第224話悪魔城 顕現

戦いを終えたアイシャとラゴ。


ラゴは、ドラゴンソードから人型へと戻る。


「主様、新しいわらわは、どうじゃ」


笑顔で、聞いて来るラゴ。


――褒めて欲しいのだろうな・・・・・


そんな事を思いながら、ラゴの笑顔を見て、気が付く。


「ラゴ、『ニィー』って笑って!」


「なんじゃ、子供みたいに・・・・・」


「いいから」


仕方なく『ニィー』とするラゴ。


「あっ、やっぱりだ!」


「何か、おかしい所でもあったのか?」


「うん、牙が生えているよ」


「へ・・・・・・

 誰か、鏡、鏡を持っておらぬか!?」


騒ぎ始めたラゴに、

京太は、アイテムボックスから取り出した手鏡を渡す。




ラゴは、手鏡を片手に、口の中に人差し指を突っ込み、横に引っ張った。


すると、京太の言う通り、牙がしっかりと生えていた。



「これは、どういう事じゃ!」



何度も確認を繰り返すが、当然、消えることは無い。


ラゴは、アイシャに向かって走り出す。


「アイシャ!

 これは、どういう事じゃ!」


そう言って、アイシャに牙を見せた。



「おお!


 見事な犬歯じゃ。


 姉上が、ヴァンパイアの力を、授かった証じゃな」


「えっ!?」


「戦いの前に、言ったであろう。


 姉上は、些末な事は、気にしないと・・・・・」



確かに言った。


そして、受け入れた。



「これで、姉上とわらわは、本当の姉妹になったのじゃ!

 それに・・・・・」



アイシャは、ラゴに小声で耳打ちをする。


「その牙で、京太の血を吸えば、魔力も上がるのだぞ」


その言葉に、ラゴの目が、一瞬、光ったが、

直ぐに元に戻り、代わりに頬が赤くなった。


「もしかしてだが・・・、た、戦いの為といえば、

 主様の血を、合法的にす、す、吸っても良いのか?」



「勿論じゃ。

 初めての時は、わらわも力を貸すぞ」


完全にアイシャのペースに乗せられているラゴ。


その後も、アイシャの話を聞き、1人で興奮していた。




――これからが、大変そうだ・・・・・


ラゴ達から、静かに距離を取り、1人で歩きだすと、

ソニアが近寄る。


「京太、ラゴの件が片付いたなら、今度はこっちよ」


ソニアの視線の先には、薄い布の白い貫頭着を着たラムが、

ポツンと立っていた。


「京太さん、これ、恥ずかしいです・・・・・」


白い貫頭着は、薄っすらと透けており、肌が見えていた。


「ラムって・・・・・下着付けていないんだ・・・・・」



「じっくり見ないで下さいっ!


