第194話古(いにしえ)の物語 ミゼル

翌朝、京太は1人で、王宮の書庫に向かう。


書庫に着き、奥に進むと、仄かに明かりが見えた。



――ずっと書いていたのかなぁ・・・・・



そんな事を思いながら、ゆっくりと近づく。


ミゼルの机の横に、用意してあった食べ物は無くなっている。




――食事は、摂ったんだな・・・・・・



声をかけてみる。



「ミゼルさん、少しいいかな?」



「・・・・・・」


返事が無い。


だが、もう一度声をかけようとした時、ミゼルが振り返る。



「どちら様でしょうか?」



「僕は京太。


 貴方に、話しがあって来ました」



「そうですか、私は、ミゼル。


 どうぞ、宜しくお願い致します」




彼女は、頭をワシャワシャと搔く。



「ミゼルさんは、何を書いているのですか?」




「それは、秘密です。


 書き上がるまで、待つのがマナーですよ」




「そうなんだ、ごめんなさい。


 お詫びに、食事でもどうかな?」



ミゼルの目が輝く。



「食事の誘いですか!


 私もお腹が減っているので、ご相伴に預からせて頂きます」



ミゼルは、京太の後ろをついて歩き、屋敷へと向かう。



転移の鏡を潜ると、スミスが待っていた。




「旦那様、お食事の準備が整っております」




「ありがとう。今から向かうよ。


 あと、この子の分もお願い出来るかな?」




「問題御座いません。


 では、こちらへ」



スミスの後を追い、食堂に向かう。


食堂に入ると、京太が伝えた。


「好きな所に座っていいからね」


卓上には、パン、バター、ジャム、、サラダに牛乳が並べられている。



「嫌いな物があったら、言ってね」



ミゼルは、ボーっと眺めていた。




――久しぶりの食事だ・・・・・




「ミゼル?・・・・・」




硬直したかのように、動かないミゼルに、

良いタイミングで現れたアリエルが声をかけた。



「ミゼル、呼ばれていますよ」



懐かしい声に、ミゼルは思わず振り向く。



「アリエル様!」



椅子から飛び降りたミゼルは、床に膝をつき、頭を垂れる。



「御無沙汰しております・・・・・」



アリエルが、口を開く。



「ミゼル、今は、私よりも先に、頭を下げなければならない方が、他にいます」



「えっ!?」



ミゼルは、アリエルと手を繋いでいるエヴィータ王妃、

その横に並ぶハミエとラティを見る。



ミゼルが不思議な顔をする。



「申し訳御座いません。


 私には、判り兼ねます」




「・・・・・そうですか」




アリエルは、京太に目配せをする。


意図を受け取った京太は、【豊穣の神、ハピ】の神気を少し解放した。


豊穣の神ハピの神気を開放した理由は、ミゼルが最初に現れた時

緑の光を放っていたからだ。


緑の光は、大地に属する精霊の証。


だからこそ、豊穣の神ハピを選択した。



「!!!」



ミゼルの表情が変わる。




「誰に対して行うべきなのか、もうお分かりですね」




ミゼルは、顔を青くしながら、コクコクと頷く。




「京太様、有難う御座います」



京太は、神気を消す。


何度もアリエルと京太の間を、

顔だけ、行ったり来たりしているミゼルに告げる。




「全く、貴方と言う人は・・・・・・


 いいですか、本来、昨日会った時に、キチンとご挨拶するべきです。


 わかりますか?」




ミゼルは、何度も頷く。




「では、何故、そうしなかったのですか?」




「申し訳御座いません・・・・・


 ずっと、話し相手も紙も筆も無くて、眠っていました」




「では、寝ぼけていたのですか?」




「・・・・・はい、申し訳御座いません」




アリエルは、溜息を吐く。


京太は、疑問に思った事を聞く。




「なら、この本を落としたのは?」



アイテムボックスから『古の物語』を取り出し、渡した。



「懐かしい本ですね?・・・・・・あれ?

 その本は、確か、私が持っていた筈・・・・・」




「クオンが、上から落ちて来たと言って、拾ったんだよ」




「・・・・・重ね重ね、申し訳御座いません。


 たまに、本当に稀なのですが、寝相が悪い日がありまして・・・・・」




「嘘を吐かない!


