第208話バーレン 古き友、偶然の出会い



デュラは仲間達に追いつくと、そのまま同行している。


到着した港には、一際大きな船が停泊していた。


「もしかして・・・・・・あれ?」


京太は、その船に向かって指を差す。


「そうよ、あの大きさなら、甲板でも余裕で戦えるでしょ」


「確かに、そうだけど・・・・・あれ、動くの?」




全長約50m、横幅20mの大型船。


エンジンなど無い、この時代で、どうやって動くのか疑問に思う。


「まさか・・・・・人力?」


京太の答えにソニアが、笑いながら答えた。



「そんな訳ないわよ、風魔法よ。


 基本は、風力で進むけど、必要な時には、風魔法を使って動かすの」



「それでも、結構な人数が必要だよね」



「ええ、勿論よ。


 その為に大勢の風魔法の使い手が乗船しているわ」




船を眺めながら、そんな話しをしていると、

体の大きな男が話しかけてきた。



「久し振りだな、旦那!」



「ゲンガ、久し振り。


 もしかして、船長は・・・・・」



「ああ、俺だ!」



日に焼けた顔で『ニカッ』と笑うゲンガ。




「もう荷物は、積み込んだ。


 いつでも出発出来るぜ」



「わかった。


 ところで、行き先は知っているの?」



「勿論だ、危険な事も承知している。


 旦那が行きたいなら、俺は、何処でもついて行くぜ」



ゲンガは、何の不安も無いような笑顔を見せた。


「ありがとう、それから、これで・・・」


京太は、前回同様、多めのお金を渡し、酒と食料の追加を頼む。


「おお!

 ありがてぇ」


「これで、足りる?」


受け取った金を見て、ゲンガは、再び笑顔になる。


「問題ない。


 流石、旦那だ、直ぐに行って来る」


ゲンガは配下を連れ、市場へと向かった。




その間に、京太達は船に乗り込むと、船員の案内に従い、船内を巡る。


船内も、想像通り、広く、

大勢の人間が生活出来るように造られていた。



「京太様方は、こちらをお使い下さい」


京太達は、小部屋だが、1人1人に、個室が用意されていた。


そんな中、勝手についてきたデュラが、次々に部屋の扉を開けて

室内を確かめている。


「ねぇ、僕の部屋は、何処?」




当然のように、問いかけるデュラを、

ラゴが、捕らえる。


「貴様の部屋は無いぞ!」


ラゴは、デュラの襟首を持ち、外に放り出そうとした。



「嫌だよぉ~、京太さん、助けて!」



デュラは、引き摺られながらも、近くにいた京太の足を掴む。


「お願いだからさぁ~」



「えっと・・・・」



悩んでいる京太に、エクスが、改めてデュラを紹介する。




「主、この者はデュラ。


 正式名称は、『聖剣デュランダル』です」



京太の目の前に居る小柄な少女。


銀白の短い髪、白いベストに白のショートパンツ。


腰にレイビアを装着した少女が、人化した『聖剣デュランダル』だという。




京太は、この少女が、人では無い事はわかっていたが、

『聖剣』だと紹介され、驚いていた。



同時に思い出す。


「あれっ、でも聖剣デュランダルは、勇者を追ったとか・・・?」



京太の言葉に、デュラは『ムッ!』とした表情で、訂正を促す。



「それ、違うから!


 僕は、旅に出たかっただけ。


 僕達を放り出した勇者なんて、知らないよ」



デュラは、少し怒った素振りを見せた。



「そうだったんだ、間違えてごめん」



京太が素直に謝ると、デュラは、

ラゴから、脱出し、京太にすり寄った。


「ねぇねぇ、京太さんは、神様でしょ。


 僕も仲間に入れてよ。


 こう見えて、結構役に立つよ」



デュラは、猫の様に京太に擦り寄り、離れない。


ラゴが、デュラを引き離しにかかったが

デュラは、京太に抱き着いた状態のまま、よじ登る。


京太の頭を、抱き抱えたまま動かなくなったデュラ。



――む、胸が・・・・・息が出来ない・・・・・



危うく、窒息しかけた京太だったが、エクスにより助け出された。




その後、話し合いを行い、エクスの説得もあり、

デュラも同行する事になった。



久しぶりに、集まった人化する3剣は、デッキにて佇んでいる。


「貴様は、本当に、勇者を追ったのでは、無かったのか?」


問いかけるラゴ。


「しつこいよ!


