第210話バーレン 綻びで待つ者達

シーサーペントの案内に従い、バーレンに到着した京太達は、

結界の綻びに向かう。


「確か、この先だったな」


ウルド ツールに従い進んで行くと、

当然の様に、敵の襲撃も激しくなっていく。



しかし、船の護衛をしている海中のシーサーペント達の活躍により、

上空の敵だけに集中出来た。



「ウルド、案内をお願い出来る?」



「当然だ、任せろ」



京太達は、船を守る為に残る者と

ウルド達と一緒に上陸する者達に分かれる事になった。




上陸組には、ウルド ツール、京太、クオン三姉妹、アイシャの6人。


ただし、結界の入り口までは、ソニア達が護衛を務める。


残りの者達は、船を守ってもらう事になった。


「では、行きましょう」




ウルド ツールの案内で、シーサーペントの背に 乗り換え、

結界の綻びから、大陸を目指す。




しかし、予想通り、綻びの周囲には、爵位持ちの竜魔人達が

待ち伏せをしていた。



「本当に来やがったぜ」


「良いではありませんか、暇つぶしに、なりますよ」



竜魔人【ゴルドバ】男爵と【シアンコ】男爵は、余裕の笑みを浮かべている。



「京太、ここは、私達が引き受けるから」



上陸の為に、護衛として同行をしていたソニア達が、名乗りを上げた。



「では、私達が、お相手致しましょう。


 どのみち、この場を守るのは、私達だけでは、ありませんから」




京太達は、ソニア、サリー、ラム、マチルダを残して先に進む。


竜魔人達は、余裕なのか、京太達をあっさりと通す。


そして、姿が見えなくなると、シアンコ男爵が声をかけて来た。



「始めましょうか」



「そうね・・・・・ラム、マチルダ、そっちは任せるわよ」



「了解!」




竜魔人ゴルドバ男爵とラム、マチルダが戦い、

シアンコ男爵には、ソニア、サリーが戦う事になった。




「ほぅ・・・俺様の相手は、貴様達か・・・・・」



剣で肩を叩きながら、ゴルドバ男爵は、品定めをするような目で見ている。



「さっさと、始めましょう」



「そうですね、京太様の後を追いたいですし・・・・・」



マチルダは、早々と魔法を使う。



「ウインドカッター」



周囲から、ゴルドバ男爵を目掛けて、一斉に襲いかかる風の刃。



「ふんっ!」



ゴルドバ男爵は右手を翳し、同じ風魔法を放つ。



「ウインド ウォール」



ゴルドバ男爵を守るように、風の壁が出現し、ウインドカッターを防いだ。



「では、こちらの番だ」


ゴルドバは、槍を取り出すと、一気に距離を詰め、ラムに襲い掛かる。


ラムは、攻撃を剣で受け止める事には成功したが、

ゴルドバの一撃は、想像以上に重く、吹き飛ばされてしまう。



「きゃぁ!」



海上まで吹き飛ばされたラム。


だが、1体のシーサーペントがしっかりと受け止める。



「姉さん、大丈夫かい?」


「えっ、うん・・・・・ありがとう」


「そうか、なら、行くぜ」


シーサーペントは、ラムを背に乗せたままゴルドバ男爵のもとへと向かった。




その間、近接戦の苦手なマチルダは、魔法で攻撃を仕掛けていたが、

悉く、ウインドウォールにより、塞がれていた。



「フッハッハッハッハ・・・・・これ程とは・・・相手にならねぇ」



ゴルドバ男爵は、早々にケリをつけようと、マチルダに襲い掛かる。


しかし、海上から戻ったラムが間に合い、

ゴルドバ男爵の攻撃を防いだ。



「あのまま逃げれば、良いものを・・・・・


 そんなに死にてぇとはな!」



一旦距離を取り、再び攻撃を仕掛けようとしたゴルドバ男爵だったが、

横から飛んで来た剣に邪魔をされる。



「誰だ!」



ゴルドバ男爵が、攻撃が飛んできた方向に顔を向けると、


そこには、見知らぬ男が立っていた。



「力に自信があるなら、俺が相手になるぜ」



ラムもマチルダも『誰っ!?』と思ったが、よく見ると角と尻尾があり

シーサーペントの人化した姿だと、わかった。



「姉さん達は休憩してなよ、此処は俺が相手になる」



シーサーペントは、三又の槍を構えた。



「貴様が先に死にたいようだな」



ゴルドバ男爵は、シーサーペントに襲い掛かる。


しかし、ラムとは違い、

シーサーペントは、ゴルドバ男爵の攻撃を、軽々と受け止めた。



「思ったより、軽いな」



シーサーペントは、受け止めた槍ごと振り払い、ゴルドバ男爵を吹き飛ばす。



「なにっ!」



吹き飛ばされ、無防備な状態のゴルドバ男爵に向かって

次の攻撃が放たれる。



「喰らえ!