 貴方は、昔から寝相は良く無いですよ!」



ラティに指摘された。



「うぅ・・・・恥ずかしいから、内緒にしようと思ったのに・・・・・」



「貴方は、神の御前で、嘘を吐く事の意味が、分からないのですか!」



その言葉に、ハッとした表情になり、慌てて京太の前で土下座をする。




「申し訳御座いません、申し訳御座いません。


 どうか、消さないで下さい。


 お願いします、お願いします」




京太は、その光景を見て思い出す。




――そういう事もあったみたいだな・・・・・・




だが、それは記憶にあるだけで、

京太は、ミゼルを消そうとは思っていない。




「わかったから、もういいよ」




その言葉に、謝罪を繰り返した後から、

顔を伏せたまま、グスグスと泣いていたミゼルは、

頭を上げ、涙と鼻水の入り混じった顔で、京太の顔を見る。




「ぼんどでずかぁ~」(本当ですか?)



「うん、本当だよ、だから、食事にしよう」



「はびぃ」(はい)



ボロボロの顔をしたミゼルの近くに、ハミエが近づき、顔を拭いてあげた後、

席に着き、食事を始めた。




食事を始めると、次々に仲間も降りて来て、食事を始める。


皆、一同に、ミゼルを見て驚いていた。




「あの子、昨日、書庫にいた子よね」




「ええ、京太さんが、連れて来たらしいわ」




ソニアとサリーの話を聞き、京太が答えた。




「今朝、僕が食事に誘ったんだ。


 皆も、これから会うと思うから、仲良くしてね」




「ええ、それは大丈夫よ」




「私も問題ありません。


 ですが、部屋は、どうされるのですか?」




サリーの疑問に答えたのは、スミスだった。




「そちらは、準備出来ております。


 それで旦那様、今後の事ですが、

 今まで通り、私共に、お任せ頂けませんか?」




「忙しそうだけど、いいの?」




「はい、問題御座いません」




「セリカや、ミーシャ、イライザの事もあるのだけど・・・・・」




「問題御座いません」




「それ・・・・・」




「問題御座いません」




「・・・・・お願いします」




「畏まりました」



有無を言わせぬ勢いで、京太から任せられたスミスは、

何故かエヴィータ王妃と頷き合っていた。




――2人共、変な事、考えていないよね・・・・・




食事が、終わった後、一度、部屋に案内されたミゼルを待つ。


暫くして、スミスを伴って戻って来たミゼルに、『古の物語』について質問をする。




その内容は、アリエル達と同じだった。


しかし、『何故、細かい事まで知っていたのか』と聞いた時に、驚く事が分かった。



精霊は、普段は見えないけど、世界中に、多くの精霊が存在している事。


また、ミゼルは、甘いものと交換で、

その場所の精霊達から詳しい情報を聞いていたとの事だった。



「それは、僕達でも会話は出来るの?」



「先程も言いましたが、普通の人には見えません。


 ですが、稀に私達を見る事が出来る者がおります。


 その者達は、『精霊使い』として、我等と契約したりします」




「でも、ここにいる皆は、見えているよね」




「それは、私が、『具現化』の魔法を使っているので・・・・・」




「今までも、その力を使えば、人と話せたんじゃないの?」




「ですよね・・・・・でも、私が、姿を見せていると、

『汚い』とか『臭い』って言われるのですよ。


 酷い時には、石をぶつけられます」




段々と暗い顔をするミゼル。


だが、周囲の反応は、『あ~』とか『まぁ、そうなるかな』と

納得する者ばかりだった。




その様子に、何が悪かったのか分からないミゼル。




「どうして、皆さん、納得しているのですか?」




アリエルが口を開く。




「ミゼル、貴方、今の姿、鏡で見た事ありますか?」




「ん・・・・・?


 ありませんが、それが、何か関係があるのですか?」






「ありです、大ありです。


 正直、今の髪型、服装、どう見ても放浪者ですよ」




「え・・・・・」




「貴方は、何時からその様な格好を、していたのですか?」




「えっ?・・・・・覚えていません・・・・・ごめんなさい」




再び、溜息を吐くアリエル。




「取り敢えず、入浴を済ませて、服も髪もキチンと整えて下さい」




ミゼルの返事を待たず、メイド達は、風呂へと連行する。


風呂へ連行されるミゼルを見送った後、

アリエルに、『話しは待って欲しい』と言われたので

京太も了承した。





その日の夕食。


緑色の髪をした、顔の小さな女の子がいた。


勿論、瓶底眼鏡もしていない。



「この美人、誰?」




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