第206話バーレン 顕現する悪魔

黒い塊は、グネグネと動き出し、何かに変化しようとしている。


だが、京太達に、それを待つつもりなどない。


アイシャの指示に従い、ライカンスロープの4人は、

四方から、一斉に攻撃を仕掛ける。


狙いは、黒い塊から、伸び出した部分。



この地に残っている敵は、この塊だけ。



おかげで、集中して攻撃を仕掛ける事が出来たが、

ダメージを受けている様には、見えない。


剣で切っても、直ぐに復活し、元の状態へと戻る。


ならばと、魔法攻撃を仕掛けてみたところ、

消滅した部分は、元の形へともどったのだが、

黒い塊の体積が、減ったように思えた。


「魔法じゃ、魔法で攻撃を仕掛けるのじゃ!」


アイシャの指示に従い、魔法攻撃に切り替え

再び、一斉攻撃を仕掛けた。


徐々に、小さくなっていく黒い塊だが、

そんな中でも、何かに変化しようと蠢いている。


そして、その努力が、報われたとでもいうべきなのか

とうとうその姿を、現す。


黒い塊が変化し、現れたのは、巨大な漆黒の竜魔人だった。


だが、攻撃を受け続けたせいなのか

歪な形をしており、はっきり言えば、漆黒の竜魔人かな?

というレベル。


新たに現れた漆黒の竜魔人は、雄叫びをあげ、

『恐怖』に陥れようとするが、

ここにいる者達には、効かず、反撃を受ける。


完全体としての復活が、叶わなかった為

攻撃も単調で、今までの漆黒の竜魔人との力の差は歴然としていた。


京太達の攻撃を受け、

悲鳴のような叫び声を上げながら、腕を振り回す漆黒の竜魔人。


危険な攻撃と言えば、時折放たれる、暗黒のブレス。


赤とも黒とも言い難い色のブレスは、地面を溶かす。


地を溶かすほどの威力を持つ、危険なブレスだが、

ライカンスロープ達は、そのブレスを躱して、攻撃を仕掛けている。



ノーグとヒムは、右足を切断する。


「グゥアァァァァァ!」


悲鳴を上げ、跪く漆黒の竜魔人。


体制が崩れたところを狙い、背後からナサドが左足を狙う。



「グギャァ!」



両足を傷つけられ、立ち上がる事の出来なくなった漆黒の竜魔人は、

訳の分からない言葉を発しながら、大暴れする。



だが、立つことが出来ない為、ジタバタしているようにしか見えず

その姿は、駄々をこねる子供。


「なんだか、気が逸れるのぅ・・・」


「そう言うでない。


 あ奴も必死なのじゃ」


ラゴとアイシャの会話を聞き、京太も溜息を吐いた。


傷は、癒えたとはいえ、フーカは、見学している。


その為、現在、戦っているのは、ライカンスロープの4人。


ライカンスロープ達は攻撃の手を緩めない。



「気を抜くな!


 奴は、何かを狙っておるかもしれぬぞ」


その言葉通り

漆黒の竜魔人は、膝をつき、ブレスを吐く。


「退避!」


ライカンスロープ達はブレスを回避し、再び攻撃に打って出る。


こうして、攻撃を繰り返していると

ノーグとヒムの剣先が、何かに当たる。


今までと違う感触。



「アイシャ様、あそこに、何かがございます」



その言葉を聞き、ラゴとアイシャが、駆け出した。



「うむ、よくやったぞ!


 後は、わらわらに任せよ」



「はっ!」


ノーグから、その位置を聞き出した2人は、

漆黒の竜魔人に、突撃する。


ラゴが先頭に立ち、漆黒の竜魔人の攻撃を引き付け、隙をつくる。


そして、出来た隙をつき、一撃を加えるつもりなのだ。


その作戦は成功し、漆黒の竜魔人の意識を、完全にラゴへと引き付けた。



「アイシャ、今じゃ!」




その声に従い、ブラッディソードを構えるアイシャ。


狙いは、臍の下。


所謂、臍下丹田せいかたんでん




アイシャは、その場所に、寸分の狂いもなくブラッディソードを突き立てる。


当たった感触が、手に伝わる。


再度、力を入れ、押し込んだ後、引き抜くと

ブラッディソードの剣先に、『赤黒い球体』が突き刺さっていた。


赤黒い球体が、体内から引き抜かれると同時に、

漆黒の竜魔人の姿をしていた黒い塊が溶け始め、

最後は、液体へと変わり、二度と動き出すことは無かった。



武装国家ハーグの国境線での戦いは、こうして勝利をおさめる事が出来たが

悪魔、ベルゼブは、取り逃がしている。


その為、一刻も早く、バーレンに向かう必要があるが

フーカの回復の為、暫くは、武装国家ハーグに滞在することにした。



翌日、報告の為、京太達は、アリソン タガート女王に

面会を求める。


すると、案内役に、インガム タガートが姿を見せた。


「京太殿!」


駆け寄って来るインガム タガート。


「次期宰相が何をしているの?」



「この様な時ですので、

 出来る事をしなければと思いまして・・・」

 


