第223話悪魔城 決断

襲いかかるミノタウロスの武器は、バトルアックス。


体の大きさを利用して、勢い任せに、振り下ろしてくる。




だが、京太は、その一撃を、易々と受け止め

反撃の一振りをミノタウロスに打ち込んだ。


「グホォ!」


唸り声を上げ、後退るミノタウロス。


だが、すかさず、背後に控えていたミノタウロスが、

京太に襲い掛かる。


繰り返されるミノタウロスの攻撃。


数で押し込めようと、次々に攻撃が繰り出されるが

それでも、京太達の方が、戦況を有利に進めている。


「中々やるわね・・・・」


劣勢になりはじめても、フォカロに焦りは見られない。


だが、この状況は、良いとは言えない。


次の一手を打つフォカロ。


「【グノーム】」


土の中から、赤い帽子を被った小人が姿を見せる。


「フォカロ様、お呼びですか?」


「ええ、作戦は、わかっているわよね」


「勿論です。


 既に、我が同胞が待機しております」


「そう、なら、いいわ。


 始めなさい」


「へい」


土の魔精霊グノームは、再び、地に潜る。




ミノタウロスとの戦いの場は、

今や、密集ではなくなり、間延びした状態へと変化しており

様々な場所で、戦いが繰り広げられていた。


そんな中、サリーが、ミノタウロスに走って近づこうとした時、

突然、雑草に足を取られて、地面に倒れ込む。



「グヒィヒィヒィ・・・・・」



その隙に、ミノタウロスが、接近しており

バトルアックスを振り下ろす。



必死に、攻撃を躱すサリーだったが、

雑草に絡みつかれた左足だけは、回避することが出来ず、

ミノタウロスの一撃を受け、切り落とされた。


膝から下を、失うサリー。


「ギャァァァァ!!!」


戦場に響く叫び声。


「サリー!」


一番近くで戦っていたソニアが、助けに向かおうと走り出した。


だが、サリーと同じ様に、突如、雑草に足を取られる。



「えっ!?」



勢いのまま、倒れるソニア。


そこに、ミノタウロスの攻撃。


足を引っ掛けた雑草が、足に絡まり、脱出を不可能にしている。



「グフゥゥゥゥゥ・・・・・フガァ!」



バトルアックスを振り下ろされる瞬間まで、必死に抵抗したソニアだったが、

サリーと同じ様に、動きを封じられてる足を、狙われ、切り落とされた。


「ガァャァァァァ!!!」


片足を失くし、痛みに悶えるソニア。


そこに襲い掛かるミノタウロス。


バトルアックスを掲げ、止めを刺しにかかった。


だが、突如飛んできた矢が、ミノタウロスの眉間を貫き

ソニアを助ける。


「そんな事させないから!」


ラムは、ソニアに続き、

サリーに攻撃を仕掛けようとしているミノタウロスを屠り、

2人の救出に成功したのだが、

激怒したミノタウロス達の反感を買う事となり

ミノタウロス達の攻撃を一手に引き受ける事となった。


襲い掛かるミノタウロス達。


距離を詰められる前に、矢を放ち、次々に屠るラム。


だが、魔人化したミノタウロスの足は、思った以上に早く

段々と距離が詰まる。


ラムは、距離を取ろうと、バックステップを踏むが、

足に、何かが纏わりついており、動きを封じていた。


「ギ・・・・・ヘヘヘ・・・・・」


ラムが、声のする足元を見ると、

土の中から現れたグノームが、両手でラムの足を掴んでいた。


――!・・・そういう事だったのね・・・・・


魔精霊と化しても、グノームの攻撃は弱い。


だが、気付かれない程の魔力を使い、

悪戯をすることは、得意なのだ。


その場の雑草を使い、罠を作られたら、気付く事が難しい。



だが、ラムは、走らず、バックステップを踏んだ為、

雑草の罠にはかかわらなかった。


その為、逃げられそうになったグノームは焦り、

土の中から姿を見せて、両手で、足を掴んだのだ。



正体を明かしてしまったグノーム。


それを見て、ラムは叫ぶ。


「土の中にも、敵がいるわ!

