第217話悪魔城 ウルド ツールの戦い

地竜の背から飛び降りたタナスは、持っていた杖を掲げた。



「下僕達、私の為に働きなさい!」



杖に付いている宝石が、光りを放つ。


10体の地竜は、一斉にウルド ツールに向かって走り出す。


そのような状況にあっても、ラムザニアに、危機感はない。


「貴方、頑張ってね~」


ラムザニアは手を振りながら、少し高めの岩に飛び乗った。




――フフフ・・・・・本当に見物だけのようですね・・・・・



ラムザニアの声援に応えるように、

ウルド ツールが両手を広げて、呪文を唱える。



「我が漆黒に眠る者達よ、今、再びこの地に・・・・『従属召喚』」



ウルド ツールの足元から影が伸び、地面に空間が出来上がる。


そこから、20体の『スケルトンナイト』が姿を現した。


召喚されたスケルトンナイトを見て、

半笑い状態のタナス。


「なんですの、只のスケルトンナイトでは、ありませんか。


 その様な骸骨が、この私の地竜に勝てると思われるなど、心外ですわ!」



足を止める必要などないと言わんばかりに、再度、『突撃』の命令を下すと

地竜達は、ウルド ツールに向かって走る。


地竜達は、待ち構えているスケルトンナイトと衝突。



「壊しておしまい!」



スケルトンナイトに噛み付き、踏みつぶし

次々と破壊してゆく。


スケルトンナイトも剣で対抗するが、

痛覚の無い地竜達が、怯む事はなかった。




圧倒的な力で、スケルトンナイトを倒す地竜に

タナスは、満足そうに戦況を眺めている。



「さて、そろそろかしら・・・・・」



タナスの言葉通り、スケルトンナイトは、3体しか残っていない。



「仕上げよ、さっさとその骸骨を、粉々にしてやりなさい!」




地竜は、尻尾でスケルトンナイトを薙ぎ払い、軽々と粉砕した。



「残るは、貴方だけね」


勝ち誇るタナスだが、ウルド ツールは、余裕の表情で、

言葉を返す。



「それは、どうでしょうか?


 決着が着くのは、まだ先だと思いますが・・・・・・」




ウルド ツールの前には、新たなる者達が召喚されていた。



「存分に暴れて下さい」



ウルド ツールが召喚したのは、20体の『ボーンドラグーン』。


骨となった竜人達。




彼らの出現により、先程粉砕されたスケルトンナイトの骨達が、

ボーンドラグーン達に集まり、新たな体を構成し、強化させた。




強化されたボーンドラグーンに、襲いかかる地竜。


しかし、先程のスケルトンナイトと違い、

ボーンドラグーンは、地竜の攻撃を受け止める。



その体勢から、体を独楽の様に回転させたボーンドラグーンが、

地竜を切り刻む。


「なんという事を・・・・・・」


ミンチになった地竜を見つめ、ショックを受けるタナス。




「わ、私の最高傑作の地竜なのよ!

 どうしてあんな骨に負けるのよ!

 ・・・・・絶対に、許さないわ!」




再び杖を掲げ、残ったの地竜に、新たな命令を与える。



「リミット解除よ、この者達を必ず仕留めなさい!」


その言葉に従い、

突如、地竜達の肌が赤く染まり、熱を帯びた。


周囲を巻き込みながら、温度が上昇する。



高熱が、骨を弱くし、ボーンドラグーンの強化を無効化した。


同時に、ファイヤーブレスを放ち、ボーンドラグーンを炭に変える。




「さぁ、遠慮はいらないわ、どんどんやりなさい」



再び、劣勢に陥ったウルド ツールだったが、

それでも、表情に焦りの色は無い。



「フム、そう来ますか・・・・・」



この時、ウルド ツールより先に、ラムザニアが不気味な笑みを浮かべていた。



――そろそろかしら・・・・・



ウルド ツールは、新たな従者を呼び出す。



「我が同朋よ、今こそ目覚めの時。


 来たれ、『シーサーペント』」




ウルド ツールの呼びかけに反応し、

今度は、5体のスケルトンと化したシーサーペントが姿を見せた。


シーサーペントは、本来、海の生物だが

スケルトンとなった彼らに、そんな常識は、通用しない。


海中を泳いでいるかのように、空中を飛び回っている。




シーサーペント達は、久し振りの再開に

喜びを露にし

ウルド ツールとラムザニアの周りを飛び回る。



「皆、私に力を貸してくれ」



ウルド ツールに応えるように、シーサーペント達は、地竜へと向かう。


変異させた地竜と言えども、

相手がシーサーペントとあっては、力に雲泥の差があった。


その為、幾らリミット解除したところで、地竜が敵う筈も無い。


シーサーペント達は、『スコール』を使い、雨を降らせ温度を下げる。


水蒸気で、周りに霧のようなものが立ち込め、視界を妨げると

すかさず、シーサーペント達は、地竜に向かい体当たりを開始した。



体当たりで、吹き飛ばされた地竜の先にいるのはタナス。


自身の下僕が、ボールの様に飛んで、タナスに襲い掛かる。



流石に、まだ熱を帯びている地竜を喰らえば、タナスも無事では済まない。



「こんなの嫌ぁぁぁぁぁ!


