第232話悪魔城 破綻2

バアルの怒りは治まらない。


それを表現するように、バアルの背には、空に浮かぶ数十体の悪魔。


地上には、キラーウッドとダークエルフ。


逃げる隙間を失くすように、間合いを詰める。




その様子を、ラムとマチルダも黙って見ている訳では無い。




ラムは、剣で応戦し

マチルダは、魔法を使い、キラーウッドたちに攻撃を仕掛ける。


しかし、焦りからなのか、

ラムの剣は、キラーウッドの枝に阻まれ、的確な攻撃が出来ていない。



その光景を、近くの岩に座り、見学しているソニアの体を得た悪魔。



独り言のように、呟いている。


「わかっているわ、そんなに急かさないでよ!」


「えー、えー、約束は、守るってば!


 でも、貴方は、それでいいのね、2度と戻れないわよ・・・・・・」



「大丈夫、『誘惑』は、したけど、落とさないから・・・・・。


 まぁ、特等席で、見てなさいっ!」




ソニアの体と融合した悪魔は、岩から立ち上がると、

ラムとバアルたちの間に立った。




「がっつく男は、嫌われるわよ、バアル。


 まぁ、私は前から貴方の事、嫌いだけどね・・・・フフフ」



余裕の表情を見せる女性の悪魔に、苛立ちを隠せないバアル。



――人の事を虚仮こけにしおって・・・・・・



「名も持たない悪魔の分際で、この我に逆らう意味を、とくと味わえ!」


合図に従い、キラーウッドが一斉に襲いかかった。


『もう、本当に大丈夫なの!!!』


「わかったわよ・・・・本当に、焦らさないでよ!」


そう告げたソニアに憑依した悪魔が、右手を一振りすると、

その手に握っていた氷の剣が、氷の鞭へと変わる。



鞭の握りには、真っ白な薔薇と蔦が装飾されていた。


蔦は、悪魔の腕に巻きつくと、棘を突き刺し、血を吸いあげる。


すると、白い薔薇が赤黒く染まり始めた。



その鞭を見て、バアルは、悪魔の正体がわかった。



「【リリス】様・・・・が何故・・・・・」



「フフフ・・・・・ようやくわかったようね、バアル君」



ソニアの体を乗っ取った者の正体。


それは、悪魔族の頂点の1人、サキュバスの女王リリスだった。


リリスは、正体を隠す必要が無いと判断すると、オーラを解き放つ。


「私に敵意を、向けたのですから

 それ、相応の覚悟は、ありますよね」



リリスは、動きの止まったキラーウッドに

容赦のない攻撃を繰り出す。


呆気無く粉砕されるキラーウッド達。


慈悲の無い攻撃と、相手がリリスだと判明し、

キラーウッドとダークエルフ達の戦意は削がれた。


膝をつき、許しを請うダークエルフ達。


「リリス様、どうか、ご慈悲を・・・・・」


「それは、『死』を望むのかしら?」


「・・・・・出来ましたら、貴方様のお側に」


「それもそうね。


 お土産は、あった方がいいものね。


 わかったわ。


 貴方達、最初の命令よ、この子達を守りなさい」


「はっ!」



生き残っていたダークエルフ達は、ラムを背に、武器を構える。


「えっ、どういう事?」


訳の分からなくなったラムが、思わず声を上げると

リリスは、笑顔を向けた。


「この子達は、貴方達の味方になったのよ」


気軽に話しかけて来るリリスに、

思考がついていかない。



「なんで、そうなったの?

