第209話バーレン 再会

シーワン王国から、バーレンへの旅は、

大陸を大きく迂回する事になるので、日数がかかる。




その為、アトラ王国領土の港にも立ち寄り、

追加で物資の補給を行った。






大陸沿いに進む事、五日目。


京太達の船は、アラアイ教国も抜け、

目標のバーレンに向かって海上を進んでいた。




だが、その頃から黒い鳥達による襲撃が始まった。




同時に海中から、半魚人達の襲撃も始まり、京太達は、昼夜問わず、

戦う事を強いられた。




「これ、いつまで続くの?」




「僕も分からないよ、でも、この襲撃も奴らの仕組んだ事なら、

 バーレンに到着するまで、続くと思うよ」




「げっ・・・・・」




ソニアは、自身の質問の答えに、うんざりしながら半魚人と戦う。


そこに、休憩をしていたクオン達が姿を見せる。




「お兄ちゃん、交代だよ。


 ゆっくり休んでね」




クオンは、寝起きのエクスの手を引きながら、甲板に飛び出す。




「エクス、上から来るよ!」




「うん」




寝ぼけながらも、エクスの振った剣が、黒い鳥を真っ二つに切り裂くと

霧散して消えた。



「へぇ~、本当に消えるんだぁ」



感心するように、やって来たデュラ。



「デュラ、貴方は三姉妹の末娘です。


 しっかり、ついて来なさい」



「はぁ~い」



船に乗り込んだデュラは、エクスの勧めもあって、

長女、クオン、次女、エクス、三女、デュラという三姉妹を構成していた。



当初、こんな提案を受ける訳が無いと思っていた京太達だったが、

デュラは、喜んで納得したので、京太達からの文句は無い。



ただ、この話を聞いたラゴだけは、溜息を吐いていた。



バーレンが、あると思われる方角に進むにつれ、

敵の攻撃も激しさを増す。




空から、黒い鳥。


海から、半魚人。




そして・・・・・ついには、竜魔人もが参戦して来たのだ。


竜魔人は、甲板に降り立つと、目に付いた兵士達に襲い掛かる。


「僕達以外は、船内に避難して下さい!」


京太の指示を聞き、兵士達は、急いで船内に駆け込もうとする。


しかし、海から乗船してきた半魚人達が、逃げ道を塞ぐ。


「グギギギギギ・・・・・」


トライデントの様な武器を手に、逃げ惑う兵士達を襲う半魚人。


京太達も、助けに向かいたいが、


黒い鳥と竜魔人達との戦闘で、そこまで手が回らない。



その時、ゲンガが、大声で叫ぶ。



「海中から、何か来るぞ!!!」



一気に緊張が走る。



――こんな時に・・・・・まだ、来るのか・・・・・



戦いながらも、打開策を考える京太。



だが、予想に反し、ゲンガからの報告を受けた後、

半魚人達の乗船が止まる。


――今しかない!・・・・・



そう考えた京太は、もう一度、兵士達に船内に逃げるように指示を出す。


その声を聞いた兵士達は、急いで走り出した。



しかし、今度は、竜魔人が立ち塞がる。



「逃がさねえよ・・・・・」



道を塞ぐように立つ竜魔人。



――この程度なら・・・・・



京太は、周囲の敵を薙ぎ払い、竜魔人に向けて走り出す。


だが、同時に、海中から何者かが飛び出し、竜魔人の首を刎ねる。


「えっ!?」


あまりにも一瞬の出来事に、全ての者達の動きが止まった。



突然、甲板に現れた男女。



「久し振りに、知った気配を見つけたので、

 思わず来てしまったが・・・・・」



甲板に現れた男の面影が、誰かに似ている。


京太よりも先に、アイシャが声を掛けた。



「貴様、ウルド ツールか?・・・・・」



「おや、やはり貴方もいたのですね」



ウルド ツールは、表情を変えない。



「生きていたのか・・・・・」



「まぁ、色々ありましてね・・・・・詳しい話は、後にしましょう。


 今は、この者達を、追い払いましょう」



そう告げたウルド ツールが合図を送る。


すると、海中から、うねりと共に現れるシーサーペント達。




シーサーペントは、黒い鳥や竜魔人に噛みつき、

海中へと引き摺り込んだ。



次々と引き摺り込まれる光景に、京太達は固唾を飲む。



――凄い・・・・・



少し、余裕の出来た京太が海を覗き込むと、

そこには、隙間が見えない程のシーサーペントの群れが、