 警戒して!」



ラムの必死の叫びは、皆に届いた。


だが、肝心のラムは、逃げ遅れ

ミノタウロス達に囲まれてしまった。


「ラム!」


弓を使って戦っていたラムに、防御は見込めない。


京太は、急いで駆け出す。


ラムを取り囲み、嘲笑うかのように、踏みつけるミノタウロス達。


繰り返される踏みつけに、ラムの顔は歪み、

両手両足は、あらぬ方向に曲がり、潰れていた。


そこに駆けつけた京太は、怒りに身を任せて、

ミノタウロス達を、次々に斬り殺す。


一瞬にして、細切れにされたミノタウロス達。


その中心で、横たわっているラム。


京太は、駆け寄り、抱き起こす。


途端に、血を吐き出すラム。


内臓は破壊されており、体も、所々潰されていた。


「ラム・・・・・」


京太の呼びかけに、必死に答えるラム。


生きていることが、不思議な状態にもかかわらず

口から血を流しながら、京太に笑顔を向けて謝罪を口にする。


「京太ごめん、失敗しちゃったよ・・・・・『ゴフッ』・・・」


「・・・・・」


言葉が見つからない・・・・・。


――クソッ・・・・・


魔法を使えば、完治するかもしれないが

ここまでの状態だと、直ぐに動くことは、出来ないだろう。


──だが、出来る事はやる!・・・・・


京太は、ラムを抱きかかえ、後方に下がって、シールドを張る。


サリーとソニアもアイシャ、フーカに救出を頼んでいたので

同じシールド内に運ばれた。


「京太さん!」


シールドに飛び込んで来たマチルダと共に、

京太は、直ぐに治療を始めたが、

その間も、ミノタウロス達が押しかけて来ていた。


シールドを叩き、破壊しようと、

バトルアックスで、攻撃を仕掛ける。


だが、シールドが、破壊されることはない。



雑音のする中、ラムの治療に専念する京太。




『リカバリー』と『ハイヒール』を使い、

見た目は、治療を終えた。



だが、失った血や、精神的ダメージなどの事もあり

直ぐには、戦えない。


それに、魔力が、完全に枯渇しており、

復活するかどうかも怪しい状態なのだ。


一般の人ですら、微量の魔力があるにも拘らず、

今の、ラムからは、魔力を感じない。


それは、本人も、理解しているだろう。




マチルダから治療を受けた2人は、既に回復しており

確かめるように、動き回っている。


それを見て、ラムも立ち上がろうとするが

ふらつき、倒れそうになった。


「無理しちゃ、駄目だ」


「大丈夫、わたし、戦えるよ・・・・・」


京太の肩に手を乗せ、

必死に立ちあがるラム。


その姿を見て、以前から思っていた事を告げる。


「・・・・・ラム」


「ん?」


京太は、真剣な表情で、ラムと向き合う。



「今すぐ戦える方法はあるよ。


 でも、それは、エルフをやめる事になるんだ」



「エルフをやめる?」


「うん、寿命という概念も無くなり、

 死ぬ事も無いと言っても過言ではない状態になるんだ」


ラムは、察しがついた。


「それって・・・・・」


「多分、正解。


 僕の奥さんになってくれたけど、

 これを授けると、一生一緒に、この世界を見守る事になる」


ラムの頭の中を、色々な思い出が過る。



『京太に会う』という口実で、里を抜け出した事。


京太に助けられた事。


街の復興。


ミーシャとの再会。


京太の嫁。


皆との冒険。


ミーシャの妊娠。


そして、今、エルフをやめる決断。


ラムに迷いは無い。



「京太、ずっと一緒にいてね」


「うん、こちらこそ、宜しく。


 始めるよ」


「うん・・・・・」


ラムは、目を瞑る。


「大切なのは、信じる事。


 疑念は、失敗のもと」


ラムの胸に手を当てる。


「我が名は、アトゥム。


 今再び、神の復活を望む。


 その名は『ハピ』。


 大地の豊穣を司る神よ、今一度、この者の中に顕現せよ」