 サンダースピア」



無防備な状態のゴルドバ男爵に向けて、

放たれたサンダースピアは、狙いこそ外されたが、

右腕を破壊し、身体に電流を流し込んだ。



「ギャァァァァァ!」



叫び声と同時に、岩礁に叩きつけられるゴルドバ男爵。



「ぐっ・・・・・」



焼け焦げた体で、何とか起き上がろうとした瞬間。


上空から、光りが降り注ぐ。



「ウガァァァァァ!!!」



隙をみて放った、マチルダのホーリーレーザーが

ゴルドバ男爵を直撃をしたのだ。



光りの中で、徐々に粒子となっていくゴルドバ男爵。


そして、光りが収まると、跡形も無くなっていた。


勝つことの出来たラムは、シーサーペントにお礼を伝える。



「有難う、助かったわ」



「いいって、俺は、あいつを倒せたら満足なんだ。


 それより、仲間のもとへ、行ってやれよ」



「ええ」



ラムとマチルダは、急いでソニア達のもとへ向かった。





その場に残ったシーサーペントの周りには、

人化した女性のシーサーペント達が集まり始めていた。



「流石、【ラムール】様」


「当然よ、次期王にして、ラムザニア様の弟君なのよ。


そして、私たちの・・・・・」



「ハハハ・・・止せ、もういいだろ」



「でも、ラムール様は、何故ここに?

 確か、ラムザニア様のお言い付けで、

 メイルストロムに残っている筈では・・・・・」




「・・・・・」




取り巻きの女性達に囲まれているラムールは、

本来、メイルストロムに残る筈だった。




しかし、『戦ってみたい』という衝動に駆られ、

姉であるラムザニアに、内緒で後を付けて来ていたのだ。




そして、ラムが吹き飛ばされた場所に、

偶然居合わせた為に、訪れた参戦するチャンス。


逃す筈がない。


ラムールに迷いは無く、参戦を決意して、見事に勝利を収めたのだ。




その事には満足しているラムールだが、気掛かりな事が残っていた。


戦いに参加した事が、ラムザニアに知られると、厄介な事になる。


その為に、周囲の者達へ口止めをし、

ラムザニアに知られないようにと祈った。



――姉さんに見つかったら、何て言おう・・・・・・



ラム達の戦闘が終わった頃、ソニア達の戦いは続いていた。



「中々の腕前、殺すには惜しいです。


 ですが、この場所を知られたからには、生きて返す訳にはいきません。


 残念です・・・」



「ねぇサリー、こいつ等、前より強くなっていない?」



「私も、そう思う」



2人の意見は一致した。


ソニアとサリーは、竜魔人の爵位を理解している。


強い者ほど上の爵位が与えられ、部下を持つことが出来るのだ。




だが、目の前の竜魔人は、男爵。


強さを認められただけで、部下を持つことが出来無い、下級の爵位。


その男に、ソニアとサリーは、苦戦を強いられているのだ。




ソニア達も、京太の眷属となり、力を与えられている。


それでも、苦戦しているという事が信じられなかった。



――絶対、おかしい・・・・・



ソニアには、何故か、確信めいたものがあった。


それは、眷属としての力なのか分からないが、

その思いを信じ、迂闊に手の内を晒さないように戦っている。




「そちらが、来ないのでしたら、こちらから参りましょう」



シアンコ男爵が、呪文を唱える。



「我が眷属よ、今、この場に姿を見せよ」



『召喚魔法』により、コモドドラゴンに似た地竜が姿を現した。



――あの地竜・・・・・・



ソニアもサリーも、覚えている。


今、この場に現れた地竜。


それは、シャトの街に現れた地竜だった。



途端に、怒りが膨れ上がるソニアとサリー。



あの時の光景を思い出した2人から、

「冷静』とか「迂闊」とかの言葉が頭から消える。



「サリー、先に仕掛ける」



「わかったわ」




戦闘が無い時でも、冒険者として組んでいた2人。


お互いの呼吸は、わかっている。




その為、先に仕掛けたソニアに、合わせるようにサリーは動いた。


1回の召喚で、呼び出された地竜は10頭にも満たない。




サリーは、地竜の殲滅に力を注ぐ。


その間に、ソニアは、シアンコ男爵に立ち向かっていた。



「ぐっ、これは、どういう事ですか!」



先程までとは違い、全力で向かってくるソニアに、

シアンコ男爵は、防戦一方となり、段々と傷を負っていく。




「あんたのおかげだよ、先の事ばかり考えて、力を温存なんて

 私のやる事じゃなかったんだ」



ソニアは、魔剣の特性を利用し、剣に氷を纏わせる。



「切り裂け、『絶対零度』」



慌てて、剣で受け止めようとしたシアンコ男爵だったが、

ソニアの魔剣は、シアンコ男爵の剣を切り、

同時に、体も真っ二つに切り裂いた。



「グハッ!」



口から血を流し、その場に倒れるシアンコ男爵。



もう、動く事は無い。


戦いは、ソニアとサリーの勝利で幕を閉じた。


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