 そもそも、貴方、悪魔じゃないの!?」



「フフフ・・・・・そうよ、私は悪魔、サキュバスのリリス。


 『リリー』って呼んでね」




「・・・・・じゃぁリリー。


 ソニアは、どうなったの?」



「いるわよ、わたしのここに・・・・・」


リリスは、胸に手を当てる。


「殺したの・・・・・・」


冷たく響くラムの声。


「前にも言ったでしょ、半分正解、半分不正解。


 私は、あの子と一つになったの。


 言っておくけど、これは、あの子の意志でもあるのよ」



レビーは、ソニアの心の内を漏らす。



「あの子、ずっと悩んでいたのよ、

 戦いに負け、自身の無力さを知ってね」


「それで、悪魔に体を売ったの・・・・・」


ラムは、感情的を露にする。


それは、リリスに向けたものだけではなく

自身に向けたものでもあった。


気付かなかった事。


何も出来なかった無力さ。


その全てが混じった叫び。


「な、なんで、いってくれなかったの・・・・・

 私は、どうしたら良かったのよぉーーー!!!」


叫ぶラムに、リリスは冷静に答える。


「そんなの、私にもわからないわ。


 それよりも・・・・・」


リリスの向けた視界の先には、

バアルと、その仲間の悪魔達がいる。




ダークエルフ達が、寝返った事で

戦力を失ったバアルは、部下の悪魔達を差し向ける。


「亜人など、どうでもいい。


 減ったなら、増やせばいいだけの事。


 それよりも、それよりもだ・・・・・

 リリス様、本気で、そちらに付くのであれば、

 お覚悟を!」


京太を精神的に追い詰める予定が

リリスの気まぐれで、破壊された為

怒りが露になっているバアルは、叫び、指示を飛ばす。


「さぁ、行け!

 奴らを地祭りに・・・・」


『ガブッ』


言い終える前に、

バアルの頭が消えた。


リリスが、指を差して笑う。


「ワハハハ・・・・・感情的になり過ぎて、見えていなかったのね、

 ほんと、馬鹿な男」



バアルに咬みついたのは、101匹いるケルベロスの先行部隊。


京太達よりも先に、戦場に到着したケルベロスは、

敵と判断したバアルに、静かに歩み寄り、

背後から、バアルの頭に、咬みついたのだ。


ムシャムシャとバアルの頭を堪能しているるケルベロスは

満足そうに、笑みを浮かべながら食べている。


それを見ている事しか出来ないケルベロス達は、涎を垂らし、

悪魔達に視線を向けた。


だが、その視線にも気付かず、司令官を失った悪魔達は、呆然自失。


「バ、バアル様が・・・・・」


戸惑っている悪魔達に、襲いかかるケルベロス達。


浮かんでいる悪魔達を地面に叩き落としては、食い散らかす。



時には抵抗を見せ、ケルベロスの頭を吹き飛ばした悪魔もいたが、

ケルベロスの頭は、直ぐに再生する。


そして、再び襲いかかり、悪魔を噛み殺した。


悪魔達に逃げ道は無い。


数十体いた悪魔達は、ケルベロスの後続部隊も合流したことにより、

101匹のケルベロスの前に、成す統べなく散った。


だが、ケルベロス達は、遊び足りないのか、

今度は、周囲の魔物を狩り始めた。


逃げ足の遅いキラーウッドをはじめ、一つ目の監視者など、

全てがケルベロスの餌食となる。



その間に、辿り着いた京太達は、無事、ラム達と合流を果たした。


「ラム、大丈夫?」


「うん・・・」


目の前には、ソニアの顔の悪魔リリスがいる。


その他に、ダークエルフ達がの姿もあった。


到着した時は、思わず剣を抜きそうになった京太だったが、

ラムの言葉で、思い止まり、現在に至る。



「説明して貰えるかな?」


京太は、リリスに説明を求めた。


しかし・・・・・。



「うわぁ~、貴方が、神の京太ね!」


リリスは、京太に抱き着く。


「!!」


「ちょっと!」


周囲から起こる、反発の声。


でも、リリスは離れない。



「ソニアから聞いていたけど、本当に可愛いわ、

 それに、私好みよ!」



「ちょっ!

