第207話バーレン 悪魔との遭遇と疑問

先手必勝とばかりに、速度を上げ、

京太に接近するアステロト。


だが、京太もアステロトに向かって飛び、

交差する手前で、姿を消した。


「なっ!」


驚いたアステロトは、その場所を通り過ぎて止まった後

京太を探す。


「何処に行ったのだ!?」



キョロキョロと周囲を見渡しているアステロトの真上から、

声が聞こえて来る。



「僕は、此処だよ」


京太は、ゆっくりと降りてきた。


再び大剣を構えるアステロト。


「次は見逃さぬ・・・・・」


そう呟いたアステロトの体に、一本の線が浮かび上がった。


時間と共に、血が滲む。



「ん・・・・・これは、なんだ?

 どうしたというのだ!!!」



アステロトの体に、浮かんだ線に沿って、体が、二つに割れ始めると

大量の血が噴き出した。


「グギャャァァァ!」


響き渡るアステロトの叫び声。


だが、その声も、徐々に小さくなり、

最後には、粒子となって、この世から消えた。




その光景を見届けた京太は、アステロトの消滅を確認した後、

アイテムボックスに、剣を戻す。



戦いを終えた京太だが、アステロトの言葉を思い出していた。



――『フライナイツ』?・・・・・

   いったい、何体の悪魔が・・・・・


  

