリスは、会ったばかりでもあり、悪魔でもある。


その為、信用する事は難しい。




だが、言い分を聞く限り、見捨てる事など出来る訳が無い。


リリスは、ソニアと一体になった事で、記憶も受け継いでいる。


その為、ソニアしか知らない事を聞いても意味がない。




悩む京太のもとに、マチルダが近づく。


「京太様」


マチルダは、心配して覗き込む。


「あの・・・・・大丈夫ですか?」


「マチルダ!?」


京太は、驚きながら顔を上げる。


「京太様?」


「ごめん、考えが纏まらなくて・・・・・」


ソニアの件から、京太は、仲間が傷つくことを恐れてしまっている。


そう感じ取ったマチルダは、京太の正面に立ち、

両手で、京太の顔を掴む。


「京太様、しっかりしてください!

 もしかして、私たちの事で、悩んでいるのですか?」


図星をつかれ、思わず視線を逸らしたが、

マチルダは、逃がさない。


「きちんと、目を見てください!」


従うしかない。


マチルダと視線を合わす京太。


「私達の事ですね」


その問いに、再び、目を逸らそうとしたが、

マチルダが、それを許さない。



――京太様は、仲間が傷つく度に、辛い顔をしていた。


  ここに連れて来た事。


  私達の弱さ。


  全部自分のせいだと思っている。


  冗談じゃない!


  きちんと告げる。


  だからこそ、この場に来たんだ!!!・・・・・・


マチルダは、京太から、視線を外さない。


「京太様、私達は、自分の意思で、ここにいます。


 傷ついても、死んでも、

 何があっても、後悔はありません。


 それは、ソニアも同じです。


 悪魔と取引してまで、ソニアは、貴方の側で、戦う事を選んだのです。


 そんな、ソニアの気持ちを無駄にしないでください!


 京太様は、京太様の思った通りに進んで下さい!


 私達は、その意思に従い、ついて行きますから!」


 