 どういう事?」



リリスは、京太に抱き着いたまま話を始める。


「私の名前は、リリス。


 よければ、『リリー』って呼んでね」



「わかったリリー、話しを続けて貰っていいかな?」


「勿論よ」


リリスの話は、神と悪魔の戦いから始まった。


リリスは、あの戦争で、肉体を失った。


しかし、精神体は、偶然、消滅を逃れて、

魔界を彷徨う事となる。



そんな中、魔界の地で、人族の気配を感じた。


『もう、このままだろう』と思っていたのだが、

人族が、魔界に現れた事に興味を持ち、感じた方向に進んで行くと

そこで、波長の合う人族の肉体を見つけたのだ。


それが、ソニア。


直ぐに、肉体を乗っ取ることも可能だったが、

リリスは、気まぐれで、様子を見る事にした。


精神体である自分が、見つかる事は無いので

ソニアに寄り添いながら、魔界を巡る。


その中で、人族としての色々な事を教わると同時に

ソニアの抱えている悩みにも気付く。


だが、自分は、寄り添うだけの存在。


いつしか、この子の肉体を奪う事になる。


『わかっている。

 それは、悪魔として、何ら、間違ってはいない』



だが、リリスは、不満だった。


『誘惑』を使い、数々の悪魔や人間を手下にする。


出来上がるのは、『はい』としか言えない人形。


戦争も、つまらない。


もともと戦いは、好きでは無い。




だが、悪魔族の頂点の1人。


戦わない訳には、いかない。




神と悪魔の永い戦争。


産まれるモノは、何も無い。


『はい』しか言わない人形達も滅び、唯一生き残ったのは私だけ。


それも、精神体となり、食べる喜びも、生きている実感もない。


リリスは、後悔していた。


仲間の事でも無い、『神』を恨んでもいない。


ただ、『今度こそは』と願うは、1つ。


――次は、必ず、違う道を・・・・・。


そんな思いを持つリリスは、偶然、

ソニアに出会ったのだ。



ソニアと行動を共にし、色々と興味を持った。


『神の眷属』であることも知った。


だが、離れる気には、なれなかった。


そんな中、彼女が戦場で、傷つき、意識を失った。


『はやく、起きなさい!』


必死に、問いかけるが、答えは返って来ない。


リリスは、最後の手段に出る。


意識を失っていても、問いかける事が出来る『誘惑』。


誘惑の効果は、絶大で、ソニアの深いところまで入り込んだ。


それも、いとも容易く。


逆に心配になる。


――この子、大丈夫か?・・・・・


そんな事を思いながらも、リリスは、ソニアの心に接触する。



ソニアは、色々話してくれた。


自身と京太の出会い。


冒険者。


戦い。


仲間。


結婚。



そして、神であり、大好きな人。



ソニアの心と話の中には、いつも京太の存在があった。


ソニアの心に接触して

話を聞く度に、熱くなる自身の心。



――これが、私の欲しかったものなのかも・・・・・・



でも、ソニアの感情を知った今、肉体を乗っ取ろうとは、思わなくなっていた。



――あ~あ、肉体を乗っ取るつもりだったのになぁ・・・・・・



リリスは、肉体から去る事を決めた。


しかし、ソニアは、リリスの手を掴む。



「私、強くなれるの?」



「それは、間違いないわ・・・・・

 でも、『神』になれば、もっと強くなれるはずよ」



「でも、貴女は、どうするの?」


「んーーーまぁ、ここままかな・・・・・」


ソニアは、寂しそうな顔をした。


そして、決断し、手を伸ばす。


「一緒に行こう!」


「えっ!」


「私の体をあげる。


 でも、心は残してね、それと、仲間を守って。


 いい、絶対だからね!」



彼女の考えは、全くわからない。


――でも・・・・・いつか・・・・・



リリスは、ソニアの申し出を受ける。


「・・・・・わかったわ。

貴方との約束は、絶対に守る!」



「ありがとう」


その言葉を最後に、

ゆっくりと溶け合う2人。


体の奥まで、浸透していった。


そして、ソニアは、リリスとして復活したのだ。


全ての話を聞き終えた京太達。



「ソニア・・・・・」


気持ちの整理がつかない。


リリスを、仲間と扱っていいのかさえも分からない。



そんな状況の中、サリーが声をかける。


「わたしは、貴女を、仲間と認めたわけでは、ありません。


 ですが、貴方が、ソニアだと言うなら、放りだす気もありませんから」



サリーが、何処から話を聞いていたか分からないが、

今は、サリーの意見に従う事にした。



だが、問題は残っている・・・・・


その、もう1つの問題は・・・



「これ、何匹いるの?」


何故か、ラムの周囲に群がるケルベロス達。


答えるアイシャ。


「101匹じゃ」


「何処で飼うの?」


「屋敷に決まっておろう」


ケルベロスに懐かれているラムが、京太を見つめる。


「あ、うん・・・・・はい、頑張ります・・・」


まだ、問題はあるが、今は触れたくない。


前途多難である。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る