多くの悪魔が復活した可能性を考慮し、

予定を変更し、仲間と合流することにした。



だが、その前に、一旦、シャトの街へと戻る。


その理由は、今回の事を国王にも、報告するという事もあるが

それとは別に、もう一つあった。


天使族という部族の力の源は、羽に詰まっている。


それは、ハーフ天使であるフーカも同様。


この度の漆黒の竜魔人との戦いで、

両翼と背中にダメージを受けたフーカが、

気を失ってしまったのも、それが原因。


天使の羽は、精密機器と似たようなところがあり、

幾ら、外観を修復していても、

再度、データを読み込ませなければ使い物にならない。



今回、翼に穴を開けられた為、

フーカの両翼は、データを失った精密機器と同じような状態なのだ。


その為、完全回復までには、数日の安静が必要となり、

京太は、シャトの街に戻る事を決めたのだった。


数日掛けて、シャトの街の屋敷に戻った京太は、スミスを呼ぶ。



「御用でしょうか?」


「うん、悪いけど、フーカをお願い出来る?」


その言葉を聞いたフーカが抵抗する。


「京太、わたしは、大丈夫だよっ!」


「ダメ、体調が良くなるまでは、大人しくしていてね」


「ぶーーー」


不貞腐れた態度を見せるフーカ。


だが、本人が一番わかっていた。


漆黒の竜魔人との戦いの後、京太の力で、回復をさせてもらったが

何故か、しっくり来ていない。


バーレンに向かって、ただ飛んでいる時でさえ、

気を抜くと、落ちてしまいそうな感覚に、襲われる。


なので、本心を言えば、シャトの街に戻るという京太の提案は

有難かった。


でも、仲間と一緒に戦い気持ちもあり、不貞腐れた態度を取ったのだ。




京太は、フーカのそんな気持ちも、理解していた。


笑みを浮かべ、フーカの頭を撫でる京太。


「元気になったら、また、一緒に行こう」


フーカは、その言葉を聞き、同じように笑みを浮かべる。


「約束だからね!」


そう言い残し、スミスと共に、自室へと向かう。




フーカを見送った後、

京太は、エイリーク国王に会いに行く。


転移の鏡を使い、王宮に出向いて

廊下を歩いていると、ハーリー王子に出会った。


「京太殿?」


「あっ、ハーリー王子。


 陛下は、どちらにおられますか?」



「父上なら、中庭で見かけましたよ」



「有難う御座います」



京太が中庭に到着すると、驚くような光景が広がっていた。


確かに、中庭には花があった。


だがそれは、小さな花壇に植えられている程度だった筈。


でも今は、中庭全体が、花畑と化している。


そんな中で、娘達を愛でているエイリーク国王。


声を掛ける京太。


「陛下、今、宜しいですか?」


エイリーク国王は、振り返る。


「京太殿か、もう少し待ってくれぬか、

 もうすぐエヴィータが、この子達を迎えに来るのでな」


それだけ伝えると、再び、娘たちの方へ顔を向ける。


満面の笑みを見せ、娘たちを愛でているエイリーク国王の姿に

京太は、呆れたような顔になってしまう。


――なんか、親バカが、進んでいるような・・・・・


そう思ったが、口には出さない。


京太も、エヴィータ王妃を待つことにして

近くにあった椅子に腰を掛けた。



目の前では、花を愛でて、戯れるアリエル達。


その様子を、目を細めて眺めるエイリーク国王。



――なんか、ここだけ平和だなぁ・・・・・・



そんな事を思っていると、あっと言う間に時が過ぎ

エヴィータ王妃が姿を見せた。



「あら、京太様」



エヴィータ王妃は、驚きながらも、娘達のもとへと向かう。



エヴィータ王妃は、3人娘と言葉を交わした後、京太のもとへと戻って来た。


そこに、エイリーク国王の姿もある。



「今日は、どうかされましたの?」



「はい、実は・・・・・・」



京太は、武装国家ハーグでの出来事を語った。


聞き終えたエヴィータ王妃は、暫くの沈黙の後

京太に問いかける。



「それで、今後は、バーレンに向かうのですね」



「はい、そうしないと、先に進めませんから」



「わかった。


 儂らに、出来る事があれば、何でも言ってくれ」



「有難う御座います。


 その時は、お願いします」



2人と、話を終えた京太は、屋敷へと戻った。


その翌日、転移の鏡を利用し、シーワン王国に到着した京太達は、

その足で、港へと向かう。



港に向かう途中にある、市場の中を歩いていると、

急に、ラゴの足が止まった。


「・・・・・」


――あ奴なら、面倒じゃ、

  ここは、気付かぬ方が・・・・・・


凄く嫌な顔をしているラゴ。


京太は、その様子が気になり、ラゴの向いている方へと視線を向けたが

どうして、そんな顔をしているのか、わからなかった。



「ラゴ、どうしたの?」


「・・・・何でもない。


 主様、先を急ぐぞ」


そう伝えて、京太の手を取ったラゴ。


だが、その時、

向こうも、ラゴに気付いたらしく、

こちらに向かって、手を振った。


「ラゴ、知り合い?」


「いえ、知りません。


 主様、先を急ぎましょう」


ラゴは、知り合いではないと言っているが

手を振っていた少女は、後をついて来た。


「あれは、誰じゃ?」


アイシャが、歩きながら問いかけるが、

ラゴの返事は、変わらない。


「知り合いなどではないぞ、

 もう、気にするな」


ラゴが、歩く速度をあげると、

少女も、速度を上げる。


結局、港までついて来た少女に、

足を止めたラゴが、歩み寄る。


笑顔を見せる少女。


「久し振りだねっ!」


「・・・『久し振りだねっ!』ではないわ!

 貴様は、何故、ついて来るのじゃ!」

 

「ラゴって、今は、人型なんだ」


「ぐっ・・・相変わらず、人の話を聞かん奴じゃ。


まぁ、今は、そんな事は、どうでも良い。


 貴様は、ここで何をしておるのじゃ?」


「ん?

 僕?

 久し振りに仲間を見つけたから、話をしているところ!」



――こ奴・・・・・



ラゴは、少女を睨む。


だが、お構いなしに、少女は問いかける。



「それよりさぁ、ラゴは何処に行くの?」


「貴様には、関係の無い事じゃ」


「いいじゃん、教えてよぉ」


甘えたような態度で、ラゴの腕に抱き着く少女。


「離せ!

 わらわは、忙しいのじゃ!」


ラゴは、必死に振り払おうとしているが、少女は離れない。


「教えてくれるまで、ついて行くよ」


2人が『来るな!』、『ついて行く!』という押し問答を続けていると

京太が近づいてくる。


「主様、来ては駄目じゃ!」


「主様?・・・・・」


その言葉に反応して、少女の目が細くなる。


目の前で、足を止める京太。


少女は、京太をじっと見つめながら、ラゴに問いかけた。


「ねぇ、ラゴ。


 紹介してよ」


腕を掴んだまま、ラゴを振り回す少女。


「貴様には、関係ない。


 とっとと失せろ!」


「えーいいでしょ」


ブンブンとラゴの腕を振り回しているが、

ラゴの態度は変わらない。


その為、少女は、ラゴから、京太へとターゲットを変えた。


「僕は、【デュラ】だよ。


 ラゴの友達」


そう言って、右手を伸ばす。


「えっと・・・・・僕は京太・・・です」


京太は、デュラの差し出した手を握る。


――しまったぁぁぁぁぁ!・・・・・・


ラゴは焦り、駆け足で2人に歩み寄る。


だが、デュラも何かを感じ、動きを止めていたが、

我に返ると、ラゴに問いかける。



「・・・・・ねぇ、この人、『人』じゃないよね・・・」



──やはり、バレたか・・・・


ラゴは、慌てて2人の手をほどく。


「もう、良いな、

 わらわ達は、行くぞ」


京太の手を引き、その場を去ろうとするラゴ。


だが、、デュラは、京太の服を掴んで止める。


「待ってよ、僕も連れて行ってよ」


「え?」


驚く京太。


嫌そうな顔をするラゴ。


デュラは、京太の服を握ったまま

ラゴを睨みつけた。


「ラゴ、独り占めは良くないよ」


「独り占めではない、主様には、他にも奥方がおられるのじゃ」


デュラは、ラゴの発言に驚く。



「他に奥方?

 奥方って、もしかして、ラゴも奥さんなのっ!」



『しまった』という顔をするラゴだったが、時すでに遅く、

デュラは、満面の笑みを浮かべていた。


「ねぇ、僕も入りたいなぁ~」



ラゴの顔を覗き込むデュラ。


顔を合わせようとしないラゴ。


――どうしたら良いのじゃ・・・・・・


ラゴが悩んでいると

港の近くだったおかげで、京太の仲間達が、偶然通りかかった。



「あれ、京太さん!」


ラムが気付くと、他の者達も気が付き、仲間達が集まる。


すると、その中にいたエクスが気が付いた。


「デュラでは、ないか?」


「あっ!

 エクスだぁ!」


京太から離れ、エクスに抱き着くデュラ。


「お主は、ここで何をしているのだ?」


「それはね・・・・・」


デュラは、少し間を置いた後、エクスに告げる。


「僕もお嫁さんになりたいの!」


「そうだったのか、頑張れ!」


「ありがとう!」


満面の笑みを見せて、喜ぶデュラ。


エクスは、そんなデュラを無視して、京太の手を引く。


「主、船を見に行きましょう」


「あっ、うん・・・・・」


何事も無かったかのように、京太の腕に抱き着き、歩き出すエクス。


仲間達も、その後ろを付いて歩く。


取り残されたデュラ。


「・・・・・え?」


デュラは、慌てて後を追う。


「ちょっと待ってよぉ!」

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