黒い鳥や竜魔人達を食い散らかしていた。



甲板に立っていた竜魔人達を倒し終えると、

武器を収めたウルド ツールが京太に近づく。



「京太殿、お久しぶりですね」



笑顔で話しかけたウルド ツールに、アイシャが駆け寄る。


「貴様、何のつもりだ!」


「アイシャ ツヴェス、落ち着いてくだい」


冷静に答えるウルド ツール。


だが、アイシャは、手を離さない。


すると、ウルド ツールの横に立っていた女性が、アイシャの手を掴んだ。



「我が夫への無礼は、許さんぞ」



「へ?・・・・・」



手の力が、抜けるアイシャ。


その正面で、引き攣った笑顔のウルド ツール。



「取り敢えず、話し合いを・・・・・」



京太は、アイテムボックスから、椅子とテーブルを取り出す。




「京太殿、一応、シールドをお願いできますか?

 それと、出来たら、大陸の食事をお願いします」



飄々ひょうひょうと告げるウルド ツール。



――こいつ、僕の事もある程度は、知っているのかも・・・・・



京太は、警戒を強めるが

そんな事を気にも留めていないウルド ツール。


出された料理に笑みを零し、ラムザニアと食事をしている。



「久し振りの大陸の食事です。


 これをラムザニアにも食べさせたかったのですよ」



「それなら、大陸に買い付けに行けば良かろう」



「それは、無理です。


 私達は、メイルストロムに住むシーサーペント。


 人々は、恐れています。


 それに、お金もありませんから」




そう言いながら、出された料理を黙々と食べる2人。


食事が、終るまで待つ事にした京太は、ゆっくりとお茶を飲む。


甲板で戦っていた仲間達も、襲撃が収まり、

食事や休憩を満喫している。


ただ、その間も、京太達の方に視線は向けていた。


京太の横には、アイシャが同席している。



食事を終えると、本題へ。


口火を切ったのは京太。


「色々教えて貰いたいのだけど、先ず、どうして、ここにいるの?」



「ふむ・・・そこからですか・・・・・」



ウルド ツールは、大陸で死にかけていた事から、順を追って話をした。


その中で、自身も禁呪を受けていたこと、

そして、奴らの手先に成りかけていた所を、

ラムザニアに助けて貰った事も話した。


京太とアイシャの視線が、ラムザニアに向く。


「自己紹介がまだであったな。


 我が名は、ラムザニア。


 シーサーペントの元女王であり、今は、ウルドの妻じゃ」



そう言うと、ウルド ツールの肩に頭を乗せた。



「ウルドよ、お主、妻を娶ったのか?」



その質問に、ラムザニアが答える。



「何もおかしな事は無かろう。


 それに、我のお腹には、『ややこ』もおるぞ」



「ややこ?」



「赤ん坊の事だ」



ウルド ツールの言葉に、衝撃を受ける。



「・・・・・・!!!」 



瞳孔が開いた目で、問い詰めるアイシャ。



「ウルド、お主・・・・・」



「妻なのだから、不思議な事は無いだろう」



「ま、まぁ、確かにそうなのじゃが・・・・・」



「私が成せたという事は、お主も京太殿との間にも、子が出来るという事だ」



ウルド ツールの何気ない一言に、アイシャの顔が真っ赤に染まる。



「き、き、き、貴様は、何を・・・・・」



「自然な事ではないか」


思考が回らなくなったアイシャは、ポンコツと化す。


1人、妄想に耽り、意味不明な事を呟いている。


仕方なく、京太は合図を送り、クオン三姉妹を結界の中に招き入れ

アイシャを引き取ってもらう。


その後も、話は続く。



「子供が出来た事は、おめでとうかな・・・・・」


「ああ、ありがとう」


「それで、本題に戻るけど、この先は、一緒に戦うと思っていいのかな?」



「構わない、一応、我らとは停戦としておこう」


「わかった。


 これから、宜しく頼むよ」



京太は、ウルドツールと握手を交わした。



「それから、我等も、結界の綻びの場所も突き止めている」



「えっ!?」



「私は負けず嫌いでね、やられたら、やり返す主義なんだよ」



そう言い放つウルド ツールの目には、

殺されたシーサーペント達の無念が、込められているように見えた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る