第221話悪魔城 変異種2

完全に塞がれた出口を前に、ウルド ツールの足が止まる。


――ここを何としても抜けなければ・・・・・・



抱きかかえていたラムザニアを、そっと地面に下ろす。



「少し、待っていてくれ」



ウルド ツールは、水の無いこの場所で、シーサーペントへと変貌する。


そして、ラムザニアを口に咥えると、竜魔人達に正面から突っ込んだ。



ウルド ツールの勢いに押され、吹き飛ぶ竜魔人達。


しかし、竜魔人達の数は多く、

蛇のように、這う事しか出来ないウルドツールの体に

次々と剣を突き刺し、容赦ない攻撃を仕掛ける。



赤く染まり始める体。


それでも、口の中に隠したラムザニアを守る為に、

ウルド ツールも必死の抵抗を繰り返す。




だが、時間と共に、竜魔人達に埋もれて行くウルド ツール。


それでも、ラムザニアを守る口だけは開かない。



――ここまでか・・・・・・



度重なる攻撃で、右目を失い、体も、引き千切られそうになている。


流石のウルド ツールにも、限界が近づいたその時

残された左目に、緑の光が映る。



――来てくれたのか・・・・・・


緑の光に続き、赤、白、青と空中から放たれるレーザー。


その光は、竜魔人達を次々に倒す。


そして、瀕死のウルド ツールの顔の横に、

赤い宝石を担いだ精霊が姿を見せる。



『大丈夫?・・・・・・』



「ああ、助かった・・・・・だが、ラムザニアの怪我が酷いのだ・・・・・」



『わかった・・・・・・』



赤の精霊は、その場を離れ、白の精霊を連れて来た。



『どうしたの?・・・・・』


『大怪我したんだって・・・・・』


『へえ~、その人どこ?・・・・・』


白の精霊が尋ねると、ウルド ツールは、口を開け、ラムザニアを見せる。




『凄い火傷だね・・・・・でも、大丈夫だよ・・・・・』




白の精霊は、『ハイヒール』を唱え、ラムザニアの火傷を、一瞬で治療した。



「感謝する」


『別にいいよぉ・・・・・

 それより、ウルドもひどい傷だね・・・』


白の精霊は、ハイヒールを使い

ウルド ツールの傷も、完治させると、その足で、

竜魔人達を倒しに向かった。




残った赤い精霊は、ウルドツールに話しかける。


『少し、ここで休んでいてよ。


  後は、僕達が倒すから・・・・・・』



「だが・・・・・」



『大丈夫、ここに来たのは、僕達だけじゃないから・・・・・』



赤の精霊の言う通り、いつの間にか、竜魔人達の中に、

ソニアやサリーの姿があった。


だが、まだ遠い。


それでも、時間の問題だと安堵し、

ウルド ツールは、人型へと戻り、

まだ意識の戻らない、ラムザニアの横に座った。。



「すまなかった・・・・・」



ウルド ツールは、ラムザニアの髪を撫でながら、

謝罪の言葉を口にした。



ウルド ツールとの合流を目指すソニア達は、

目の前の竜魔人達を、倒しながら進む。



「ほんっと、多いわ」


「先程も、同じことを言っていたわよ」


「仕方ないでしょ、事実なんだから!」


ソニアは、倒しても減らない竜魔人に嫌気がさしていた。



「何とか、な・ら・な・い・の!」


言葉の語尾に合わせて剣を振り下ろすソニア。


それを見て、密かに笑うサリー。



「フフフ・・・・・まだ、余裕ありそうじゃない」


「そんな事無いわよ!」



ソニアは、少し拗ねたように、そう告げると、

近くに寄って来ていた、ウルドツールの眷属である地竜に跨った。


「突撃よ!」


地竜は、その言葉に従い、ウルド ツールに向い、走り出す。



すると、ソニアが乗る地竜を先頭に、もう1体、2体と続き、

最後には、魚鱗の陣のような形となり、竜魔人達の中を突き進む。


次々に、吹き飛ばされる竜魔人達。


その先に見えたウルドツールとラムザニアの姿。


「ウルド!」


ソニアの声が届く。


2人に辿り着いたソニアは、素早く地竜から降りる。



「ソニア殿だったな、感謝する」



「そんな事は、いいのよ。

 それより、何があったの?」




ウルド ツールは、竜魔人を生み出している竜魔人の母について話す。



「この洞窟の奥に、奴らを産みだしている竜魔人の母と呼べる者を見つけた。


 そいつは、巨大で、強力な『酸』を吐く厄介な化け物だ。


 その攻撃で、ラムザニアがやられた」



「・・・・・わかった。


 今度は、私達が行くよ」



ソニアの言葉を聞き、先程まで、意識を失っていた筈の

ラムザニアが起き上がる。



「待て、わらわも同行しよう」



「大丈夫なの?」



「ああ、問題無い。


 傷も癒えておる」


ソニアは、ウルド ツールの顔を見た。


「どうするの?」



答えを求められたウルド ツールより先に

ラムザニアが答える。



「このままで、終れるはずが無かろう。


