第216話悪魔城2

バアルの合図と共に、四隅の柱が光を放つ。


赤、青、緑、白。


それぞれの光が強くなると、床に魔法陣が現れた。



――これはっ・・・・・・



神々の、苦い経験が思い出される。



神と悪魔の戦いの時、

悪魔城に乗り込んだ天使達と神々が

苦戦するきっかけとなった仕掛け。




神力を無効化する魔法陣。


神々は、この魔法陣により、多くの仲間を失ったのだ。



闇落ちした精霊の魂と、人々の負の感情を利用して造られた怨念炉。


それを『核』とし、属性の違う精霊を宝石に閉じ込め、

四方に配置して、『精霊力』を流す事で、初めて発動する魔法陣。



――このままでは・・・・・



京太は、魔法陣から、離脱する方法を考える。



しかし、バアルは、京太達を逃がす気など毛頭ない。




玉座で足を組み、優雅に見物しているバアルが指を鳴らす。


すると、隠れていた『シャドウマン』が姿を現した。



「貴様等の体、媒体として利用してやる」



シャドウマンは影を伸ばし、京太達を切り刻みにかかる。


体に負担がかかり、身動きの取りづらい京太と仲間達。




――クッ・・・・・・




焦る京太。


迫るシャドウマン。



危機的状況と思われたその時、

シャドウマンの攻撃が、ラムールにより、全て防がれた。



「俺達がいる事を、忘れて貰っては困るな」



三又の槍を構えるラムール。


眉間に皺を寄せるバアル。



「コイツ・・・・・」



京太は、ウルド ツールに向かって叫ぶ。



「四隅の柱を、破壊してください!」



「了解した!」



ウルド ツールとラムザニアは、目で合図をし、

別々の方向へと走り出す。



――我の邪魔をするのか!・・・・・



バアルは、声を荒げて命令を出した。



「あの2人を、柱に近づけるな!」



シャドウマンは、京太達から、

ウルド ツールとラムザニアへと攻撃の対象を変更した。




追いつかれた2人は足を止め、シャドウマンに応戦する。



バアルは、柱の破壊を防げたと思えたが

それは、間違いだと気づかされる。



バアルの耳に、轟音と共にバラバラと崩壊した音が聞こえて来たのだ。



「なにっ!?」



バアルは、音の方へと顔を向けると

そこには、ラムールの姿があった。



「へへへ・・・・自由に動けるのは、2人だけじゃ無いぜ」



ラムールは隙を突き、赤い光を放っていた柱を破壊させたのだ。



「また貴様か!」



怒りに震えるバアルが、ラムールに気を取られていると

その隙に、京太達は、魔法陣からの脱出に成功する。



――これで、いける・・・・・



「ファイヤーアロー」



『炎の矢』は三方に飛び、残っていた3本の柱に命中した。


崩壊しつつある柱を見ながら、

バアルは、大声で笑う。



「フフフ・・・・・ハッハッハッハ!