マチルダの精一杯の励ましと覚悟の言葉を聞き、

京太の揺らいでいた心が、静まり始めた。


そこに、もう1人、姿を見せる。


「私も、その意見に賛成です」


姿を見せるサリー。


「サリー・・・」


「それから、もう1つ。


 ここには、お願いがあって参りました」


サリーは、真剣な表情を崩さない。


「京太さん、私にも力を与えて下さい」


「わ、私も、お願い致します!」


2人は、京太に頭を下げる。


先程、覚悟を聞いていた為、

長い話は、要らない。


「ありがとう・・・・・・でも、もう一度だけ、確認だけさせてほしい。


 本当に、いいの?」


「勿論です。


 京太様1人に、辛い思いをさせませんよ」


明るく答えるマチルダ。


横で頷くサリー。


「わかった、始めよう」



2人は、京太の正面に並んで立つ。



「我が名は、アトゥム。


 今再び、神の復活を望む。


 その名は『イシス』。


 魔法を司る神よ、今一度、この者の中に顕現せよ」



マチルダの前に現れた【魔法の女神イシス】。



「貴女が、私を引き受けてくれたのね。


 ウフフフ・・・・・嬉しいわ、これから宜しくね」


【イシス】は、そう言い残し、マチルダの体の中に入る。


儀式は、続く。


「我が名は、アトゥム。


 今再び、神の復活を望む。


 その名は『コンス』。


 月の神よ、今一度、この者の中に顕現せよ」


静かな風に吹かれて、

京太とサリーの間に姿を見せる【月の神コンス】。


不思議な魅力を放つ、漆黒の目を持つ女神。



「そう・・・・・貴方が・・・・・

 わかった・・・・・」


【月の神コンス】は、そう呟いてサリーの中に溶け込んだ。



神の姿が消えると同時に、体内から放たれる『神の力』。


その力を受け、2人の服装は変化し、髪の色も変わった。


『神の力』が収まると、2人は、自身の姿に驚く。


「この衣装、凄く軽い。


 それに・・・・・」


「『ええ、魔力で縫ってあるわ』って、どうして私、わかるのかしら?」


今まで、魔法が使えなかったサリーだが、

魔力があることに、驚いている。


「魔法が使えるようになったんだよ、

 それに『アイテムボックス』もね」


サリーは、京太の言葉を信じ、念じて見ると、

そこに『アイテムボックス』の入り口が開いた。


「わっ!」


サリーが驚く横で、同じように『アイテムボックス』を開く

マチルダも驚いていた。


「2人共、そろそろ戻るよ」


色々試している2人を連れて、京太は、仲間の元に戻る。


すると、待っていたラムが2人の姿を見て、駆け寄ってきた。


「とうとう決めたんだね」


「うん、これからは力になるよ」



元気に告げるサリー。


そこに近づくリリス。


「伝言だよ」


そう告げたリリスは、サリーの前に立つと、目を瞑る。


そして、『フッ』と空気が吹くと、リリスが目を開けた。



「サリー、私はもう、『神』には成れないけど、

 皆を守れたから満足よ。


 それから、貴女は、成し遂げたみたいね。


 なんか嬉しい。


 後の事と、セリカを宜しくね」



その声、その雰囲気、間違いなくソニアだった。


「ソニア!

 貴女は、どうして、勝手な事ばかりするのよ!」


サリーの声に、笑顔で答える。


「・・・・・ごめんね。」


「きちんと、答えてよ!」


「・・・・・後の事は、リリスに任せているから。


 といっても、私も聞いているから、変なこと言わないでよね。


 じゃぁ、またね」


「ちょっと、ソニア!」


呼びかけたサリーに、ソニアの返事は無かった。


目を閉じたソニアが、再び目を開けると、そこにいたのはリリスだった。



「今のはソニアよね・・・・・」


「そうよ、ソニアからの伝言よ。


 ソニアの魂と私は、一体になっているの。


 だから、こうしたやり取りが出来るのよ」



「なら、もう一度・・・・・・会えないかな?」


そう告げたサリーに、リリスは、苦笑い。


「ごめん、あれは、片方の魂を、強くする為に

 大量の魔力を使うから、今は、勘弁かな・・・・・」


 

「わかりました・・・・・・有難う御座います」


肩を落とすサリー。


励ますように、ラムがサリーの肩に手を置いた。


「ソニアの言葉が聞けただけでも、良かったじゃない」 


「そうよね」


納得するしかないサリー。


そんなサリーに、思い出したかのようにリリスが告げる。


「言い忘れていたいたんだけど 

 私とソニアは、一心同体だけど、

 新しい媒体があれば、離れる事が出来るかもよ」


「!!!」


「それ、どういうこと?」


「あくまでも、『もしかして』の話だけど

 前例がないわけでは無いのよ」


本来、悪魔は、肉体が破壊されなければ、

その者から、離れる事が出来ない。


だが、過去に、肉体を乗り替えた者がいるらしい。


あくまでも、噂の域を出ない話だが、

それでも、サリーとラムは、希望が持てた。


リリスの話は続く。


「それに、媒体といっても、それなりの魔力を持った者の体でないと

 媒体には、成りえないわ」


「それって、魔力が多い人でないと、駄目ってことよね」


「まぁ、そう言う事よね」


その言葉を聞いても、2人が、動じることはない。


「詳しいことがわかったら、教えてくれる?」


「ええ、勿論よ。


 戦いが終わってからになるけど、調べてみるわ」


「ありがとう」

 

2人は、覚悟を決め、この戦いに臨む。


――もう一度会って、文句を言ってやるんだから・・・・・


ラムとサリーは、リリスの同行を認めた。


「京太は、どうなの?」


リリスの話は、事実だ。


それをアトゥムの記憶から、理解しているが

その方法までは、わからない。


――僕は、どうしたら・・・・・


悩む京太の手を、アイシャが掴む。


「京太の好きにしたら良い。


 わらわは、何処までも一緒じゃ」


「主様には、わらわがおる。


 任せておけ」


「クオンもいるよ、忘れないで、お兄ちゃん!」


次々と声をかけて来る仲間達。


背中を押された京太は、決めた。



――リリスを連れて行こう・・・・・・


「リリー、僕は、君を信じる事にしたよ。


 だがら、一緒に行こう」



京太は、手を差し出す。


リリーは、その手を見つめている。


意識を失っているソニアと話した時、

羨ましく思った『仲間』の存在。


今、そうなるかもしれない者達が、手を差し伸べている。


この状況に、緊張して、固まっているのだが、

誤解を招く。



「リリー、僕を信頼しなくていい。


 でも、信用して欲しい」



リリーは、緊張が解けると、ゆっくりと手を伸ばし、京太の手を掴んだ。


「私は、リリス。


 私は、皆を裏切らない」

 

その言葉を信じ、リリスは、正式に京太の仲間となった。



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