 それに、下は、履いています!」



「そうだね、その・・・・・ごめん」



お互いの顔が赤く染まる。



「あの~イチャコラするのは、いいけど、

 私達に、事情を話して貰えませんかね・・・・・」



冷たい視線を向けるソニア。


「あ、うん、そうだね」


冷静に振る舞う京太は、ソニアに仲間を集めて貰い、

ラムについて話す。



重傷で、魔力も枯渇していた。


あのまま放置していたら、魔力が戻らない可能性があったので

お互いの同意の下、1人の神の力を授けた事を、包み隠さず説明をした。


それを聞き、仲間たちは、羨望の眼差しを向けている。


マチルダが、手を上げる。


「私達も、その・・・・・『神の力』を求めれば、

 授けて頂けるのでしょうか?」


マチルダの質問に、辺りが静まり返る。


「うん、いいよ。


 でも、『神の力』は、戦闘の為にあるわけでは無いんだ。


 本来は、人々の暮らしを見守り、本当に困った時だけに使われるものなんだ」




皆もその事は理解しているが、京太の言いたい事もわかった。


話しは続く。



「それに、代償もあるんだ。


 まず、寿命が無くなる。


 同時に、身体に変化が起きて、

 人の姿をしているけど、人とはかけ離れた存在になる。


 成長も止まり、二度と、人として生きる事が出来ない。


 それに、最終的には、天界で暮らしてもらう事になるよ」



『やっぱりそうなるんだ』的な雰囲気に包まれる。



「もう1つ、重要な事がある。


 皆は、僕の眷属だけど、儀式の最中に、

 気持ちに迷いや疑問、恐れがあると、儀式は失敗する。


 そうなると、自我が消え、ただ暴れるだけの生き物になるんだ」



最後の重要な事。


この事を聞いて、彼女達は考える。


自身の事もそうだが、一番に考えたのは、京太の事。


自我の無い化け物に変われば、討伐対象になる。


そうなれば、京太は、私達を殺さなければならない。


その時の京太の気持ちを考えれば、簡単に『神になります』とは言えない。




最後に『よく考えて欲しい』と告げられ、その場は解散となった。



皆がそれぞれに考え始めた頃、少女が京太に詰め寄る。


「お兄ちゃん・・・・・」


クオンだ。


クオンは、旅の途中で、盗賊に両親を殺され、捕まっていた。


そこを京太に助けられてから、ずっと一緒に旅をして来た女の子。



旅に同行した頃は、『荷物になりたくない』という思いだったが

今は、『困っている人を助けたい』に変わっていた。


ただ、それだけの為に、誰よりも訓練をし、誰よりも先陣を切って来た。


クオンは、告げる。


「私でも、なれる?」


クオンの隣には、いつものようにエクスがいて、お互いの手を握り合っている。


そのエクスも真剣な表情だ。


まだ年齢も若く、小柄な少女だが、嘘は、つきたくない。


「なれるよ・・・・・」


クオンは、満面の笑みを浮かべる。


「じゃぁ、お願い」


「え!?」


迷いのない即答に、京太も驚いた。


「私ね、ずっと一人だと思っていたの。


 でも、お兄ちゃんと結婚して、エクスと一緒にいられて

 とても幸せなの。


 だから、もっと人を助けて、皆にも、幸せになって欲しいの」




クオンの気持ちは、真っ直ぐだ。


だからこそ言わなければならない事がある。



「クオン、神になれば、簡単に人を助けたりは、出来ないよ。


 その人や街や国が、本当に困った時だけ、力を貸すものなんだ。


 そうしないと、人は自立できないし、

 困ったら、『助けて』って言うだけの存在になってしまうからね」



真剣に聞くクオン。


「それって悪い事なの?」


「うん、自分で何とかしようとは思わなくなるし、

 神を、ただの便利屋と勘違いする者も現れる。


 そうなると、ちょっとした困った事が起きた時、

 神に助けて貰えなかったら、どう思う?」



「ん・・・・・悔しい?」


「まぁ、そうだね。


 『どうして助けてくれないんだ』とか思って『逆恨み』をし、

 自分で動く事を忘れてしまう。


 『反省』をする事だって、忘れてしまうことさえある。


 だから、神の助けは、『奇跡』といわれる程度で十分なんだ。


 本当に世界が困った時に手を貸す。


 『人』を助けるのは『人』。


 そうあるべきなんだよ」




京太は、自身の口から出る言葉に驚いている。


『なんで僕は、こんな事言っているんだろう』と思う反面、

【アトゥム】が教えてくれているんじゃないかとも思った。




話しを聞き終えたクオン。


「わかった。


 お兄ちゃん、それじゃぁ、お願い」


クオンは、胸の前に両手を合わせ、目を瞑った。


――迷い、無いなぁ・・・・・


クオンに与える『神』は、決めていた。


 

「我が名は、アトゥム。


 今再び、神の復活を望む。


 その名は『シュー』。


 大気を司る神よ、今一度、この者の中に顕現せよ」




京太から風が吹き、クオンを包む。


クオンの茶色の髪が、ラムの時と同じ様に薄い金色を帯びた白髪に変わる。




その瞬間、クオンの前に、大気の神シューが姿を見せた。


目を開けるクオン。



「この子が、私の後継者か・・・・・」



大気の神シューが笑顔を向ける。


「これから、宜しくな」


「うん!」



大気の神、シューが、クオンの髪を撫でると、

静かにクオンの中に吸い込まれた。

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