第205話 バーレン 対決 漆黒の竜 2

漆黒の竜魔人と対峙するラゴ。



――仲間を傷つけた報い、受けてもらうぞ・・・・・



ラゴにも後悔があった。


アイシャを唆したのは、自分だ。


勿論それは、悪意からではない。


だが、結果が全て。



後悔、悔しさ・・・・・そんな感情で、心を埋め尽くしていたが

それを表に出すわけにはいかず、冷静を装っている。



ラゴは、2体の漆黒の竜魔人に目掛けて走り出す。



――許さぬぞ・・・・・


迫るラゴに対して、

漆黒の竜魔人は、容赦なくブレスを放ち、応戦する。


しかし、ラゴには、当たらない。


それどころか、ブレスを上手く躱して、漆黒の竜魔人に近づくと、

持っていた剣を、漆黒の竜魔人の目に付き刺した。



「貴様には、苦痛を味わってもらうぞ」


剣を抜き、距離を取るラゴ。


ラゴに、両腕を切断されていた漆黒の竜魔人は、目も潰され

叫び声を上げる。


その隙に、魔法を放つ。


漆黒の竜魔人の足元に、魔法陣が浮かび上がる。


そして、魔方陣の外周から、一斉に炎が噴き出した。



『フレアサークル』



「貴様らの大好きな、地獄の業火じゃ、わらわに感謝するがよいぞ」



『グワギャァァァ!!!』



言葉にならない悲鳴を上げ、業火の炎で焼き尽くされてゆく。



声にならない叫び声を上げながら、灰と化していく漆黒の竜魔人。



ラゴの圧勝。


だが、もう1体残っている。


ラゴは、その漆黒の竜魔人へと、視線をむけ、

剣を突き出す。



「残るトカゲは、貴様だけになったのぅ・・・・・

 何時でも良いぞ。


 貴様らが、幾ら、姿かたちを変えようとも

 所詮は、トカゲ。


 わらわの敵ではないわ!」


強く言い放たれた言葉。


そんなラゴの姿を、アイシャは、呆然とみていた。


──強い・・・


戦いに参加しようと、追いかけてきたが、

ラゴの圧倒的な強さを目の当たりにし、

ただ、呆然と見ているだけしか出来ないのだ。


そんなアイシャに、ラゴが、声を掛ける。


「もう、傷は、癒えたのか?」


「う、うむ。


 先程は、後れを取ったが、もう大丈夫じゃ」


「・・・そうか、ならば、あ奴の始末は、

 貴様に任せても、良いかのぅ?」


その言葉は、ラゴの優しさでもある。


3度目の正直。


アイシャも、負ける気などない。


それに、京太から力も貰った。


アイシャは、ゆっくりと前に出る。


だが、アイシャが、ラゴの横を通り過ぎようとした時、

ラゴが、左腕を伸ばし、道を塞ぐ。


そして告げる。


「これは、姉からの餞別じゃ。


 わらわの血を、くれてやろう」



アイシャは、無言のまま、左腕に牙を立て

ラゴの血を、受け取った。


「・・・・・美味じゃ」


「当然の事。


 わらわの血が、不味い事などあり得ぬわ。


 ここまでお膳立てをしてやったのじゃ、

 敗北など、許されぬぞ」


「わかっておる。


 そこで、見ておくが良い」


再び、漆黒の竜魔人に正面に立ったアイシャは、

指先を少し嚙み千切り、血を零す。


「さぁ、ここからが本番じゃ!」


その言葉に、従うように、流れ出た血は、

徐々に形を変え、最終的には、剣の形へと変化した。


『ブラッディソード』


ヴァンパイアの特技の一つ、血流操作で、生み出された剣だが

その剣には、京太の神気とドラゴンソードの血を含んでいる。


叫び声を上げ、躊躇なく突進してくる漆黒の竜魔人。


一度は倒した相手だからと、余裕があるのか

その攻撃は、あまりにも単調なものだった。


接近し、爪で、切り刻む。


距離を詰めると同時に、振り下ろされる。


しかし、そんな攻撃で、今のアイシャを切り刻むことなど、不可能。


漆黒の竜魔人の攻撃を、ブラッディソードで、受け止めた筈だったが

爪まで、斬り落としてしまう。


驚き、距離を取ろうとする漆黒の竜魔人。


だが、アイシャが、それを許さない。


逃げる漆黒の竜魔人を追い詰め、ブラッディソードを振るう。


腕、足、首と、次々に切り落とし、漆黒の竜魔人の息の根を止めた。



漆黒の竜魔人から、勝利を得たアイシャは、フゥーと一息つく。


そこに、ラゴを先頭に、京太とフーカも姿を見せた。


「まぁ、なかなかだったぞ」


ラゴからの言葉受け、視線を逸らすアイシャ。


「フンッ、わらわとて、ここまでお膳立てしてもらったのじゃ

 敗北など、ありえぬわ!」


吐き捨てるように、放った言葉だが、

負けず嫌いのアイシャらしいと思えた。



しかし、戦いは、まだ、終わってはいない。



京太が、顔を空に向けると、

そこには、一機だけとなったミカールが、必死に戦っていた。



「他の者達は?」



急いで辺りを見渡すと、瀕死状態で横たわる竜達を発見する。




――付け焼刃では、竜達に負担をかけたようだ・・・・・



流石に、短期間でのドラゴンライダーの育成は難しかったようだ。


その為、武装国家ハーグの兵士達を守る為に、

竜達が体を張りカバーしていたのだ。


だが、それにも限界があり、

傷ついた竜達は、戦闘不能にまで追い込まれ、地に落ちた。



ラゴは、空へと上がり、ミカールと合流する。



「ラゴ殿、漆黒の竜は?」


「問題ない」


その言葉に安堵し、後は、黒い鳥だけとなったことに

笑みを零す。



そして、提案をする。



「ラゴ殿、我にお乗り下さい。

 

一気に、けりを付けます」



ミカールは、ラゴの返事も聞かず、

乗っていた竜から飛び降りた。



そして、ミカールは天竜の姿へと戻る。


「どうぞ、我に!」


その言葉に従い、ラゴが天竜の背に乗ると、ミカールが告げる。



「ラゴ殿、暫くの間、防御をお願いします」



「うむ」



天竜に襲い掛かる黒い鳥達を、ラゴが魔法で塞ぐと

攻撃に集中できる天竜は、光のブレスを放った。



消滅していく黒い鳥達。


圧倒的な、攻撃を前に、成す術がない。



しかし、このまま終わるかと思ったその時、

黒い鳥たちの動きに、変化が起きる。


目の前にいる天竜を無視し、

ある場所へと、突進していく。



そのある場所とは、漆黒の竜の胴体。


京太に敗北し、両手、両足、4本の首を失い

ただの塊となっている胴体に、黒い鳥たちは、迷いなく突進する。


そして、衝突すると同時に、黒い鳥が胴体に吸い込まれた。



「なんじゃと!」


「!!!」



驚く京太達を他所に、黒い鳥達は、

次々に、胴体に取り込まれいく。


比例する様に、胴体も大きくなる。


この状況に、京太は、走り出す。



それに続く仲間達。



アイシャは、走りながら、下僕を呼び出す。


「ナサド、ネラ、ノーグ、ヒム、おるな」



「はっ!」



アイシャの影から呼び出された4人のランカンスロープは、

アイシャと並行して走っている。



「いいか、あれを倒すぞ」



「畏まりました」



4人のライカンスロープは、命令に従い、分散した。



――ヴァンパイアの女王の力、今こそ見せてやるのじゃ・・・・・


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る