 本当だよ。


 まぁ、旅の途中で会うことは出来たんだけどね」


デュラは、少し悲しそうな目をする。


デュラから、語られる勇者の話。


この世界に、魔王という存在が現れ、

その者を倒すべき勇者という者も現れた。


勇者は、仲間を引き連れ、幾度となく戦いを繰り返し

魔王の討伐に成功した。


こうして、世界に平和が訪れた後、

勇者は、持っていた剣を、ある国に授けたのだ。


それが、アトラ王国。


元々、アトラ王国には、光の精霊剣と水の精霊剣があったが、

新たに、聖剣デュランダルと竜魔剣ドラゴンソードが加わる事となった。



その後、剣を預けた勇者は、何も言わずにアトラ王国から去り、

姿を消す。


それから、暫くして、聖剣デュランダルも、宝物庫から抜け出した。


姿を消した時期が、近かったこともあり、

デュランダルは、勇者の後を追ったと思われていたのだが、

それは、間違いで、本人曰く、旅を続けたかっただけらしい。


だが、デュラとなったデュランダルは、

偶然にも、旅の途中で、勇者と再会する。



勇者のその後、それは、あの頃の輝いていた姿とは、かけ離れた姿だった。


全くの別人。


そう思える程、変わっていた。


彼が、住んでいたのは、貧民街の中でも、最も貧しい者達が集う場所の外れ。


本当に偶然だった。


デュラが、生活費を稼ぐ為に、おこなっていた悪党討伐。


それが、勇者との再会のきっかけとなる。


悪党を追い、この貧民街にやって来たデュラは、

悪党が逃げ込んだと思われる小屋を発見し、乗り込む。


確かに悪党はいた。


だが、悪党の他に、地面に敷いた藁の上で、横たわっている男もいたのだ。


悪党を倒した後、横たわっている男に、目を向ける。


汚れていようが、痩せこけていようが、デュラにはわかる。


「勇者だよね・・・」


その言葉に、男は、微笑む。


「こんなところで、何をしているの・・・・・」


討伐した悪党の事など、どうでもいい。


デュラは、勇者を助けようと思った。


だが、それを勇者は断る。


勇者曰く、死期が近い事。


それが、断った理由。


デュラもわかっていた。


聖剣デュランダルは、大量の魔力を消耗する剣。


ドラゴンソードも、魔力を消耗するが、

デュランダルは、それ以上に、魔力を必要とするのだ。



強力な敵を倒す為、勇者は、デュランダルを好んで使っていた。


その様な剣で、使い戦闘を繰り返せば、どうなるかなど、言うまでもない 。


魔力が枯渇し、動けなくなるどころか、命の危険もあるのだ。


それでも、勇者は、戦わなければならない。


その為、勇者が取った行動は、魔力を生命力で、補うという方法。


生命力とは、命の力、すなわち寿命。


勇者は、寿命を削って戦い、

魔王に勝利し、この世界に平和をもたらした。


しかし、その代償として、

聖剣を手放した時には、既に命の炎は、消えかけていた。


当然、勇者もわかっている。



だから、勇者は、報奨金や武具などを、3人の仲間に、全てを分配した後、

国を去った時と同じように、姿を消したのだ。




勇者の望み。


それは、静かに眠ること。


その願いを果たせる場所が、この貧民街だったのだ。


誰にも関与されず、誰にも看取られず、静かに朽ち果てて行く。


戦いも無く、利用もされない、煩わしさからも逃れられる場所。



勇者は、再びデュラに笑顔を見せる。


「ありがとう・・・」


その言葉を最後に、命の炎は消えた。



穏やかに眠る、勇者の表情は、

とても穏やかで、デュラも初めて見るものだった。



勇者を、埋葬したデュラは、墓石を見つめている。


やはり、長き時を過ごして来た者との別れは、寂しく思える。


聖剣に、悲しみといった感情があっても、涙は流れない。


それでも、涙が出そうになる。


別れを惜しみながらデュラは、背を向けて歩き出す。


「あ~あ、今度は、死なない人がいいなぁ~」


独り言を呟き、新たな地へとむかう。



それから長き年月が経ち、

シーワン王国で、エクスたちを再会したのだ。


話を聞き終えたラゴとエクス。


「そうであったか・・・・・」


勇者に同行していたラゴも、感慨に耽ている。


そんな状況でも、エクスは変わらない。


「それで、お主は、本当にこの旅に、ついて来るのか?」


「うん、そのつもり。


 ダメかな?・・・」


「お嫁さんになると言っていたが、それはいいのか?」


「ん?」


「先程、申しておっただろう。


 『僕もお嫁さんになりたいの!』と」


何時になく、流暢に話し、モノマネまで披露するエクスに

ラゴは、笑いが堪えられない。


「ククク・・・・エクスよ、もうよいではないか。


 これ以上、デュラで遊ぶでない」


「え・・・・・」


困惑するデュラに、ラゴが告げる。


「デュラよ、お主は、エクスに遊ばれておったのじゃ」


「むぅ~」


頬を膨らませ、エクスを睨むデュラ。


3人は、旧知の中である為、エクスも、再会が嬉しくなり、

何時になく、ふざけた態度を取っていたのだ。


それを、ラゴは、理解していたが、

デュラは、揶揄われている事さえ、わかっていなかったようだ。


相変わらず、頬を膨らませているデュラ。


近づき、そっとデュラの頭を撫でるエクス。


「もう、心配ない。

 

 主がいれば、大丈夫です」


それだけ伝えると、エクスは、船内へと戻って行った。


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