第199話バーレン 世界に散った竜魔人達

京太達は、ユグドラとの話し合いを終え、屋敷に戻る。


「旦那様、お客様がお見えです」


「誰?」


「ナイトハルト様と警備隊の方々です」


「わかった」


京太は、応接室で、ナイトハルト達と面会をする。


応接室には、ナイトハルトの他に、ミカール、ルロ、レイラ、ヤンの姿があった。


「お待たせしました。


 ところで・・・・・・・」


京太は、ナイトハルトに要件を尋ねると

ナイトハルトは、表情を変える。


「この度の一件、我々の耳にも届いています」


5人は、座っていたソファーから離れ、膝をつく。



「この度の件、どうか、我等も参加させて頂きたい」


「えっ!」


有難い提案でもあるが、簡単に頷ける問題でもない。


「ナイトハルト、ミカール。


 2人は、独り身ではないよね・・・・・

 フィオナさんとエミリアさんは、この事を知っているの?」



「勿論だ」


「ああ、話しは、ついている」


「今回の敵は、竜魔人。


 それに黒く大きな鳥。


 強いよ」



代表して、ナイトハルトが答える。



「情報は集めた。


 竜魔人は、確かに強い。


 だが、集団で当たれば、我等にも勝ち目はある」



ナイトハルト達は、覚悟を決めた目をしている。


──これ以上は、拒否することは、失礼か・・・・・


「わかった、有難く力を借りるよ」


5人の意思を尊重し、参戦を認めた。




そして、翌日から京太の仲間達と共に、火の山に出向き、

『ドラゴンライダー』としての練習に入った。


ドラゴンライダーといっても、殆どがワイバーンで、

ドラゴンではない。


だが、お互いに同意した者だけが、ドラゴンに乗る事ができた。



こうして、京太と、その仲間達が、練習に励む中、

とある場所では、戦闘が始まろうとしていた。




バーレンから、四方に飛び立った中の一組が、

とある大陸の近くに迫っていたのだ。


「先ずは、あの大陸で、あの方の為の生贄を・・・・・・」


目の前に見える島は、黒の大陸。


アイシャの故郷の島。



竜魔人【ドルム】侯爵は、子飼いの竜魔人達と黒く大きな鳥を連れて、

大陸へと、真っ直ぐ進む。


だが、彼らは知らない。


この大陸の近くに、シーサーペントと呼ばれる者達の住処がある事を。



ドルム達は、シーサーペントの住処、

メイルストロムの上空を抜けようとする。



しかし、その様子を海中から見ていたシーサーペント達は、

上空に差し掛かると、一斉に攻撃を仕掛けた。




狩りの時間。



海中にいる数百のシーサーペント達は、歓喜に沸いた。



時は遡り、シーサーペントの王は

監視をしていた者より、この上空を、通り抜ける者達がいるとの報告を受ける。



「陛下、我が住処の上空を、獲物の群れが通過します」



「そうですか、では、私も向かいましょう」



椅子から立ち上がる王。


その横の椅子で、話を聞いていたラムザニアも、参戦を表明した。



「我も同伴するぞ」



国王は手を伸ばし、ラムザニアを迎える。


その差し伸べられた手に、自身の手を添えるラムザニアは

満面の笑みを浮かべていた。


「ウルドよ、中々、様になって来たではないか」


そう言い、笑みを零しているラムザニアに

ウルド ツールがが告げる。



「自身では、わからぬ。


 ただ、ラムザニアから、そう言って貰えると嬉しいものだな」



ウルド ツール。


黒の大陸のヴァンパイアだった者。


しかし、偶然が重なり、『禁呪』の呪いで死を免れた後、

運命なのか、シーサーペントの女王、ラムザニアによって『禁呪』を解かれた。



その後、ウルドツールは、ラムザニアとつがいとなり、

この住処の王となっていたのだ。


その2人が、狩りの場所へと向かう。


しかし、そこで見たのは、一方的な狩りではなかった。



「ほう・・・・中々良い獲物だ。


 生贄にしましょう」



そう言い放つドルム侯爵は、シーサーペント達の最初の攻撃で、

数体を失ったが、その後、じっくりと観察をした後、

号令を下した。



「さぁ、狩りの時間です」



その言葉を合図に、竜魔人達と黒く大きな鳥は、海中へと飛び込む。


シーサーペント達にとっては、予想外の行動。



海中に飛び込んだ黒く大きな鳥は、灰色に変化すると同時に

槍の様な真っ直ぐな姿勢となり、突撃を始めた。



放たれた槍の様にまっすぐ進み、シーサーペントに一撃を与えると、

そのまま海面を抜ける。



数百の黒く大きな鳥は、今や灰色の鳥に変化し、

複数の槍となってシーサーペントに襲い掛かっていた。



一撃離脱を繰り返され、次々に倒されるシーサーペント達。


狩りのはずが、今は、蹂躙され、狩られる獲物と化している。



その光景を、目の当たりにしたウルド ツール。


薄っすらと記憶に残っていた灰色の鳥。



「貴様らの仕業だったのか・・・・・」



思い出す光景と、目の前の光景。


ウルド ツールは、黒いシーサーペントから、人型へと変化する。



「ラムザニア、仲間達を頼む」


「わかった」


海中でありながら、何も問題ないかのように、前に進み出るウルド ツール。


そんなウルド ツールに、槍と化した灰色の鳥がに襲いかかる。



しかし、ウルド ツールは、体を海水に溶かすように消えて、攻撃を躱すと

いつの間にか、灰色の鳥に、三又の槍を突き刺さしていた。



