第200話バーレン 動き始める世界

バーレンから飛び去った者達の報告に関して、

各国から、もたらされる情報は、良い事ばかりではない。


その中の1つ、アラアイ教国。


現在は、国として機能はしていないが、この地に残っている者も多い。


その為、見捨てることの出来なかった

シスターや、神父といった教会関係者も残っているが、

同時に、新たなアラアイ教国再建を試みる貴族達も残っていた。


だが、崩壊した国で、貴族を名乗っても何の保障も無く、

自称でしか無い。


当初は、本気で庶民の事も考え、それでも構わないと思い、

この地に残っていたのだが、

時が経つにつれ、その心も歪んでしまう。


その原因は、他国からの援助。


援助が無ければ、毎日の食事もままならない状況だったが

このまま援助が続き、他国に吸収された場合、

『自分は、貴族では無くなり、平民になるのではないか』と恐れを抱いた貴族達は、

最悪の手段に出る。


それが、他国の追放。


庶民に与える筈の物資を誤魔化し、己の物にし、貯えを増やした後

今まで、援助をしていた国々に、

『これ以上、ご迷惑はかけられません』とか、

『後は、私共で・・・・・・』

と表面上は、感謝の言葉を綴りながら、

少しずつ、追い出しに掛かった。



援助していた国や京太も、断られる援助を強引におこなう事も出来ず、

撤退するしかない。



こうして、他国を追放する事に成功した貴族達は、

自身が、この国の王とばかりに振る舞い、

ひと時の栄華を極めた。


だが、その裏で、庶民は、困窮していた。


援助が途切れ、食料も無い状況に、巫女は神に祈る。


『どうか、人々に、道をお示し下さい・・・』



その声は、京太に届く。


地震が起き、不安定な状況。


だが、援助を断られた京太達が、赴くわけにはいかない。


そうなれば、出来る事は1つ。


『その地を、早急に離れ、シャトの街をめざせ・・・』



京太の啓示に従い、残っていた巫女たちは動き出す。


そして、巫女の意思に従った者達が、その日の内に

この地を離れた。


こうして、離れて行った者達がいる一方、

残った者達もいる。


貴族に従事し、富を得ていた者達と、それに囲われてしまった者達だ。




巫女たちも離れ、誰一人訪れる事のない国に

暫くして、その者達に不幸が訪れる。



孤立した彼らに、情報は届かない。



バーレンから、飛び立った竜魔人と黒い鳥の一団が

この崩壊した国、アラアイ教国に辿りついてしまったのだ。




アラアイ教国に到着した竜魔人【リビド】子爵と【デストルド】子爵。


この2人は、黒く大きな鳥300羽と、

配下の竜魔人100人を率いてこの地に住む者達を捕らえ始めた。




「1人残らず、捕まえよ。


 腕や足など、無くなっても構わんが、

 出来るだけ生きたまま、連れて来るのだ」



援助を断り、ギルドの建設も拒んだ者達の末路。



それは、『生贄』。



最後の最後まで、私利私欲に走った者達。


それに追従した者達は、全員竜魔人達に捕らえられ、

今は、崩壊した神殿の外に集められている。



「では、始めるのだ!」



リビドの合図で、竜魔人達は、一斉にブレスを吐く。


繰り返されるブレス攻撃に、崩壊した神殿の瓦礫は、塵と化し、消えた。



「フフフ・・・・・、これでいい。


 聞け!