 先程は、甘く見過ぎただけじゃ。


 もう、同じ手は喰わぬ」



ラムザニアの意思を尊重したウルド ツール。


だが、1人で、行かせるわけがない。


「私も同行する」


『僕達も行くよ・・・・・』




ウルド ツールに続き、精霊達も戦う事を選んだ。




洞窟の入り口の警備は、地竜達に任せて、

再び、洞窟内へと入る一行。


最短で、例の部屋を目指す。


ウルドツールの案内に従い、進んで行くと

卵が産みつけられていた部屋に到着した。



凍った地面に、竜魔人達の卵が見える。


しかし、その先には、新たに産み出された卵があった。


「これが、無限に竜魔人が産まれる理由だ」


ソニアもサリーも驚いている。


目の前で、次々に産み出される卵。


そして、孵化すると同時に、戦闘に向かう竜魔人達。



「これは、一体、なんなの・・・・・」



驚きを隠せないソニア達に、ウルド ツールが声をかけた。



「卵は、どうでもいい。


 それより、その奥を、よく見てみろ」



広いはずの場所が、狭く感じる程の巨大な化け物が、卵を産み続けている。



「あれ、なに?」



「竜魔人の母と呼べる者だ。


 あれを倒さない限り、永久に竜魔人が産まれるようだ」



ソニアは、気を引き締めた。


「やるしかないわね」


「ああ、その通りだ!」



卵は無視して、竜魔人の母へと向かう。


「先程のお返しだ!」


先陣を切るラムザニア。


復活していた生殖器を、切り飛ばした。


声を上げる竜魔人の母。



短い足で、踏みつけようとするが、ソニア達に簡単に躱される。


「遅い!」


魔剣の先に氷を纏わせ、竜魔人の母の足を切り裂く。



「グギャァァァァァ!!!」



ソニアの魔剣は、竜魔人の母の片足を、切り落とす事に成功した。


体勢を崩した竜魔人の母だったが

その姿勢のまま『酸』を吐き出した。



「回避!」



距離を取っていたウルド ツールの声に、皆が反応し、

『酸』による攻撃を躱す。


「今だ!」



再び響くウルド ツールの声。


その声に従い、4体の精霊が、魔法を放つ。




竜魔人の母に向かう4本の光。


属性のレーザーにより、身体に穴が空き、

大量の血が噴き出した。



「グギャァァァァァ!・・・・・ガッ・・・・・」



力無く倒れる竜魔人の母。




「もう、油断などせぬ、『フリージア』」



ラムザニアの魔法により、全てを凍り付かせた。



「これで・・・・・」



そう思った瞬間、凍ったはずの竜魔人の母が動き出す。



「えっ!?」



「何故だ!」



驚きながらも、距離を取る。



竜魔人の母は、脂肪が厚かった為に、直ぐには凍らなかったのだ。


同時に、傷口から漏れた『酸』のおかげで、凍結を免れていた。




それでも半分程は凍り付いている。


凍結のおかげで、血も止まった状態の竜魔人の母が、起き上がる。



「もう一度だ!」



一斉攻撃を仕掛けるソニア達。


しかし、竜魔人の母は、その攻撃を、避けようとはしなかった。


次々に、致命傷を与えられた竜魔人の母は、

今まで以上の声を上げる。


「グオォォォォォ!!!」


その叫び声を最後に、竜魔人の母は倒れた。


終わった。


そう思った瞬間、地面が大きく揺れる。



「早く出よう!」



竜魔人の母の最後の叫びは、洞窟の崩壊を招いたのだ。


急いで、洞窟を抜け出そうとするソニア達の前に、

産まれたばかりの竜魔人達が道を塞ぐ。


凍結していない卵があったらしい。


孵化した竜魔人達は、ソニア達に向かって歩いて来た。


「こいつ等、私達を巻き添えにするつもりだ」



道を塞ぎながら、迫ってくる竜魔人達。


急いで倒すソニア達だが、

やはり、数が多い。



「ちょっと不味いかも・・・・・」



ソニアの言葉は、誰もが思った事だった。


しかし、精霊達は、違う。



『僕達の出番だね・・・・・』




4体の精霊が、一斉に魔法を唱える。




「我に答え、我を守れ『ファイヤーウォール』」




「我の力で、全てを守れ『アイスウォール』」




「大地の力、今、ここに『ストーンウォール』」




「神よ、今、ここに奇跡を、『光の回廊』」




4体の精霊が放った魔法が、道を作った。




『もう、大丈夫だよ。

 

 ついて来て・・・・・』




精霊の言葉に従い、走り出す一同。


竜魔人達は、魔法に遮られ、攻撃が出来ず、崩壊に巻き込まれ始める。



ソニア達は、崩壊する洞窟を全力で走った。



そして、出口に辿り着いた。


飛び出したと同時に、思わず声を上げる。



「助かったぁぁぁ!」




ソニア達が飛び出した後、洞窟は、完全に崩壊した。

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