シールド内に、風が吹き、京太とラムを緑色の光が包んだ。


そして、ラムの来ていたエルフの貫頭着の色が白く染まり、


白金の髪色が、黄金の様に輝いた。




祈る姿勢のまま動かないラムに、緑色の光が吸い込まれてゆく。


「ラム、目を開けて」


優しく響く京太の声に、ラムは目を開く。


そこには、ハピの姿があった。


『これから、宜しくね』


そう告げると、ラムの中に吸い込まれ、光りが消えた。



そして、次の瞬間、光りがラムから拡がり、

瞬く間に辺りを埋め尽くす。




そして、ミノタウルス達と、

地に隠れていたグノーム達は、

光りに飲み込まれ消滅した。


一瞬の出来事だった。


「今のは、なんなの・・・・・」


驚くフォカロ。


それもその筈、京太達を追い込んでいた筈が、

一瞬にして配下を消され、形勢を逆転されたのだ。


理解が追い付かず、茫然とするフォカロ。


その正面に、アイシャが立ち塞がる。


「おい、ダッサイの。


 わらわ達が、貴様の相手を務めてやる」



アイシャの手には、ドラゴンソードが握られている。


――姉上よ、ちと、わらわに力を貸してくれぬか?・・・・・


――なんじゃ、改まって・・・・・貴様の好きにすれば良い・・・・・


――フフフ・・・・・後で、怒るでないぞ・・・・・


――わらわは、些末な事は、気にせぬ。


  好きにしろ・・・・・・



――そうか・・・・・感謝する・・・・



アイシャは、何処からか取り出した短剣で、

ドラゴンソードを握る右腕を切り付けた。


血は、ドラゴンソードに向かって流れる。


そこに、アイシャは、全力で魔力を流し込んだ。


――わらわの力を、受け取るのじゃ・・・・・


――うむ・・・・・



ヴァンパイアの血を吸い込んだドラゴンソードに変化が起きる。


剣の中心に赤い線が浮かび上がり、

異様な妖気を放ち始めた。


「クックックッ・・・・・成功じゃ」


恍惚とした笑みで、ドラゴンソードを見つめるアイシャ。



――わらわにその気は、無いぞ・・・・・


――わかっておるわ。


  わらわも京太一筋じゃ・・・・・



誰にも聞こえない2人の会話は、目の前の敵を無視していた。



「おい!」



声をかけられ、不快な顔をするアイシャ。



「ダッサイのは、待っておれ、死に急ぐ必要は無いぞ」


「言わせておけば・・・・・」



フォカロは、一瞬顔を歪めるが、直ぐに元の表情へと戻す。



「貴様らは、勝ったつもりかも知れんが、

 勝負は、これからだ。


 なんせ、ここは、ベルゼブ様の支配する領域。


 この山の魔物や精霊は、全て、ベルゼブ様の配下なのだからな!」



「そうか、ならば、遠慮せずに行くぞ」


走り出すアイシャ。


「愚かな・・・・・グノーム」


「・・・・・・」


フォカロは、気付いていなかった。


消滅したのは、ケンタウロスだけでは、無いことを。


「グノ・・・・」


再度、呼びかけようとしたが、

アイシャの方が早く

首にドラゴンソードを突きつけられる。


「ヒィィィィィ!」


「貴様は、わかっておらぬのか、

 この地には、もう、奴らはおらぬぞ」




そう言い放つと、喉に当てたドラゴンソードを挽いた。


フォカロの首が、地面に落ちた。


かと思えたが、突然、

時が巻き戻ったかのように、首が、元の一へと戻った。


繰り出される、反撃の一手。



「ウインドアロー」


近距離で放たれた無数の矢。


その中の1本の矢が、アイシャの胸を貫いた。


勝利を確信するフォカロ。


「ハハハ・・・・・私の勝ちだ!」


フォカロの前で、

ゆっくりと、倒れて行くアイシャの体が、霧散した。


笑みを浮かべるフォカロ。


「私を馬鹿にした報いだ。


 貴様如きが、この私の相手になるはずが無かろう・・・フフフ・・・」


アイシャに勝利し、京太達へ向けて歩き出したが、

突如、声が響く。



「小賢しい真似を・・・・・」