 やはり二度目は無理でしたか。


 上手く行けば儲けものと思ったのですが・・・・・」




歪な笑みで、京太を見据える。




「私は、そろそろ退散しましょう。


 その代わりといっては何ですが、私の部下がお相手致します」




玉座から立ち上がったバアルの姿が消える。


そして、玉座の後ろから3体の悪魔が現れた。




「我等、フライナイツ。


 バアル様の命により、貴様等の相手を致します」





余裕の表情を見せ、京太達の前に立つ。


ところが、そんな状況を、是としない者がいた。




「皆さん、下がってください!」



突如、マチルダの声が響く。


同時に、浮かび上がる無数の光の矢。




「行きます『ホーリーアロー』」




謁見の間の天井を埋め尽くす程の光の矢は、

悪魔達に向かって、豪雨の様に降り注ぐ。


マチルダの放った魔法により、シャドウマンは全滅し、

フライナイツと名乗った悪魔達も、無数の光の矢に貫かれた。



「馬鹿な・・・・・」



床に張り付けられれた悪魔達に、クオンとエクスが近づく。



「えいっ!」



2人は、既に虫の息だった悪魔達の首を落とした。



「終わったね」


「終了です」


「・・・・・・」



敵の姿が無くなった謁見の間を探索すると

やはり、魔法陣の『核』となった怨念炉が発見される。



「これが、怨念炉ですか・・・・・」



興味深そうに見つめるウルド ツール。



「悪いけど、これは渡せないよ」



京太は、ウルド ツールに釘を刺した。



「わかっている。


 それは、京太殿が保管しておくとよい」




昔のウルド ツールなら、絶対に我が物にしようとした筈だが、

今は、それ以上に大切なものがある為、興味をそそらなかった。



「先を急ごう」



京太達は、玉座の奥にあった扉を抜けて、

その先の洞窟へと足を踏み入れる。


暫く進むと、洞窟の先に明かりが見えた。



「今度は、何処に繋がっているのだろう・・・」



京太は、歩く速度を抑え、ゆっくりとその光に、近づく。


近づくにつれ、その先の景色が見えた。


──出口だ!!!・・・



京太達は、警戒しながらも、外に出る。


だが、周囲は高い岩壁に囲まれ、

道が、決められているように思えた。


京太達は、その岩壁に沿って進もうとした時

異様な鳴き声が響く。


「グゥゥゥゥ!」



甲高い鳴き声と共に、空から変異したワイバーンが

京太達に襲い掛かる。



「ここは、わらわの出番じゃな」



アイシャは、空へと上がる。



「蜥蜴よ、貴様の相手は、わらわじゃ」



ワイバーン達は、アイシャに襲いかかった。


アイシャは、その攻撃を躱すと、

そのままワイバーンに、反撃する。



血流操作で作り出した剣を、鞭へと変え

叩き落とした。


片羽を落とされ、錐揉みしながら落下するワイバーン。


受け身など、取れるはずが無く、地面に体を叩きつけた。


轟音と共に、砂埃を舞い上げたワイバーンだが、

まだ、生きていた。


必死に、起き上がろうとするが、

ワイバーンの周りにいるのは、京太の仲間達。


落とされたワイバーンに対して、

嬉々として、攻撃を加える仲間達のおかげで、

京太の出番はなくとも、次々と屠る。


ワイバーンを、今か今かと待ち受ける京太の仲間達。


落ちて来ると、我先にと、攻撃を加える。



「・・・・・・」


「きょ、京太殿・・・・」


「ごめん、何も聞かないで欲しい・・・かな・・・」


「あ、うん。


 了解した」


仲間達の連携した攻撃の前に、

変異したワイバーン達は、屍と化した。



「ふんっ!


