第213話バーレン アビスに巣くう者を目指して2

生贄の祭壇を破壊した稲妻に、エクスは、見覚えがある。


「主!」


エクスの叫びに答えるように、炎の中の京太が動き出す。


炎の中から現れた京太は、案の定、酷い火傷を負っていた。


しかし、あっという間に、その火傷が消える。


その光景に、仲間達も驚きを隠せない。



「お兄ちゃん・・・・・」



「京太は、不死身なのか・・・・・」



――僕は、人と違うから・・・・・・



『不死』といわれるヴァンパイアでも、こんな治り方はしない。



「ごめん、気持ち悪いものを見せてしまったね」


「主・・・・・」



京太は、仲間達から視線を外し、ダンタニアと向き合う。



「始めようか・・・・・」



「ほう、我に戦いを挑むとは・・・・・」



ダンタニアは、剣を構えた。



――デュラ、行くよ・・・・・



『聖剣デュランダル』は、『キラリ』と光って答える。



駆け寄る京太に、迎え撃とうとするダンタニア。



『一閃』



京太の横凪を、剣で受け止めようとしたダンタニアだったが、

不意に、背筋に寒さを感じ、バックステップを踏んだ。



――この感覚は・・・・・・



感覚に従い、バックステップを踏んだ事によって、

京太の横凪を避ける事に成功したが、

それでも、腹部に浅い傷を負っていた。



薄っすらと血が滲むダンタニア。



「これ程だったとは・・・・・」



再び剣を構え直すダンタニアの目の前には、

京太の姿がある。



「くっ・・・・・」



慌てて、距離を取ろうとするダンタニアだったが、

速度で上回る京太には、敵わない。



その為、ダンタニアは、次の手を打つ。



「デスバードよ、行け」


黒い鳥の名前が、デスバードだったことを初めて知る京太の仲間達。


思わず感心していたが、その間にも、京太に襲い掛かるデスバード。



京太への妨害の為だけに、襲い掛かるデスバードだが、

デュランダルの風圧によって、あっさりと塵と化す。




――フフフ・・・・まだだ・・・・・



ダンタニアは、再び配下を召喚する。



「ガーゴイル、出番だ」


街の至る所にある崩壊した建物の壁などが、ガーゴイルへと変化して

京太に襲い掛かる。



京太にとって、ガーゴイルなど、脅威ではない。


デスバードと同じ様に、悉く塵に帰した。




しかし、その光景を、逃げようともせず、

笑みを浮かべながら見ているダンタニア。




「貴様もこれで終わりだ!