「そうなんだ」



「はい。


 それで、敵は?」



「その事は、女王に会ってから話すよ。


 案内、頼めるかな?」



「わかりました。


 こちらへ」



京太達は、インガム タガートの案内に従い、城の中に入る。


城の中も、どこか落ち着きが無く、

『ピリピリ』とした雰囲気が漂っていた。




インガムタガートに案内された部屋は、アリソン タガートの私室だった。



「母上、京太殿をお連れ致しました」



「入って、頂いて構いません」



扉を開け、中に入ると、

前国王ルドガー タガートと現国王アリソン タガートも鎧を身に着けている。


──いざという時の為かな?・・・・・


一応、斥候が報告をしている筈だが、

それでも、気を緩めてはいないらしい。


「あの・・・」


アリソン タガートは、京太が言葉を発する前に歩み寄る。




「京太様、この度は、我が国の為に、ご尽力頂き、有難う御座います」



深々と頭を下げるアリソン タガート。


その後ろで、インガム タガートも頭を下げている。



「気にしなくていいよ」



京太は、砕けた言葉を使い、場を落ち着かせようとした。


その意を、理解したのか、アリソン タガートの表情も、

若干、緩む。



「それで、その・・・・・」


アリソン タガートが、聞きたいことはわかっているので、

先手を打ち、報告する。


「アラアイ教国から、こちらに向かっていた軍勢は、排除しました。


 ですが、この国のドラゴンライダー達は全滅し、

 残ったのは、少数の兵士と、僕達だけです」


「・・・・・そうですか」


多くの兵を失った事実に、アリソン タガートの表情は暗い。


しかし、何時の間にかアリソン タガートの横に立っていたルドガー タガートが

アリソン タガートの背中を優しく叩く。




「その様な顔をするでない。


 それでは、我が国の為に命を落とした兵士や、

 目の前の京太様方に、失礼だぞ」




「そうですね、

 京太様、申し訳御座いません」



「気にしないで下さい。


 ですが、戦いは、まだ終っていません。


 今回の戦いで、悪魔を確認しましたので」




「え・・・・・」




この言葉に、ルドガー タガート、

インガム タガート、アリソン タガートが固まる。




「それは、真ですか?」




「はい。


 その悪魔は、直ぐにその場から去ったので、

 脅威は、残っています」



その事実を聞き、アリソン タガートは、覚悟を決める。



「わかりました。


 ご報告、有難う御座います。


 それと・・・・」


アリソン タガートは、京太から視線を外し、

同行していたミカールへと視線を向ける。


「ミカール様、もう一度、ドラゴンライダーの育成に、

 お力を、お貸し頂けませんでしょうか?」



突然、名前を呼ばれたミカールは驚きながらも返事をする。



「えっ、はい、私で良ければ、お力をお貸し致します」



アリソン タガートは、ミカールに深々と頭を下げた。



今後も、軍事に、力を入れる事に決めた武装国家ハーグ。


確かに、脅威が去っていない現状を考えると

間違いとも思えない。



それに、この国のトップが、決めた事。


京太は、その意思を尊重し、城を出た。



京太達は、城から離れると、今後の事を考える。


このまま、バーレンに、向かうのか?


それとも、ソニア達と合流するべきなのか?


悪魔が、顕現したことを考えると、

合流した方が、良いかもしれない。


だが、彼女たちの意思を、尊重したい思いもある。



悩んだ末、京太達は、バーレンに向けて出発した。



武装国家ハーグを出発してから数日後、

京太達が、バーレンに向かって、海上を飛んでいると

一つの影を見つける。



京太達は、進路を変更し、その影に向かって飛ぶ。


距離が近づくにつれ、

その正体が、見えてきた。



その影の正体は、

ベルゼブと同じ、赤い肌に角を生やした男(悪魔)だった。


悪魔も京太達に気が付き、旋回して、京太達の正面に陣取る。



「貴様が、ベルゼブ様を追う者か・・・・・・」



悪魔は、品定めをする様に、下から上えと舐め回すように京太を見る。



「ベルゼブ様の仰られた通り、神の匂いがするな・・・」



悪魔は、間髪入れず、両手を掲げて、呪文を唱える。


「闇より深き場所にて、就眠しゅうみんし者達よ

 我が力を贄とし、

 今再び、この地、この場所に顕現することを是認ぜにんする。


 出でよ、我が下僕たちよ!」



 呪文を唱え終えると、悪魔の背後に、ガーゴイルの集団が姿を現す。



「先ずは、我が下僕が相手をしよう」


悪魔の言葉に従い、

ガーゴイルの集団から放たれる水の槍。


その全ては、確実に京太を狙っている。



だが、京太も茫然と見ていたわけでは無い。


京太の張ったシールドが、ガーゴイルの槍を弾く。


少し、驚いた表情をする悪魔だったが

次の瞬間、それ以上に、驚く事となった。


目の前にいた筈の京太の姿が消えたのだ。


「!!!」


悪魔は、その姿を見つける事が出来ず、辺りを見渡していると

突然、目の前に現れた京太から、一撃を喰らう。


『グガッ!!』


吹き飛ぶ悪魔。


海面を転がった後、何とか体勢を整えた悪魔は、

京太へと視線を向けた。


その瞬間、思わず声を上げる。


「貴様、何をした!」


悪魔は、京太を睨みつける。


その理由は、先程、召喚したガーゴイル達の姿が無くなっていたからだ。


「貴様が、何をしたかと聞いているのだ!」


再び問いかけた悪魔が、

よくよく見てみると、

京太の握った手から、砂のようなものが零れ落ちている。



「貴様、私の下僕を・・・・・・」



「下僕?

 ああ、あれなら、消したよ」



京太は、そう言いながら挑発する様に、手を開く。


すると、残っていたガーゴイルの破片が、風に飛ばされた。


怒りを露にする悪魔。


「絶対に許さん!」


悪魔は、空に向かい左手を掲げる。


「我が名は【アステロト】、ベルゼブ様直下『フライナイツ』の1人。


 この場で、貴様を屠る者だ」



名乗りと同時に稲妻が走り、紅く染まった大剣が左手に現れた。


「覚悟してもらおう!」


アステロトは、紅く染まった大剣を手に、

京太に戦いを挑む。


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