第202話バーレン 少女達の決意

6体の竜は、京太の嫁さん達に、あっさりと倒された。


全員が若く、血の気の多い竜達だったが、今は回復魔法をかけられ

部屋の隅の方で、大人しく丸まっている。




「なんか、でっかいダンゴ虫みたいだね」




クオンが、率直な感想のを口にする。




「クックックック・・・・・・クオン、あまり正直に言うでない。


 あの蜥蜴共も、今回の事は、良い薬になった筈じゃ」



そう言いながら、笑うラゴ。



騒動は落ち着き、竜達の協力を取り付ける事に成功した京太達は、

屋敷へと戻る。




翌日から、ドラゴンライダー育成の為、

武装国家ハーグに、ワイバーンを連れた竜が降り立った。



やはり、相手が竜という事もあり、当初は緊張していたが、

ミカールが指導に入った事と、人化出来る竜を送り込み、

普段から、コミュニケーションを取れるようにしたことが幸いし、

訓練は上手く進んだ。




その間も地震は繰り返し起きており、

各地での、竜魔人達の攻撃も続いていた。




勿論、京太達も、手をこまねいて見ていたわけでは無く、

各国に竜魔人の情報を流し、戦闘にも出向いている。


竜魔人でも、爵位を持たない者達は、以前戦った時よりも弱く、

Bランクの冒険者なら、倒せる程の力しかなかったことも幸いした。



そんな中、バーレンの偵察に出向いていた、ラゴとアイシャが戻って来る。



「京太、大変じゃ!」



扉を開け放ち、第一声がそれだった。


2人の表情からは、焦りが見てとれる。



「結界に亀裂が入っておるぞ」


「えっ!?」


まだ耐えれると思っていただけに、驚きは大きい。


「この間・・・・・」


京太が問いかけようとしたが、アイシャが遮る。


「違う!


