第231話悪魔城 破綻

その後、クオンが連れて来たエクス達と合流を果たした京太は、

ラム達の元へと走った。


「ん・・・・・」


その最中さなか、京太の背中で、目を覚ましたアイシャ。


京太達は、足を止めた。


「アイシャ」


心配そうな京太の声と同時に、視界に映る仲間の顔。


――わらわは、意識を失っておったのか・・・・・


状況を理解したアイシャ。




「わらわは、もう大丈夫じゃ。


 それより京太。


 お願いがあるのじゃ」




アイシャは、京太の背中から降りると、正面に立つ。




「わらわを『神』にしてくれ」




「本当に、いいの?」




「ああ、わらわの覚悟は揺るがぬ」




アイシャは、それ以上語らなかった。


ヴァンパイアの『始祖』であり、『女王』。


神になれば、その全てを捨てる可能性もあるのだ。


ヴァンパイアのままでも、不死に近い。


高い魔力と力。


多くの眷属。


その全てを捨てる事になるかもしれないのに、

京太と共に生きる為の力を得る事を選択した。



「わかった、始めるよ」


アイシャが、目を瞑ると

突然、右手に温かい感触が・・・・・


――姉上・・・・・・


目を開かなくても分かるラゴのぬくもりに、緊張がほぐれる。


京太の声が響く。



「我が名は、アトゥム。


 今再び、神の復活を望む。


 その名は『オシリス』。


 冥府を司る神よ、今一度、この者の中に顕現せよ」




京太から、湧き出た

神のオーラが、アイシャに流れ込む。




しかし、予想もしなかった事態が起こる。


京太から流れた神のオーラが、

アイシャだけでなく、ラゴも包み込んだのだ。




そこに、顕現する神『オリシス』。


冥府の神を名乗っているが、陽気な男だった。


「君?・・・・・いや、君達が僕の力を引き継いでくれるのだね。


 んーーーー、嬉しいよ。


 京太に託した甲斐があったよ。


 これから、宜しくね」




京太とアイシャの間に立つ『オリシス』は、

アイシャの中に、入り込もうとしたが

ギリギリの所で留まる。



「あっそうそう、これは、僕からのサービス。


 大事にしてね」



そう言い残して、アイシャの中へと入る。


すると、アイシャから神のオーラが浮かび上がった。


だが、その神のオーラは、

アイシャだけでなく、ラゴからも放たれていた。


儀式の最中だけあって、誰も口を開かないが

思わず、声に出して、驚きそうになる一同だが、

それ以上に、驚く出来事が起こる。




神のオーラで包み込まれているラゴの体から浮かび上がる剣。


ドラゴンソード。



ラゴは、本体であった筈の『ドラゴンソード』から切り離された。



驚きを隠せない、


ただ、呆然と見守る仲間達。


「凄い・・・・・」


感嘆の息を漏らしたのは、エクス。


そのエクスの目の前で、

ドラゴンソードは、ゆっくりと地面に突き刺さる。



静かに消えゆく神のオーラ。


その中心にあるのは、2人の姿。


「あれっ!?」


髪の色は、白銀に変わっているが、

2人の衣装は、黒のゴスロリ服のまま。


今までのように、衣類の変更は起きなかったが

京太と2人には、わかっていた。


今までと違う力。


ゆっくりと、目を開くアイシャ。


続いて、ラゴも目を開けた。


アイシャが笑みを浮かべた。


「京太、わらわの新しい仲間達を紹介しよう。


 我が、使い魔達よ、姿を見せよ!」



その言葉に従い、現れるナサド、ノーグ、ネラ、ヒム。

ライカンスロープだった彼、彼女。


身なりも髪色も変わり、『神族』としての風貌を醸し出していた。


そして・・・・・・


それぞれの横で『お座り』をしている三つ首の犬。


冥府の番犬『ケルベロス』。



「アイシャ、これは?・・・・・」


「わらわにもわからぬ・・・・・・」


代わりに答えるナサド。



「『オリシス』様より、『僕の愛犬、大切にしてね』と言われました」



最後まで気軽な『オシリス』。


「それで、この子達は、納得しているの?」



京太の問いに答えたのは、ケルベロスだった。


「我らは、アイシャ様に、忠誠を誓っております。


 これは、『オリシス』様のお願いだからではなく、

 我が同朋の言葉で御座います」



『同朋』という言葉に、何故か引っ掛かる京太。




過去に見た夢。


それは、眠れない時に、『羊が一匹、羊が二匹・・・・・』

と数える事は同じなのだが、京太の場合は、

『ケルベロスが一匹、ケルベロスが二匹・・・・・』と

何故か、羊ではなくケルベロスだったのだ。



その時は、夢の中の出来事なので、気にも留めていなかった。


しかし、目の前にいるケルベロスの姿は、夢に出て来たケルベロスに瓜二つ。



京太が、どうしても聞きたい事。


「アイシャ、この子達は、これで全員だよね・・・・・」


「・・・・・」


沈黙を貫くアイシャの目は、ナサドに向けられていた。


ナサドが答える。



「全部で、101匹・・・・・」


「えっ!?」