 他愛もない」



アイシャが、地上に降りる。


そこには、屍となったワイバーン達が、転がっている。



その中から、頭だけとなったワイバーンが、

突如、動き出し、アイシャに襲い掛かった。



突然の出来事に、驚いたアイシャだったが、

腕を噛まそうになりながらも

ギリギリで回避した。


「この、死に損ないが!」


そう叫びながら、ワイバーンの頭を、細切れにするアイシャ。


「これは、どういう事じゃ!」


思わず声を上げたアイシャの目に、モゾモゾと動き出す屍たちの様子が目に映った。


頭だけのワイバーン。


体だけのワイバーン。


形振り構わず、京太達に牙を剥く。


「こんなの、おかしいよ!」


戦いながらも、愚痴を言うラムに対して

ラゴが、答える。


「うむ、確かに面倒じゃな。


だが、アイシャのやったみたいに

こうすれば・・・・・」


ラゴは、ゾンビのように動くワイバーンを

細切れにする。


すると、ワイバーンの動きが止まった。



動かなくなったワイバーンを見て、

京太達も同じように、

動き出した屍を、細切れにしていく。


ゾンビと化したワイバーンの攻撃は単調で、

京太達の敵ではないのだが、

数が多く、それだけが面倒だった。



だが、それも、時間が解決し、

ゾンビと化していたワイバーン達の殲滅に成功する。



だが、これで終わりではなかった。


変異したワイバーンの殲滅を終えた時

今度は、正面から、変異した巨大な地竜が姿を現す。



「もしかして、あれも細切れにしないと駄目なの?」


ソニアは、地竜を見上げて呟く。


「多分、そうなると思うわ・・・・・」


サリーの言葉に、溜息を吐くソニア。


しかし、元気なクオンとエクスは、

お構いなしに突撃を開始する。



「エクス、行くよ!」



「了解です」



2人は、呼吸を合わせて、地竜に一撃を加えるが

何事も無かったかのように、反撃に出た。


慌てて回避する2人。


確かに、それなりのダメージを与えた筈。


だが、気に留めた様子もない。


地竜は、傷を負いながらも、攻撃を繰り出す。


回避した後、反撃に出る。


同時攻撃で、足を斬り落とした。


だが、先程と同じで、痛みを感じた様子がない。


それどころか、再び反撃に打って出たが、

2人は、攻撃を躱した後、距離を取り、様子を窺う。


「さっきと同じです」


「だったら、やる事は、決まっているね」


「了解です」



クオンとエクスは、この地竜を細切れにするつもりだ。


2人が攻撃に打って出る瞬間、他の仲間達も便乗して

一斉攻撃を仕掛ける。


「クオン、先ずは、あいつの動きを止めるよ」


「わかりました」


京太の仲間達は、身動きを封じる為、全ての足を斬り落としにかかった。


攻撃を仕掛けて来る地竜だが、足を斬り落とされる度に、動きが鈍り

最後には、全ての足を斬り落とされ、身動きを封じられた。


動けない状態でも、尻尾で、攻撃を仕掛けようとする地竜。


そんな地竜に、止めを刺す。


京太の仲間達は、再び、一斉に攻撃を仕掛け、

地竜を細切れにした。



「終わった・・・・・」




動かなくなった地竜を見つめ、安堵の表情を浮かべていると

先程と同じ方向から、次々と地竜が現れる。


その数、10体。


それだけではない。


その中の1体の背中に、悪魔の姿が見えた。


悪魔を乗せた地竜が、前に出る。


そして、京太達と対峙した。


「あら、もう倒したのね・・・・・

 なかなかやるじゃない。


 でも、この数なら、どうかしら?」


その挑発するような言葉に、京太が返す。



「何匹いても、結果は、変わらないよ」


驚きも、焦りも無い京太の様子に、悪魔のこめかみに、血管が浮き出る。


「そう・・・・・・

 貴様からは、嫌いな匂いがするだけでなく、

 この私の最高傑作を、侮辱するような発言まで飛び出すとは・・・・

 万死に値する!


 私は、フライナイツの1人。


 死者を操る悪魔、【タナス】だ!」



顔の半分を髪で隠し、女性のような言葉使いをするタナスの言葉に、

誰よりも早く反応するウルド ツール。


戦闘開始の合図を待たず、前に出た。


「ほぅ・・・・死者を操る・・・・・ですか・・・・・

 京太殿、ここは私に任せて、先に進んでくれないか?」



ウルド ツールも死者を操る者。


その為、同じネクロマンサーとしてのプライドから

この戦いを所望したのだ。


京太は、ラムザニアと視線を合わせる。



「わらわも残るので、遠慮は無用じゃ。


 ウルドの好きにさせてやってくれ」



「わかった。


 ウルド、任せるよ」



「感謝する」


ウルド ツールの覚悟が決まり、

タナスに視線を向けると、

会話を聞いていたタナスが、溜息を吐く。


「私の相手は、貴方ということですか・・・・・

 まぁ、いいでしょう。


 どのみち、貴方達は、全滅する運命にあるのですから、

 好きにしてください」


溜息を吐いたタナスが合図を送ると、地竜達が伏せのような態勢を取った。


「さっさと、行ってください。


 せっかくの戦いの邪魔を、されたくありませんので」


言葉通り、タナスと地竜に、動く気配が感じられない。


京太達は、この場をウルドに任せて、

その先にあった洞窟へと走る。


黙って見送ったウルド ツール。


「行ったようだな・・・・・」



「ええ・・・・・

 ところで、ウルドよ、

 久々に、格好いいところでも、見せてくれぬか」


「フッ・・・・・」


ラムザニアの言葉に、ウルド ツールの口角が上がる。



その間も、ウルド ツールを観察しているタナス。


品定めをする様に眺めた後、口を開く。



「貴方が死んだら、私のコレクションに加えてあげるわ」


その言葉に、満面の笑みで応えるウルド ツール。


「それは、有難い提案です。


 では、私が勝ったら、貴方の死体は、豚の餌にしましょう」



ウルド ツールの挑発に、顔を歪めるタナス。



「貴様っ・・・・・殺す!」



ウルド ツールと、悪魔タナスの戦いが、今、始まる。

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