 他の場所に、結界の亀裂があったのじゃ!」



「!!」



ラゴとアイシャから、詳しい話を聞き、場所を特定する。



「でも京太、今すぐ動くのは難しいよ」



ソニアの意見は、尤もだった。



ドラゴンライダーの訓練を始めて、まだ一週間。


それに、各国も竜魔人達の対応に追われている。



京太達で、戦闘に参加出来るのは、いつものメンバー。



京太を筆頭に、ラゴ、アイシャ、フーカの4人。



「主様、何も気にすることは無い。


 わらわ達で、結界を塞ぐのじゃ」



ラゴの傍らで、アイシャとフーカも頷いている。



「わかった、行こう」



4人は、戦闘に向けて準備に入る。


その状況に、残された仲間達は、悔しさを覚えていた。




ミーシャ、セリカ、イライザは、妊婦の為、参加は出来ないが、

ソニア、サリー、ラム、クオン、エクス、ハク、マチルダ、

レイン、コーデリアは違う。


彼女達は、空を飛べない事や、戦闘経験の足りなさから、

参加を見送られているのだ。



その中でも、特に悔しい思いをしていたのは、レイン。


彼女は、シーワン王国の姫であり、京太の嫁になった最後の1人。



年齢も12歳と若く、未だ戦闘には参加していない。


しかし、レインも海賊の末裔。


5歳の時から、戦闘と戦略を叩きこまれて来た。


元々、シーワン王国は、『力が全て』という部分もあり、

王女でも、弱ければ、民から認めて貰えないのだ。



そんなレインは、今の現状が嫌だった。


同じ様な年齢のクオン、年下のマチルダは、最前線で戦い、大きく貢献している。


その姿は、シーワン王国の戦いでも見ていた。



その為、嫁になった時、何度か手合わせをお願いした。


しかし、現実は厳しく、レインは相手にもならなかった。



――どうして、私が・・・・・・



悔しくて、何度も挑むが、結果は同じ。



「クオンに勝つなど、今の貴様では無理じゃ」



そう言い放つ、ラゴ。



「えーー、


 頑張れば、出来るよ」



地面に這いつくばり、息を切らし、汗を流すレインに、

一滴も汗を掻いていないクオン。



――これが、今の差なのだわ・・・・・



その日から、手の空いている仲間を見つけると、手合わせを求めた。


警備隊の練習にも参加した。



しかし、一度も戦闘に参加出来ていない。



『レインは弱い。


 戦闘に参加させれば、死んでしまうだろう』



そう思われていると思い、練習量を増やした。



完全に空回りだった。



その様子を見ていたマチルダは、溜息を吐き、声をかける。



「貴方は、クオンになりたいのですか?」



「えっ!?」



レインが振り向いた先には、マチルダがいる。



「貴方は、クオンになりたいのですか?」



同じ事を訊ねる。



「いえ、その様なつもりは・・・・・」



「では、何故、その様な稽古を?」



レインの両手には、クオンと同じ様に剣が握られていた。



「貴方は、その戦い方が得意なのですか?」



次々に、ぶつけられる質問。




「いえ・・・・」




答えに詰まるレイン。




「ついて来なさい」




レインは、強引に武器屋に連れて行かれた。


武器屋に入ったマチルダは訊ねる。




「この中で、貴方に合う武器は・・・・・いえ、

 貴方が、今まで使用してきた武器を手に取りなさい」




レインは、レイビアを手に取り、軽く振るう。


訓練で、両手を使っていたおかげか、体のバランスが取りやすく

レイビアが、今まで以上に手に馴染む。



――これなら・・・・・・



レインに、笑顔が戻る。



「貴方は、クオンになれません。


 同時に、クオンは、貴方になれません。


 それに、あのような顔をしていては、京太様が心配なされます」




レインは、気が付く。


戦闘に参加出来ない理由。


毎日、焦り、余裕の無い顔をしていれば、誰でも戦場に連れて行きたくは無い。


再び、レイビアを振ってみる。




――手に馴染みますわ・・・・・・




「マチルダ様、有難う御座います」




「御礼など要りませんわ。


 それと、『様』は要らない。


 私達は、同じ夫を持つ身ですよ」



レインは、マチルダの両手を握りしめる。



「マチルダさん、有難う御座います」



2人は、武器屋を出た。


その日から、レインは、レイビアでの練習に切り替えた。




それから数日後の現在、会議で、4人の出動が決まった。


勿論、空を飛べないレインは、居残り組。


しかし、今までとは違う。


――私に出来る事・・・・・・



子供の頃から教えられた事は、戦闘と戦略。



――戦える方法・・・・・・



レインの中に、1つの閃きが思い浮かぶ。



「あの・・・・・」



京太達が、準備で去った後、会議室に残った面々に話しかける。



「船で、向かいませんか?」



「えっ!」



「でも、普通の船だと、狙われて終わりですよ」



サリーの尤もな意見。



「はい、どうやっても狙われると思います。


 ですので、装甲を鉄で覆い、火に強くし、

 足場も大型の船を横に重ねて、広くします。


 同時に、木造の小型船を配備し、敵の狙いを分散させるのです」




レインは、細かく丁寧に説明をする。




「それなら、何とかなるかも・・・・・」




考えるソニア。




「参加出来ないより、いいよぉ、私賛成!」



クオンが賛成した。



「お姉ちゃんに従います」



それに続き、エクスも賛成する。


最終的には、残っていた全員が参加する事を決めると、

レインは、シーワン王国に戻る事を伝える。



「私は、直ぐに国に帰って準備に取り掛かります。


 準備が整い次第、連絡しますので、後の事は、お願いします」



そう言い残し、レインは会議室を後にした。


扉が閉まると、その扉を眺めていたマチルダが、わざとらしい溜息を吐く。



「はぁ、あの子大丈夫かしら、

 心配ですから、私が付いて行きますわ」


マチルダは、レインの後を追い、急いで会議室を出ていった。



再び扉が閉まると、クスクスと笑い声をあげる。




「最初から、『ついて行きたい』と申せば良いものを・・・・・」




「ですね、恥ずかしかったのでしょう」




少しの間、会議室には、和やかな空気が流れた。




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