第214話バーレン アビスに巣くう者を目指して3 本文編集

退路を塞がれた京太達の戦いが始まる。



「ラム、マチルダ、アイシャ、後方から支援を」


「わかったわ」


「はい!」


「任せるのじゃ」



3人は、距離を取りながら、魔法を放つ。



「ウインドカッター」


「ホーリーアロー」


「ファイヤーボム」



3人に触手が向かわないように、他の者達が近接戦を繰り広げる。


しかし、再び、地鳴りと共に大地が割れ、多くの触手が地上に姿を現す。



「これ、どうなっているのよ!」


愚痴をこぼしながらも、剣を振るうソニア。


「わからないわよ、でも、倒すしか無いじゃない!」


ソニアの背後を守るように戦っているサリーが答えた。


京太も、このままでは埒が明かない事はわかっているが

この触手の本体を倒すこと以外、解決策は思いつかない。


必死に、戦っている京太達。


そんな様子を、空から眺める者達がいた。


ベルゼブとその仲間である。



「ククク・・・・・頑張りますねぇ・・・・・」



相変わらず、怪しげな笑みを浮かべながら、

京太達が悪戦苦闘する姿を眺めている。



「ベルゼブ様、我等も参戦しますか?」



「フフフ・・・・・そんな無粋ぶすいな事は、しませんよ。


 私達は、ゆっくりと、観戦させて頂きましょう」




ベルゼブの言葉に従い、他の悪魔達も、大人しく観戦している。


だが。想定外の行動に出る者がいた。


「ベルゼブ様、あれ」


配下の1人、【メフィスト】が指を差した先には、

裂け目に飛び込もうとしている京太の姿があった。



「流石に、不味くありませんか?」



メフィストは、ベルゼブに向けて、嬉々とした表情を見せる。



「貴方は、本当に戦いが好きなんですね・・・・・

 いいでしょう、お行きなさい。


 但し、わかっていますよね?」



ベルゼブは、失敗は許さない事を伝え、

メフィストを送り出す。



「ありがとうございます!