「ケルベロス達からの言葉ですが、

 『散歩も連れて行って貰えない。

  遊んで貰えない。

  外界の御飯も貰えない。


  する事が無かったから増えた。

  反省はしていない』だそうです・・・・・」



ケルベロスの夢は、彼らからのアピールだったと京太は知る。


「ごめん・・・・・アイシャ、これから頼むよ・・・・・」


「・・・・・ああ、わらわに任せよ」


何とも言えない空気の中、ラゴは、地面に突き刺さった剣を引き抜く。


「主様、これを・・・・・」


京太は、渡された剣を握る。


やはり剣には、ラゴの意思も記憶も残っていなかった。


ドラゴンを切る力だけが残った剣。


握りしめる京太。



「主様が、お使い下され、わらわの元の姿じゃ」


にっこり微笑むラゴ。


二度と、剣に戻れない事も理解している。



「わらわは、生まれ変わった。


 これからは、主様のややこを、たくさん産むのじゃ!」




そう言って、京太に抱き着くラゴ。


その光景に、『ムッ』とするアイシャ。




「何を言っておるのじゃ!

 京太の種は、わらわのものじゃ!」



2人が言い争う、いつもの光景。


京太はその姿に、『ホッ』とする。




その頃、ラム達に対する攻撃が、何故か止んでいた。


ラム達は傷つき、倒すには絶好の状態なのに

襲って来ない。


募り始める不安と、森の静けさに戸惑う。



「これ、どういう事?」


「わかりません。


 ただ、私達に出来る事は、体を休める事だけです」



「まぁ、そうなんだけど・・・・・」



『神』としての勘なのか、ラムには、どうしても腑に落ちない。



――皆と合流出来る迄は、なんとしても守る・・・・・・



決意を新たにするラム。


その後ろには、未だ意識を失っているソニアとサリーの姿があった。




意識を失っているソニア。


そのような状態でも、心は傷つき、思い悩んでいた。




――また、負けた・・・・・・

  何も出来なかった・・・・・・



意識を失っていても、悔やみ続けるソニア。



――私には、『神』になる資格など無い・・・・・・



ソニアは、自分の弱さを知っている。


だから、戸惑った。


『神』の力を得た時、自分がどうなってしまうのか?


――言えなかった・・・・・

  でも、皆を守れる力が欲しい・・・・・・



矛盾とも取れる考え。


1人で、夢の中のような場所を、彷徨っている。



そこに聞こえて来た声。


――力が欲しいのか?・・・・・・


何度も、心が傷つき、まともな判断が出来なかったソニア。



――力・・・・・それがあれば、皆を守れる?・・・・・


――勿論だ・・・・・


それ以上、答えない声の主。



――本当に、強くなれる?・・・・・


ここは『魔界』。


悪魔の精神体が、漂っていてもおかしくはない。


そんな場所で、ソニアは、その声に答えようとしている。



誰も気が付くことの出来ない場所での

声の主とソニアの会話。



――ねぇ、答えなさいよ!

  本当に、皆を助けられるの?・・・・・・


――ああ、そうだ。

  我が力を貸してやろう・・・・・怖がることなない・・・・・



声の主の魔法『誘惑テンプテーション


引き寄せられるソニア。


会話は続き、

ソニアは、まともな判断が出来ない所まで、引き込まれていた。


──では、良いな・・・・・


――うん、・・・・・おねがい・・・・・


――よかろう・・・・・・


  汝の願い、聞き入れた!!!・・・・・




地面に横たわっていたソニアが、急に浮かび上がる様に立ち上がる。



「えっ!?」


驚くラムの目の前で、ソニアから放たれた暗黒のオーラ。



「ソニア!」


激しく吹き荒れる風に、ラムとマチルダは、身動きが取れない。


「どうなってんのよぉ!!!」


その2人の他に、驚く者がいた。


この地で、指揮を執る悪魔、バアルだ



「どういう事だ!

 こんな事、計画には、無い!

 何が起きているんだ!」


計画を壊され、怒り狂うバアル。


京太の精神を破壊する為に、徐々に、仲間達を殺さず壊す。


ここまでは、上手くいっていた。


傷ついた仲間を見せる為に、攻撃も、一旦止めて

合流しやすいようにした。


なのに、何故・・・・・


誰が、邪魔をしたのだ。


「許さん!」



睨みつけているバアルの目の前で、吹き荒れる風が止む。


そこに立つ女性の見た目は、ソニア。


だが、漆黒に変化した髪。


レザーのような素材で作られた、露出の多い服装。


別人にも思える。


「ふぁぁぁぁぁ~」



体を伸ばし、大きく欠伸をする女性。



「ソニアなの?」


マチルダの問いに、彼女は答える。


「半分正解、半分不正解」


「では、貴方は・・・・・」



女性が、ラムへの質問に答えを返そうとしたその時、姿を現すバアル。



「貴様ぁ!


 何故、我の計画の邪魔をしたぁぁぁ!」

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