第204話バーレン 対決 漆黒の竜

悪魔が顕現した事で、京太は理解する。


――もしかして、生贄の祭壇は、この為だったのか・・・・・・



京太は、『アビスホールの奥に巣くう者』の為だけの生贄の祭壇だと思っていた。


しかし、その予想は間違っていた。


確かに、『アビスホールの奥に巣くう者』の為でもあると同時に

悪魔を顕現し、この世界を破滅に導くためのものでもあったのだ。





「我が名は【ベルゼブ】、貴様達、神には借りがある」



ベルゼブは、辺りを見渡す。



「フム・・・・・まぁ良い、借りは、後程返すとしよう。


 ただ、その時まで、貴様が生きていれたら、だがな・・・・・」




ベルゼブは、そう言い残し、姿を消す。



――逃げられた!・・・・・・



京太に追いかけたい気持ちはあるが、

目の前の漆黒の竜を、放置することは出来ない。


ベルゼブが消えると、再び声を上げる漆黒の竜。


「グワァァァ!」


漆黒の竜の咆哮には、先程のものとは違い、『恐怖』が付与されていた。


その為、耐性の無いワイバーン達は、次々に落下する。


また、同じように耐性の無い人族の兵士達は、逃げる事も出来ず、

悪夢に取り込まれ、頭を抱えている。


「た、た、助けて・・・・・」


「もう、いやだ・・・・・・」



体を小刻みに震わせ、ブツブツと呟く兵士達を、

漆黒の竜は、頭から噛み千切る。


その場に響く咀嚼音。


その音が恐怖を倍増させ、『恐怖』に捕らえられた兵士達は、意識を失った。



「京太!」



悪魔が顕現した事により、立ち尽くしていた京太だったが、

アイシャに名前を呼ばれ、我に返る。



――そうだ!

  今は、目の前の事を・・・・・・



「あの竜を倒そう!」


「当然じゃ」


「うむ」


「うんっ!」


京太は、漆黒の竜に向けて走り出した。


そして、手にしている剣に『神気』を纏わせて、斬りつける。



「これなら、どうだぁぁぁ!」



漆黒の竜に触れる瞬間、神気がふくらんだ。


「グギャァァァァァ!!!」


悲鳴のような叫び声を上げる漆黒の竜。


それもその筈、

京太の一撃は、物理防御の結界を破壊するだけではなく

4本の首の内の一本を、切り落としたのだ。


それでも、漆黒の竜の目は、光を失っていない。


前足で、京太を薙ぎ払いにかかる。


京太は、その攻撃を、神気を纏った剣で防ぐ。


すると、神気は、勢いを失わず、受け止めても、

勢いは衰えず、前足を斬り落とす。


「グギャァァァァァ!!!」


再び、悲鳴を上げた漆黒の竜。


だが、その攻撃で、剣が砕け散る。


京太の使っている剣は、所謂、ただの剣。


その為、京太の神気に耐える事が出来ず、粉々に砕け散ったのだ。


その光景を目にしていたラゴ。


舌なめずりをするように、唇を舐めると、

妖艶な目をして、飛んで行く。


その先にいるのは、京太。


「主様、わらわを!」


ラゴは、ドラゴンソードへと変化する。


京太は、ドラゴンソードを受け止めると、

透かさず、神気を纏わせる。



──この感じ、たまらんのぅ・・・・・

  力がみなぎってくる・・・・

  やはり、主様は、わらわだけのものじゃぁぁぁ!!!・・・

  


光を放つドラゴンソード。



京太が、ひと振りすると、その波動だけで、

残っていた漆黒の竜の前足を斬り飛ばす。


「グギャァァァァァ!!!」


再び、悲鳴をあげる漆黒の竜。


次々に放たれる京太の攻撃に、成す術がない。


前足を失い、頭も、残り1つ。


その状態になっても、攻撃を仕掛けてくる。


漆黒の竜は、京太に向かって炎を吐いた。


だが、そんな攻撃が当たるはずがない。


軽々と躱した京太だったが、漆黒の竜との距離が開いてしまう。


漆黒の竜にとっては、それでよかったのだ。


漆黒の竜は、渾身の力で、咆哮する。


すると、残っていた3本の尻尾が動き出し、

胴体から、千切れるように離れた。


離れた後も、グネグネと動く尻尾は、徐々に、竜の形へと変化してゆく。


嫌な予感しかしない。


慌てて尻尾に、攻撃を仕掛けようとするが、京太の前には、

殆ど、動くことの出来ない漆黒の竜が、立ち塞がる。


死を覚悟しているのか、なりふり構わない攻撃で、

京太の足止めに、全力を注ぐ。


既に、体中、血に染まっているが、漆黒の竜は、攻撃を止めない。


その間にも、尻尾は、竜へと変化している。



そんな時、敵を倒し終えたアイシャが、京太に声を掛けた。


「京太、奴らの相手は、わらわがする。 


 お主は、そ奴を倒せ!」


アイシャは、京太から少し離れた場所を、駆けていた。


その場所を、確認した京太は、ラゴに何かを話しかけた後

アイシャに向かって、ドラゴンソードを投げつけた。


「アイシャ!