 必ず、あ奴らを、打ち取ってみせましょう」



メフィストは、京太達に向かって飛ぶ。



――あの子は、失敗作ですね・・・・・

  媒体に子供を使った事が、不味かったようです・・・・・



神に、情報を与える事、また、この場で悪魔が見ていることも

ベルゼブは、知らせたくなかったのだ。


だが、メフィストは、何も理解しておらず、

意のまま、戦闘に向かう。


しかし、運が良いのか、悪いのか

京太とは、すれ違いになる。




触手への対応を仲間達に任せた京太は、

アビスに飛び込み、暗闇の中を落ちて行く。



――この中でも、僕なら戦える・・・・・



そう思っていると、落下している最中にも拘らず、

ガーゴイルの集団が襲い掛かる。


だが、ガーゴイルなど、京太の相手ではない。


単純作業のように、次々とガーゴイルを倒していると

とうとう、アビスの底に到着した。


そこは、予想通り、光など無く、辺り一面が、黒の世界。


だが、京太の目には、暗闇など何の意味も果たさない。



今だ、襲い来るガーゴイルを倒していると

暗闇の中、何かが近づいて来る。


漆黒の竜魔人だ。



その存在に、気が付いた時、とうとう剣に限界が来てしまい

目の前で、崩壊する。



京太は、アイテムボックスから、新たな剣を取り出し、

漆黒の竜魔人とガーゴイルを倒すのだが、

流石に、漆黒の竜魔人を相手にするには、

剣に、多くの神気を流さなければならない。


その為、剣の崩壊も早い。



――誰かに、お願いすれば良かったかな・・・・・



そんな考えが脳裏を横切った時、声が聞こえて来た。



「やっと、追いついたよ!」



京太の胸に、飛び込む少女。



「デュラ!?」



「来ちゃった」



そう言いながら、可愛く舌を出す。


本来なら、注意するところではあるが、

この状況下では、感謝しかない。



「一緒に戦ってくれる?」


その言葉を聞き、デュラは、満面の笑みを見せた。


「勿論だよ!」


光りを放ったデュラは、聖剣デュランダルへと変化する。


聖剣デュランダルを手にした京太は、

今まで以上の神力を流し込む。


刀身から光を放つ聖剣デュランダル。



「気持ちいいー!」


聖剣デュランダルと化したデュラは、思わず声を漏らした。


そんなデュラに、京太は声を掛ける。


「デュラ、行くよ!」


「うんっ!」


聖剣デュランダルを手にした京太の勢いは増す。



神気を帯びた風圧で、ガーゴイルは一瞬で塵と化し、

漆黒の竜魔人も、抵抗空しく、次々と屠られる。



――このまま先に・・・・・・



そう思った瞬間、デュラと同じように、

地上のソニア達を無視し、京太を追いかけてきたメフィストが、

京太の前に立つ。



「好き勝手していたみたいだけど、それも、ここまで。


 此処から先は、通さないよ」




メフィストが魔力を高めると、

爪が伸び、手甲鉤てっこうかぎのように変化した。



「戦闘開始だぁぁぁ!」


目を見開いたメフィストは、

小柄な体を活かし、素早く動く。


そして、一撃離脱を繰り返す。


攻撃スタイルは、ヒットアンドアウェイ。



「ヘヘヘ・・・・・僕の早さに、ついて来れないでしょ」



自信満々に語るメフィスト。


だが、彼は知らない。


京太の速度は、メフィストを上回る。



再び、攻撃を仕掛けるメフィスト。


当然のように、一撃を放った後、距離を取る。


しかし、距離を取った筈のメフィストの目の前には、京太の姿があった。



「えっ!?」



驚くメフィストに向かって、振り下ろされる聖剣デュランダル。


メフィストは焦り、慌てて手甲鉤のように変化した爪で

防御を試みる。


だが、受け止めるのは、神気を纏ったデュランダル。


下位の悪魔が、防げるようなものではない。


手甲鉤と同時に、メフィストの首が、斬り落とされた。


地を転がるメフィストの首。


それを見て、悪態をつくデュランダル。


「勝てる訳ないのにぃ~」



悪態をつくデュランダルを手に、京太は、奥へと進む。


アビスの中を進むにつれ、変異した魔物や魔獣が姿を見せたが、

京太の敵ではない。


倒した魔物や魔獣を、次々と、アイテムボックスに放り込みながら

先へと進んだ。



すると、京太の目に微かな光が映る。



「え?」


驚きながらも、ゆっくり近づく。


近づくにつれ、その全貌が明らかになる。



禍々しい楕円形の玉。


その上には、イソギンチャクのような短い触手が生え、光っていた。


そして、その後方から、別の触手が地上へと伸びていた。



「これが、『アビスの奥に巣くう者』?」


そう呟くと、京太の存在に気が付いた楕円形の玉から

攻撃が始まる。


短い触手から、針の様な物が飛び出した。



京太は、デュランダルで弾く。


しかし、針のような物体は、デュランダルに纏わり付いた。



「嫌ぁぁぁぁぁ!」



悲鳴を上げるデュランダル。



「グェヘヘヘ・・・・・」



纏わり付いた物体は、声をあげると、

京太の腕に向かって、スライムの様に、動き始めた。