 止めてぇぇぇぇぇ!!!」



必死に叫ぶタナス。


だが、ウルドが止める筈がない。



そもそも、これは、シーサーペント達が勝手に始めた事で、

ウルド ツールは、命令をしていない。


彼らには、スケルトンと化しても、魂が残っているのだ。


それこそが、ウルドツールの功績でもあり

タナスとの違いでもあった。


5体のシーサーペントは、

9体の地竜を次々に吹き飛ばし、タナスを狙う。



――このままでは・・・・・・



そう思った矢先、とうとう、タナスに地竜が衝突した。



「グハッ!」



地竜と共に、岩壁にめり込むタナス。



そこに、追い打ちを掛けるように、他の地竜もぶつけられた。



『ドンッ!ドンッ!ドンッ!』と衝撃音と共に重ねられる地竜。


その度に、圧し潰されるタナス。


内臓が破壊され、血を吐きだす。



シーサーペント達は、止めとばかりに

一斉に『コールドブレス』を吐き、地竜とタナスを凍り付かせた。



「砕きなさい」


ウルド ツールの言葉に従い、シーサーペント達は

氷の彫像となった地竜達に、衝撃を与える。


次々に砕け散る地竜。


全ての地竜が砕け散り

最後に残ったのは、凍り付いた状態のタナスだけ。



「復活は、遠慮願いたいですね」



ウルドは、衝撃波を繰り出し、タナスの氷像を、粉々に砕く。



「さて、京太殿を追い掛けましょうか・・・・・」



ウルド ツールの完全勝利で終えたこの戦い。


ラムザニアは、歓喜の笑みを浮かべながら、ウルド ツールの腕に抱き着いた。


「流石、わらわが選んだ夫じゃ。


 その強さに、益々、惚れてしまうのじゃ・・・・」


妖艶な表情と変化していたラムザニアに対して、

満更でもないという表情を浮かべるウルド ツールだが、

ここは戦場。


ラムザニアの機嫌を損ねないように諭し、

なんとか、この場を乗り切り、先に進んだ京太達の後を追う。







一方、先に洞窟に飛び込んだ京太達は、変異した竜魔人の襲撃を受けていた。




京太達は、新たなる門に辿り着くと、

その門に手を掛け、扉を開いた。


すると、変異した竜魔人達が、襲い掛かって来たのだ。


1体の強さは、今更、問題にならないが、関しては

今回の襲撃に関してはは、その数が異常に思えた。



――先が、見えない・・・・・・



それぞれの特性に合った武器を持ち、襲いかかる竜魔人。


また、魔法を使う者達は、遠距離から攻撃を仕掛け、

仲間を巻き込んででも、京太達にダメージを与えようとしている。




「これは、少し不味いわね・・・・・」



「大丈夫、問題無いよ」



ラムの呟きに反応したのは、クオン。



「お兄ちゃん、道を開くから、先に行って!」



「えっ!?」



――クオンは、何を言っているんだ・・・・・・



驚く京太の横に、エクスが近寄る。



「私もここに残ります。


 ですので、主、ここは、お任せ下さい」


久々に、流暢に話すエクスの表情は、

今までに見た事もないほど、真剣な表情をしている。



「エクス・・・・・」


「お兄ちゃん、準備はいい?」


――あっ、全然聞く気無いや・・・・・・



既に、臨戦状態にあるクオンは、体を低く構えた。



「いっくよぉーーー」


後ろ足に力を込める。


エクスもクオンの横に並ぶ。


「お姉ちゃん、一緒に・・・・・」


クオンは頷いた。


「「せーの、ドンッ!」」



土煙だけ残して、2人の姿が消える。


――速い!・・・・・・


クオンとエクスの通った跡には、道が出来ていた。



「お兄ちゃん、急いで!」



クオンの言葉に従い、出来上がった道を

京太達は駆ける。


そして、その先に見つけた門を開き、飛び込んだ。



だが、ソニアとサリーは、門を潜らない。


2人は、扉を閉める。


門を挿んで聞こえてくる声。



「京太、ここは私達が守るから、先に行って!」


サリーは微笑んでいるのか?


その声には、喜びを感じる。


京太に、恩を感じていたサリー。


それを知っており、当然のように応えるソニア。



彼女達との付き合いは、この世界に来た時からのもの。


そんな2人の覚悟を、無下に出来る訳が無い。


「2人共、待っているから!」


「うん、必ず・・・・・」


「早く、先に!」


「・・・・・わかった」



京太は、閉じられた門を背に、走り出す。



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