 その剣、使って!」


突然の申し出だったが、これは、ラゴの了解も得ての事だと判断し

アイシャは、受け取った。


しっかりとドラゴンソードを握りしめたアイシャに

ラゴが、語りかける。


「おい、前回と違い、今回は、わらわも本気じゃ。


 わかっておると思うが、後れを取ることは許さぬぞ・・・」


「誰にものを言っておる。


 わらわは、始祖にして、最強のヴァンパイアじゃ。


 後れを取る事など、あり得ぬわ!」


「わかった。


 ならば、いくぞ!!!」




向かう先は、3本の尻尾から変化した竜達。



京太の眷属となり、力を得たドラゴンソードは、

深紫に染まり、刃の部分だけが魔力を帯びた光を放つ。



その剣に、躊躇なく力を込めたアイシャだが、

体中の魔力が、ドラゴンソードに引き摺られる。



「なんじゃ、これは・・・・・」



使い手の魔力を奪い、力を増すドラゴンソード。


その負担は、大きい。


京太が扱うのであれば、問題は無い。


だが、ラゴは、敢えてアイシャにも、その能力を発揮する。



――気をしっかり持つのじゃ、


  それとも、威勢だけだったのか?


頭に響く、挑発の言葉。


アイシャは、この言葉が、ラゴの応援だと分かっている。


しかし、素直になれない似た者同士。



「心配など不要じゃ、

 この程度、何ともないわっ!」



アイシャは、両手でドラゴンソードを握り直す。



「どうじゃ、わらわを舐めるでない」



――そうか・・・・・では、参るぞ



「うむ」



アイシャは、ドラゴンソードを持って、戦いに挑む。


剣を握り、走るアイシャ。


だが、疑問が1つあった。



「ラゴよ、1つ聞いても良いかのぅ?」


──なんじゃ?


「何故、普通に話さぬのだ?」


――・・・・・・


「何故じゃ?」



――この方が、格好良いとは、思わぬか?



「厨二・・・・・」



「・・・・・わかった!

 普通に話せばよいのだろ」



新たな竜に接近したアイシャは、迷わず剣を振り下ろす。



『ギャァァァ!!!』



完全体でなかった竜は、悲鳴にも似た叫び声とともに、一部を失うが

未だ動き続けている。



「こ奴は・・・」


アイシャが驚いている隙に、攻撃を受けていない2体の新たな竜が

完全体へと至った。


その姿は、2足歩行の漆黒の竜魔人とも言えるべきもの。


「テキ・・・コロス・・・」


いきなり放たれる炎のブレス。


咄嗟に躱したが、そこに、もう1体が攻撃を仕掛けてくる。


氷のブレス。


咄嗟に躱し、攻撃を受ける事は無かったが、

その間に、攻撃を受けていた3体目が、完全体へと至った。


「コロス・・・コロス・・・」


「オマエ・・・ニエトナレ・・・」


3体の漆黒の竜魔人は、連携し、アイシャに迫る。


1体目が、炎を吐く。


アイシャが、横に飛び躱す。


だが、2体目が、その位置を予測しており、

アイシャの目の前に現れた。


「クッ!」


必死にドラゴンソードで、攻撃を受け止めて、難を逃れたが

まだ、漆黒の竜魔人の攻撃は、終わっていない。


3体目の漆黒の竜魔人が、防御したアイシャの背後から襲い掛かり

アイシャに、一撃を加える事に成功した。


思わず声を漏らしたアイシャに、漆黒の竜魔人達の攻撃が続く。


3体が連携を崩さず、接近した状態で、攻撃を繰り出す。


防御が間に合わず、傷を負うアイシャ。


だが、この状態が、何時までも続く筈がない。


突如、雷を纏った矢が降り注ぎ、アイシャの危機を救う。


 その魔法を放ったのは、フーカ。


「ごめん、遅くなった」


アイシャの危機を救ったフーカの言葉に、落ち着きを取り戻す。


「感謝するぞ、フーカよ」


アイシャは、気を取り直し、漆黒の竜魔人に向けて剣を構えた。


「ヒトリフエタカ・・・カンケイナイ・・・コロス」


漆黒の竜魔人達は、先程と同じような体制になり、

再びアイシャに向かって走り出す。


だが、今回は、フーカもいる。


先程と同じ攻撃は、許さない。


1体目が、炎のブレス。


その攻撃をアイシャが、横に飛んで躱すと

やはり、2体目が、間髪入れず現れた。


そこで、先程と同じ攻撃を仕掛ける筈だったのだが、

それよりも先に、フーカの攻撃が、漆黒の竜魔人に突き刺さる。


『ギャ!』


肩を射抜かれた漆黒の竜魔人は、小さな声をあげると同時に、動きを止めた。


そのおかげで、余裕が出来たアイシャは、3体目の攻撃を躱した後、

会心の一撃を食らわせる事が出来たのだ。


その一撃は、漆黒の竜魔人の首を、いとも容易く斬り落とし、

完全に、息の根を止める。


──あと2つじゃ・・・


そう思うアイシャだが、先程まで受けていた攻撃による出血と疲労で

足元がふらつく。


──おい、もうギブアップか?