「これ、生物?・・・・・」



眺めている京太に、デュランダルと化したデュラの声が響く。



「早く取ってよぉ!!!」



「あっごめん!」



京太が、多くの神力を流し込むと、その生物は、あっさりと消滅した。


――もう・・・・・


デュラが拗ねている。


「ごめん、帰ったら何か奢るよ」


その言葉を聞き、途端に、光りを放つデュランダル。


「約束だからねっ!」


そう告げたデュランダルに、過剰なほどの神気を流し込み

放たれた生物を、次々と消滅させるが、きりがない。




厄介な攻撃を放つ、短い触手に向けて京太は、

魔法を放った。



「ホーリーレーザー」



レーザーというのには、無理がある程の巨大な光の柱が、

短い触手に直撃する。



「ギャァァァァァァ!!!」



人の叫び声の様な声を出した『アビスの奥に巣くう者』。


表面が波打ち、苦しそうに悶えている。



――もう一発・・・・・・



再び放たれたホーリーレーザーは、

アビスの壁をも、破壊した。


蠢く何か・・・・


それを守る様に、地上に向かって伸びていた触手が

行く手を阻むように、禍々しい楕円形の玉の前に、壁をつくる。



だが、神力を込めたホーリーレーザーを止める事など、出来ない。


放たれた魔法を前に、触手は消滅し、

楕円形の玉にも深手を負わせた。


「ギャァァァァァ!!!」


暗闇に響く悲鳴。


暴れ出す『アビスの奥に巣くう者』。



その暴れっぷりは凄まじく、アビスが揺れる。


音を立てて崩れるアビス。



――ここは、危険だ・・・・・・



京太は、倒す事よりも、脱出することを優先し、地上に向かって飛ぶ。



アビスから脱出した京太は、大声で皆に伝える。



「アビスが崩れる。


 退避して!」




京太の声を聞き、その場から離れる仲間達。


全員が、塞がれた退路とは違う方向に走り出し、

なんとか危機を免れたのだが、危機が去ったわけでは無い。


京太達の目の前には、

アビスから飛び出した、楕円形の物体が、姿を見せている。



「あれ何?」


「気持ち悪い・・・・・」


皆が思い思いに呟く中、京太が発する。


「あれが、『アビスの奥に巣くう者』の正体だよ」




マジマジと眺める京太の仲間達。


しかし、他にも、この楕円形の玉を眺める者がいた。



ベルゼブと、その配下だ。



ベルゼブは、何故か、険しい顔を見せている。




「まさか、こんな事を企んでいたとは・・・・・」



『アビスの奥に巣くう者』の正体。


それは、悪魔アドラメレク。




アドラメレクは、重要な役割を命令されていた。


『この地に、我等が復活する為の祭壇を造るのだ』


しかし、その命令は、アドラメレクの消滅を意味していた。




精神体である悪魔にとって、『死』は何の意味も持たない。


その為、アドラメレクは、命令を忠実に実行するつもりだった。




しかし、ガーハランドの記憶と肉体を得た時、変化が起きる。



『欲』。



――この世界で、私も・・・・・



生きたいという『欲』が生まれたのだ。


それが、アドラメレクの思いなのか、

ガーハランドの意思なのかは、わからない。



アドラメレクは、与えられた命令を実行するとともに、

自身の復活の為に、行動した。



手始めに、バーレンに住む者達を自身の手足とし、

悪魔復活の祭壇を完成させた。


次に、自身が取り込んだ負の感情を、祭壇に流し込む。


その時、命令を実行しながらも、

少しずつ、自身の復活の為にも利用したのだ。




そして出来上がったのが、楕円形の玉。


本来、悪魔復活の計画に無かった物。



「このようなモノを、創り出すなど・・・・・」



ベルゼブは、楕円形の玉に向かって飛ぶ。


姿を隠している事よりも、

この楕円形を、放置することが許せないのだ。



楕円形の玉の上に立ち、京太達の目の前に姿を見せたベルゼブ。



「また、お会いしましたね」


ベルゼブが、京太に話しかける。



「ベルゼブ!」



咄嗟に構える京太。


しかし、ベルゼブから攻撃を仕掛けて来る気配が無い。



「フフフ・・・・・今は、貴方達に構っている暇は、ありませんので」



ベルゼブは、楕円形の玉の中に、手を突き刺す。



「!?」



驚く京太達を余所に、楕円形の玉の中から、何かを引き抜いた。


「まだ、時間が必要だったようですね」


ベルゼブが手にしたものは、溶解したような物体。


それを見て、微笑むベルゼブ。



「いいことを思いつきました。


 これも、使わせて頂きましょう」



ベルゼブは、その物体を持ったまま、再び空へと上がり

京太に告げる。


「来るなら、来なさい。


 但し、そこが貴方達にとって、最後の場所になるでしょう」



ベルゼブは、そう言い残し、山頂に向けて飛び立った。


ベルゼブが去った後、『アビスの奥に巣くう者』の抜け殻は

徐々に砂となって、この世から消えた。

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