 行け、『サラマンダー』!」



タイミングを計っていたダンタニアの言葉に従い、

不可視の魔法で、姿を隠されていた2体のサラマンダーは、

姿を現すと同時に、京太に向けて、炎を吐き出した。



先程と同じ様に、突然襲いかかる炎。


その炎は、京太に火傷を負わせた炎。



――そういう事だったのか・・・・・



ガーゴイルの攻撃は、サラマンダーが位置に着くまでの時間稼ぎ。


京太に、確実に攻撃を当てる為に必要な時間だったのだ。




ダンタニアの予定通り、京太は、炎を浴びた。




サラマンダーは、精霊の力を持つ火竜。


流石の京太も、精霊の力を宿した炎を食らえば、無傷では済まない。



京太は、サラマンダーとの対戦を優先する事にした。


しかし、京太よりも先に、仲間達がサラマンダーに攻撃を仕掛ける。




「お兄ちゃんは、そいつを倒して!」



クオンは、京太に伝えると、エクスとラゴの3人で、火竜に立ち向かう。



「クオン・・・・・」




そして、もう1体のサラマンダーには、

ウルド ツール、ラムザニア、アイシャが、攻撃を仕掛けていた。



「みんな・・・・・・」



サラマンダーの炎が強制的に止められる。



「クッ・・・・・」



京太は、負った火傷を治癒し、ダンタニアの前に立つ。



「小細工は、もういいか?」



「き、貴様・・・・・・」



生贄の祭壇も破壊され、後が無いダンタニアは、剣を構えた。



「貴様は、絶対倒す・・・・・」



突撃してくるダンタニア。


怒りからか、攻撃に隙がある。


そんな状態では、勝てるものも、勝てる筈がない。


攻撃を躱した京太は、隙だらけの胴体に、一撃を入れる。


その瞬間、ダンタニアの体が二つに分かれた。




ダンタニア侯爵が破れ、生贄の祭壇も破壊した。


しかし、ここにも悪魔の姿は無かった。




京太達は、再び周囲を探索に向かう。


再び砂漠を歩いていると、とあるものが目に映る。


山の頂で燃え上がる炎。



「京太殿、あれは・・・・・」


ウルドツールの声に、京太が反応する。


「火事?」


「いや・・・・・」



よくよく見てみると、

その上空には、デスバード達が集まり、何かをしている。



「行ってみよう」



京太達は、山頂を目指して、駆け出す。


それから、暫くして、

山の麓にある森に到着したのだが

突然、大きな地震が起こり、地面が割れたのだ。


そして、割れた地面から、何本も『ワーム』のような『触手』が現れ

京太達に襲いかかる。


それ程、動きが早いわけでは無かったので、

躱すことは容易に出来た。


だが・・・・・


「主・・・・・気持ち悪いです・・・・・」




「わらわは、『ヌルヌル』が嫌いなのじゃ!」




「ほぅ、・・・・・変異体のようですね、それに・・・・・」



皆が嫌がる中、ウルド ツールだけは、触手を切り裂き、

何かを確かめている。


暫く観察をした後、ウルド ツールが声を上げた。


「京太殿、撤退を!」



ウルド ツールに従い、一斉に撤退する。


急いで森から離れる仲間達。




森を抜けると、触手の追跡も止まった。



「あれは、何なのじゃ!?」



アイシャは、ウルド ツールに尋ねる。



「はっきりした事は、言えませんが・・・・・」



ウルド ツールは、そう前置きをした後に語った。




「あれは、私の読んだ文献にあった

 『アビスの奥に巣くう者』の一部だと思います」



「なんじゃそれは?」



皆が疑問を抱く中、京太には、ウルド ツールの言葉で、十分理解出来た。



――夢に出て来た『負の遺産』・・・・・・

  神達の心残り・・・・・・



京太は、その場に辿り着いたのだ。



――【アトゥム】、決着をつけるよ・・・・・・



その日の夜、京太達は、話し合いを行い、

万全を期す為に、仲間を呼び寄せる事にした。



仲間への連絡は、ウルド ツールの眷属の『ボーン軍団』のウルフに任せ、

京太達は、テントを張って、休む。



だが、ここは、敵のど真ん中。


京太は、神力を纏わせたシールドを張る。



「これで、誰も入れないよ」



「そうか」



ウルド ツールは、ラムザニアの待つテントに戻って行く。



テントを張って3日後、

京太は、仲間達と合流した。


同時に、ラムザニアの怒鳴り声が響く。



「貴様は、留守番の筈だ!


 言う事1つ、守れないのか!?」



「姉さん、俺だって・・・・・」



ラムールは、何か言おうとしたが、

ラムザニアに殴られ、最後まで言う事が出来ず、吹き飛ばされる。


轟音と共に、飛んで行くラムール。


地面が、砂という事もあり、意識を飛ばすことは無かったが

再び、ラムザニアのお説教が始まった。



暑い砂の上で、正座させられ、苦しむラムール。


時折放たれるビンタで、目を覚ましていたが、

幾度となく放たれたビンタにより、意識を失った。


「ふんっ、根性のない奴め、この程度の暑さで、音を上げるとは・・・」


「・・・・・」


皆、わかっている。


ラムールが意識を失ったのは、暑さではなく、ビンタだという事を・・・


だが、誰も、その事を口にしようとはせず、ただ、ウルド ツールの方を見ている。


ウルド ツールも、視線が集まっている事に気が付いてはいるが、

わざと、視線を逸らし、気付かないふりをしている。


──おい・・・・・




ラムールが、意識を取り戻した後。京太は、ウルド ツールに聞いた。


「なぁ、お前ら、海中の生物だろ。


 ここにいても、大丈夫なの?」


「私は、元々がヴァンパイアだ。


 問題ではない。


 だが、2人には、少し休憩が、必要かも知れぬ。」



「そうか。


 それって、海水でないと駄目なの?」


「いや、そんな事はない」


「わかった。


 ちょっと待ってて」



そう言うと、京太は、結界の中に、もう1つ、大きな結界を張る。


その張られた結界は、地面にも張られ、四方が固められていた。


結界を張り終えた京太は、その結界内に、水魔法を使い、水を流し込む。



暫くして、砂漠の上に、プールに似たものが完成した。


「これ位の広さがあれば、大丈夫かな?」


「ああ、問題ない。


 感謝する」


ウルド ツールが感謝を述べ、ラムザニアに声を掛けようとしたが

すで、ラムザニアは、プールの側にいた。


「これは、入っていいのか?」


「あ、ああ、勿論だ。


 京太殿が我々の為に、用意してくれたのだからな。」


「そうか。


 京太殿、感謝する」


ラムザニアは、そう告げると同時に、衣服を脱ぎ棄て

結界内の水の中へと、飛び込む。


気持ちよさそうに、人型で泳ぐラムザニアだが、忘れていることがある。


このプールは、四方が透明。


その為、全裸で、泳ぐラムザニアの姿が見えている。


「・・・・・」


「見ちゃ、だめぇぇぇぇぇ!!!」


突然、京太の視界は、何者かによって塞がれた。



ラムザニアとラムール。


そして、ウルド ツールは、この水の中で休憩する事を希望した。


勿論、許可。


女性陣も、交代で水浴びをし、汗を流すが

京太だけは、テントの中から出る事が、許されなかった。




決行の日、京太達は、テントを片付けて再び森へと向かう。


森に入ると、前回の事を踏まえ、警戒を強める。


暫く進み、地面が所々割れた場所に到着した。



「気を付けて」


京太の言葉に従い、周囲を警戒しながら歩くが、

何の気配も感じない。



だが、割れた地面に使づいた途端、揺れが起きる。


再び起きた地震は、退避する道を崩す。


逃すつもりはないようだ。



見計らったかのように、現れる触手。


「皆、行くよ!」


京太達は、触手との対決を余儀なくされた。




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