灰色の鳥は、海中へと沈んでゆく。



もとの姿に戻ったウルド ツール。


「数が、多いですね」


そう呟いたのち、今度は、分身して10体となる。



「私も、いろいろ学びましてね、今なら、彼に勝てるかも知れません。


 ですが、その気は、もう、ありません・・・・・


 ただ、この地に牙を剥けるのであれば、それ相応の代償は頂きます」




10体のウルドツールは、次々に灰色の鳥を屠り、海中へと沈める。



理解不能な攻撃を仕掛けるウルド ツールの姿を見て、

ドルム侯爵は、とあることを思い出す。


「貴様、もしかして、あの時のヴァンパイアか・・・・・」


空で呟いた言葉だったが、

それが、海中にいる、ウルド ツールに届いてしまう。


──ほぅ・・・少し、会って来ましょう・・・・・


ウルド ツールは、一気に、海中から空へと飛びあがる。


そして、ドルム侯爵の背後に、姿を現した。


「私を知っているという事は、貴方が黒幕ですね」


独り言を呟いた筈が、

返答されたことにドルム侯爵は驚き、

声のした方向へと顔を向ける。



「貴様、何時の間に・・・・・・」



「私も、色々踊らされましたよ」



笑顔のウルド ツール。


しかし、目の奥は笑っていない。



「『禁呪』の事を調べ、研究。


 笑えますよ、長年の研究が、貴方達の復活の為だったとは・・・・・

 まぁ、そのおかげで、こうして生きているのですが」



自嘲気味に笑う。



「ほぅ・・・・・すべてを知っても、我等に挑むというのか・・・・・

 ならば、何も言うまい。


 最後に、あのお方の生贄になる事を感謝せよ!」



竜魔人、ドルム侯爵は、剣で切り掛かる。


当然の様に霧と化し、攻撃を躱すウルド ツール。



「馬鹿め・・・・・」



その瞬間、剣先から放たれる雷撃。


水を含む霧は、雷を通電させる。



「グハァァァァ!!」



もとの姿に戻ったウルド ツールの体からは、煙が上がっている。



「同じ戦法が、何度も通用すると思わぬ事だ」


一気に畳みかけるドルム侯爵。


力では、完全に勝るドルム侯爵の攻撃に、防戦するウルド ツール。


少しずつ、身体に傷が刻まれる。



「大人しく、死を受け入れよ」



余裕の笑みを浮かべるドルム侯爵。



「まだ、負けたわけでは無い」


一旦、距離を取るウルド ツール。


そして・・・


『従属召喚』


ウルド ツールが固有魔法を使うと

空と海を覆いつくすほどのボーン軍団が現れる。


骨になった怪鳥、骨になった海獣達。


ウルド ツールは、この地にて、

彷徨っていた者達を、従属化していたのだ。



「さぁ、皆さん、お食事の時間です」



一斉に襲い掛かるボーン軍団。


砕かれても、直ぐに復活し、竜魔人と灰色の鳥に襲い掛かる。


剝き出しの骨による攻撃、牙で噛みつくボーン軍団。


魔法などではなく、完全な物理攻撃のみ。


ドルム侯爵も魔法を使い、排除を試みるが、

数の暴力には敵わず、傷を負ってゆく。



「一度、体勢を、整えるか・・・」


ドルム侯爵は、生き残っている者達に向け

撤退の合図を送るが、それをウルド ツールが許す筈がない。


「脱出など、あり得ません。

 

 貴方達は、我らの餌になって頂きます」



その言葉通り、ボーン軍団の攻撃が、一層激しくなり

次々と海中に沈めた。


だが、ドルム侯爵は、まだ生きている。


「こうなれば、私だけでも・・・・・」


仲間を見捨て、脱出を図る。




「逃がさぬぞ」



ラムザニアが、突如現れ、ドルム侯爵の行く手を阻む。



「まだ、他にもいたのか・・・」


ドルム侯爵の問いに、ラムザニアは、険しい表情で答える。


「貴様など、本来どうでもいいのだが、

 我が夫の仇となれば、そうもいかぬ。


 ここで死して、我が子らの餌となれ!」


ラムザニアの言葉と共に、ドルム侯爵の周囲に無数の海水の球体が現れる。


「ふふふ・・・落ちろ」


合図とともに、海水の球体が、ドルム侯爵に襲い掛かった。


1つ目を躱し、2つ目も躱すが、3つ目の球体が直撃する。


その威力は、凄まじいものだったが、それ以外にダメージは無い。


安堵するような表情を見せるドルム侯爵。


「なんだ、恐れる事も無かったか・・・

 ならば、今度は、こちらの番だ!」


そう言い放ち、魔法を放とうとしたが、異変に気が付き、動きを止めた。


「これは、どういうことだ!」


先程の攻撃で、海水に触れた部分が、膨らみ始めていたのだ。


正確には、その部分の海水が、どんどん大きくなっているのだ。


膨れ上がった海水は、ドルム侯爵を包み込み始め、

最後には、球体と化し、完全に閉じ込めた。


藻掻き苦しむドルム侯爵。


笑みを浮かべるラムザニア。


「貴様は、海中でも、多少は、呼吸が出来るかも知れぬが

 それも、何時まで持つものかのぅ・・・

 まぁ、どちらにしろ、貴様は、我が子らの餌となり消え失せる運命だ。


 出来るだけ、苦しんでくれ・・・」


そう言い放ったラムザニアの合図で、球体は、海へと進み、

そこで、待ち構えていたシーサーペント達の攻撃を受ける事となった。


海中においても、必死に抵抗をみせたドルム侯爵だが、

時が経つにつれ、腕を食われ、足を引き千切られ

最後には、胴体だけとなり、この世から消えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る