ラゴの挑発ともとれる言葉に、アイシャは、笑みを浮かべて答える。


「誰が、ギブアップだと・・・冗談を申すな。


 わらわは、疲れてなどおらぬ。


 あと2体、気など、抜くのではないぞ」


『うむ、わかっておる』


「ならば、黙って見ておれ、いくぞ!!!」


アイシャらしからぬ、自身を鼓舞するような掛け声に

ラゴは、一抹の不安を感じながらも付き従う。


1体1の戦い。


アイシャは、接近戦に持ち込み、

ドラゴンソードという力で、ねじ伏せようとしている。


また、フーカは、遠距離からの魔法攻撃に徹し、敵の攻撃を受けない位置にいた。


このままいけば勝てる。


そう思っていた。


だが、漆黒の竜魔人は、奥の手を隠していたのだ。


漆黒の竜魔人の背中にある鰭が、一斉に飛び出し、

アイシャとフーカに襲い掛かる。


予想外の攻撃だが、躱すこと容易で、フーカが、ひらりと躱すと

アイシャは、剣で弾き飛ばした。


完全に躱しきったフーカが、お返しとばかりに弓を構えた瞬間、

躱した筈の鰭が、背後からフーカに突き刺さったのだ。


羽には穴が開き、背中にも突き刺さっている。


叫び声も上げることなく、地上に落ちて行くフーカ。


完全に、意識がない。


「フーカァァァァァ!!!」


その光景に、思わず声を上げたアイシャ。


その動作が、隙を生む。


剣で弾き飛ばした鰭が、

突如、動き出し、アイシャに襲い掛かった。


至近距離からの攻撃に、アイシャは、躱すことが出来ず

全ての攻撃を、食らってしまう。


一瞬にして、形勢が逆転した。


思わず膝をついてしまったアイシャに、

尚も、攻撃を仕掛けようとする漆黒の竜魔人。


両手を振り下ろす。


狙いは、首。


普通なら、これを食らい、敗北となるところだが、

アイシャの握っている剣は、ドラゴンソード。


ラゴだ。


ラゴは、一瞬で人型に戻ると、自身で生み出した剣を使い

振り下ろされる漆黒の竜魔人の両腕を、斬り飛ばした。



アイシャを庇う形で、目の前に現れた漆黒のドレスを纏ったラゴ。


「お主は、そこで休んでおれ。


 残りは、わらわが片付ける」


そう言い残し、両腕を失った漆黒の竜魔人に、近づいていく。


その後ろ姿を、見送る事しか出来ないアイシャは、

悔しさのあまり、一筋の涙を流す。


──わらわは、こんなに弱かったのか・・・・・


前回は、腕を失った。


そして、今回は敗北。


これ程、悔しい思いをしたことが無い。


だが、気力は失っていない。


──力が欲しい・・・・


そう願った時、思い人の声が聞こえてきた。


「大丈夫?」


幻覚かと思ったが、そうではなく、

漆黒の竜を倒した京太が、本当に、そこにいたのだ。


「京太・・・・・」


名を呼ぶアイシャを京太は、抱きかかえる。


「随分、怪我をしたんだね。


 今、治すから」


京太は、魔法を使い、アイシャの傷を治す。


傷の癒えたアイシャは、抱き着いたまま離れようとはしない。


それは、願いを告げるため。


「京太、わらわは、血と力を所望する」


「わかった」


首を傾けた京太に、いつものように牙をたてる。


京太の血を吸い始めるアイシャ。


しかし、その血は、いつもと違い

神気を多く纏っていた。


それが本当に、力になるのかは、京太にも分からない。


だが、それが、アイシャの力になってくれればと京太は願う。


暫くして、京太の首筋から、牙を抜き、恍惚とした表情を見せるアイシャ。


「今日の血は、格段に美味であった。


 わらわに、力が戻った・・・いや、それ以上に感じるぞ」


アイシャは、そう言い終えると、京太から離れる。


「まだ敵は、残っておる。


 あ奴は、今度こそ、わらわが倒す。


 京太は、あそこで意識を失っているフーカを見てやってくれ」


アイシャの差した方向には、確かに意識を失い倒れているフーカの姿があった。


「フーカ!!!」


思わず駆け出す京太。


その背中を見送った後、

アイシャは、2体の漆黒の竜魔人と戦うラゴの元へと、駆け出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る