 これより、『生贄の祭壇』を建てるのだ!」




竜魔人達の歓喜の中、建設される生贄の祭壇。


この地と、周辺に住んでいた為に、捕らえられた人々の数、約3000。




この者達の命は、全て生贄として、捧げられた。


そして、この地を中心に、竜魔人達の侵攻が始まる。




生贄を得た、『アビスホールの奥に巣くう者』の行動は活発化し、

以前よりも多くの地震が、各地を襲った。




同時に、結界にも、新たな亀裂が生じ始めていた。


アビスホールから離れた場所に見つかった亀裂。




竜魔人と黒い鳥達は、その亀裂を抜け、アラアイ教国を目指した。




それを見計らったかのように、最初の亀裂で、各地に散った竜魔人達は、

揺動するかのように動き出す。


生贄も取らず、街を破壊をし、人々を屠ると、直ぐにその場を去り、

新たな場所で、暴れる事を繰り返し始めた竜魔人達。



その行動は、京太達を始め、連合国の者達を苦しめた。



竜魔人達の揺動が開始されて2ヵ月が経った頃、一通の手紙が京太に届く。




差出人は同盟国、武装国家ハーグ。


その内容は、アラアイ教国の現状。




武装国家ハーグと旧アラアイ教国は隣国である。



ある時、援助が行われていない事を知った商人が、

大量の荷物と共に、アラアイ教国を目指した。


だが、峠に差し掛かり、街の様子が見えた時、

目に飛び込んで来た光景は、動き回る竜魔人達の姿。



商人は、急いで引き返し、武装国家ハーグに戻ると、その事を報告した。




女王アリソン タガートは、その話を聞くと、直ぐに調査団を送った。



そして、もたらされた報告。




「アラアイ教国は、竜魔人達の住処になっております」




この一報と同時に、国境に兵を配備し、国の守護の為、傭兵も大勢雇った。



「この国を死守するのです」



女王アリソン タガートは、この事実を、武装国家ハーグ全国民に告げ、

警戒も促した。




当然、逃げ出す者達も現れたが、それは想定の内。


混乱が起きるなら、その前に『逃げたい者は、逃げればいい』

と考えていた。



そうする事により、この事実が早く、各国に幅広く伝わる事を願ったのだ。




勿論、各国の国王に向けて手紙も送っている。


その中に、京太への手紙もあった。




手紙を受け取った京太は、直ぐに火の山に向かい、ユグドラと連絡を取る。



「では、奴らの行動は、この事を隠す為の揺動だったのか!」



「ええ、間違いないと思います」



「グヌヌヌヌ・・・・・」



怒りを抑えきれないユグドラ。



「僕達は、これから武装国家ハーグに向かいます」



「・・・・・わかった、我等も同行する」



ユグドラの判断に驚く、竜と竜人達。




「ユグドラ様、我らが出向きますと・・・・・」




武装国家ハーグに、大勢の竜と竜人が現れると混乱を招く。


その事を気愚しての発言だった。




「それなら、先に聞いてみましょうか?」




京太は、持ち歩いている転移の鏡を取り出す。




「ユグドラさん、一緒に行きませんか?」




気軽に、笑顔で話しかける京太。




「京太様・・・・・同行しましょう」




京太とユグドラは、転移の鏡を潜り、武装国家ハーグの王城の前に立つ。




武装国家ハーグは、当然の様に厳戒態勢。




「貴様、何処から現れた!?」




「驚かせてすいません。


 僕は京太。


 女王アリソン タガート様に面会に来ました」



「何を言っているのだ!」



城門を守る兵士は、京太を追い返そうとした。


だが、京太の姿に、見覚えのあった兵士が止める。




「ちょっと待て!


 京太さん、でしたね。


 暫くお待ちください」


「お前、何を・・・・・」


「この人、見た事あるんだよ」


「は!?」


「あの・・・・・・」


横から入ってきた兵士が、京太を『チラッ』と見てから、小声で話す。


だが、その声は、京太とユグドラにも届いている。



「お前も覚えているだろ、国王交代の事件」


「当然だ」


「その時、この城に乗り込んで来た、

 スゲー怖い女の人達と一緒にいた人に、似ているんだよ」


「え!?」



最初に対応した兵士の顔が固まる。



「・・・・・冗談だろ・・・・・」


「だから、聞いて来るから!」


「・・・・・わかった」


兵士は、頭を下げると、急ぎ、城内に向かって走る。


「・・・・・」


しばしの沈黙。


口を開くユグドラ。



「京太様・・・・・・」



「ごめん、何も聞かないで・・・・・・」



――僕の奥さん達・・・・・・何をしたんだろう・・・・・・



暫くすると、ルドガー タガートが走って来た。



「うわっ、珍しい」



息切れをしながらも、挨拶を始める。



「きょ、京太殿、色々不手際が・・・・・はぁはぁ」



「気になさらないで下さい。


 それより、今回は、頂いた手紙の件で参りました」



「そうですか・・・・・こちらへ」



案内を始めるルドガー タガート。



「それにしても、珍しいですね」



「只今、少々、取り込んでおりおまして、

 その・・・手が空いているのが、私だけでしたので・・・・・」



――この人、変わったなぁ・・・・・・




ユグドラが、不思議そうな顔で見ている。


気が付いた京太が紹介する。



「この人、ルドガー タガート前国王」



「はっ!?


 京太様・・・・・何故、その様なお方が・・・・・」



ユグドラの疑問は、尤もだった。


だが、京太は、その質問に答えず、ユグドラをルドガー タガートにも紹介した。



「こちら、人型になって貰っているけど竜族のユグドラ」


「へっ?」


間の抜けた声と共に、動かなくなるルドガー タガート。


「じゃぁ、行こうか」


勝手に歩き始める京太。


「京太様、まだ、質問の答えが!」


そう言いながら、後を追うユグドラ。


2人は、ルドガー タガートを放置し、謁見の間へと向かった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る