その言葉と同時に、倒された筈のアイシャが、姿を現す。


「勝ってもいないのに、勝利宣言とはのぅ・・・

 やっぱり貴様は、ダサいのじゃ」



「貴様・・・・・」



フォカロは、アイシャに向けて、走りだす。


「うむ、接近戦を望むか・・・・・」


アイシャが、そう呟いた時、フォカロが、仲間を召喚する。


「出でよ、【シルフィード】、【サラマンダー】」



フォカロの纏う風の中から、魔精霊シルフィードとサラマンダーが姿を現す。



「ここにいないのであれば、呼べばいいだけの事。


 この地は、全てベルゼブ様のものなのだ」


「それが、どうしたというのじゃ・・・・・」


「そんな事を、言っていられるのも、今の内だ!」


とうとう怒りの表情を見せるフォカロ。


だが、アイシャの視線は、別の所に向けられていた。



フォカロから離れた所にいるクオンだ。


相変わらずのマイペースで、召喚されたサラマンダーと戦いたいと

意思表示をしている。



―あれは、何をしておるのじゃ?・・・・・・


ラゴに問いかける。


――多分、召喚しろと言っておるのじゃろう・・・・・・


クオンは、腕を回し『クルクルどかぁ~ん』と繰り返して、

合図を送っている。


――無視すると、どうなるのじゃ?・・・・・


――多分、拗ねるぞ・・・・・



アイシャは、他の仲間達に視線を送る。


しかし、誰も目を合わそうとはしない。



――姉上・・・・・


――貴様に任せる・・・・・が、わらわは、知らなかったことにする・・・



溜息を吐くアイシャ。


そして・・・・・・



「では、わらわも召喚しようではないか。


 来たれ、クオン!」




「クルクルどかぁ~ん!

 呼ばれて飛び出てジャジャジャジャ~ン!」



誰かが飛ばしたのか、ファイヤーボムの煙の中から、

クオンとエクスが姿を現した。


満面の笑みのクオン。


「2人に蜥蜴を任せる。


 それで、良いか?」



クオンは、黙って何度も頷く。


それを見て、同じ様にエクスも頷いた。




そして・・・・・そこから始まる蹂躙劇。



『炎のブレス』で攻撃を仕掛けるサラマンダー。


『炎のブレス』を切り裂くエクス。


その隙にクオンが潜り込み、腹を切り裂いた。



叫び声を上げ、暴れるサラマンダー。


容赦しない2人は、そこから全ての足を切り落とし、

身動きが取れない状態にした後、首を落とした。


僅か数分の出来事。


戦い終えたクオンとエクスは、サラマンダーの残骸を京太へと運んでいる。


その光景に、茫然とするしかないフォカロ。



「な、何なんだ、あいつ等は!?」


「京太の嫁じゃ」


間の抜けるような答えに、返す言葉を失う。



「貴様ら・・・・・・行け、シルフィード!」



魔精霊シルフィードは、『風の刃』を放つ。


だが・・・


「五月蠅い・・・・・」


アイシャは、気を込めてドラゴンソードを一振り。


途端に広がる殺意のオーラ。


そのオーラを全身で受けたシルフィードは、気を失い落下する。


魔精霊になっても、所詮は精霊。


殺意に満ちたドラゴンの気を受ければ、当然の結果だった。


「絶対に許さん・・・・・」


フォカロは10体へと分身する。


「覚悟しろ!」



一斉に、アイシャに襲いかかる。


しかし・・・・


アイシャも10人に分身をして、フォカロの背後に回り込んだ。


「えっ!?」


アイシャの魔力と血を流しこまれたドラゴンソードも、分身に成功しており、

10人のアイシャの手に握られている。



「わらわの勝ちじゃな」



振り下ろされるドラゴンソード。


先程と同じ様にフォカロを両断する。


だが、終りではない。


「復活されては、面倒じゃ」


アイシャは、連撃を繰り出し、

フォカロを粉々に切り裂いて、消滅させた。


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