第195話バーレン

夕食時、綺麗になったミゼルに驚いている一同。



話を聞くと、どうやら、風呂に連れて行ったメイド達が、

ミゼルが美少女だと気付き、

京太を驚かせようと画策した事らしい。



それに、エヴィータ王妃と3人娘が悪乗りし、こうなったのだった。




「それで、本人は、大丈夫なの?」




「はい、そちらは、問題ないのですが・・・・・」



少し困った様子のスミスは、話を続ける。



「ミゼル様は、精霊とお聞きしましたが、あまり外に出ようとしないのです」



「えっ!?」



「過去に、人族から受けた仕打ちが、トラウマになっているようでして、

 付き添いが付いても、お庭までしか出ようとしません」




「そうか・・・・・・」




ミゼルは、木の精霊だ。


その為、森や木々から、力と生命力を得ている。


しかし、本人は屋敷と書庫から、離れようとはしない。




――体調は、問題無いのかなぁ・・・・・



稀に、庭の日陰で見かける程度。



それでも、夕食になると、必ず京太の横に座っている。


食事が終り、寛いでいる時も隣にいる。


そして、ある程度時間が経つと、離れて行くのだ。


気になった京太は聞いた。




「ミゼル、木や自然から、力を貰わなくていいの?」



いつの間にか、かけていた瓶底眼鏡を『クイッ』とあげるミゼル。



「大丈夫です。


 栄養や、必要な物は、キチンと摂っています」




「そうなんだ、それって何処から?」




「・・・・・・」




ミゼルは、視線を逸らす。




「まさか、僕からじゃないよね」




「・・・・・・」




ミゼルは、額から汗を流す。




「・・・・・僕からなんだ」




この話を聞いていたアイシャとラゴが、ミゼルを京太から引き離す。




「貴様、やって良い事と悪い事があるぞ」




そう言って、アイシャが、ミゼルを羽交い絞めにする。




「そうです、主様を食料にするなんて、絶対に許せぬのじゃ!」




「そうだ、京太を食料にして良いのは、わらわだけじゃ!」




「えっ!?」




「えっ!?」




「・・・・・・」




「わらわは、何かおかしい事を言ったか?」




「絶対におかしいと思うぞ」




「だが、仕方無かろう。


 わらわは、京太の血が無いと死んでしまうのでのぅ」




「ああ、そうであったな」



うんうんと頷くアイシャ。



「しかしだ、この者は違う。


 外に行けば、好きなだけ食料はあるのだ」




勝ち誇った様子で告げるアイシャ。



「でも、でも、私は・・・・・」



ミゼルは、半泣きになりながら、京太に手を伸ばす。



――仕方ないか・・・・・・



京太は、ため息を吐いた後、告げる。




「ミゼルもいいよ。


 隣にいるだけでいいんだよね」




「はいっ!」




「じゃぁ、おいで」




ミゼルは、喜びながら京太の横に座る。


すると、京太は、ミゼルの瓶底眼鏡を外し、リカバリーをかけた。



眼鏡を外されてから、何が起こったか分からなかったが、

目の中に、光が飛び込んで来たと思ったら、全てが終わっていた。




眩しさに目を閉じていたミゼル。




「ゆっくり目を開けて」




言われるがまま、目を開ける。




「あれっ!

 眼鏡をかけていないのに、はっきり見えます」




ミゼルは、喜び、京太に抱き着く。




「京太様、有難う御座います」



仲間達も先程の事は忘れて、微笑んでいた。



しかし、時間が経っても離れないミゼルに、業を煮やす者達が現れる。




「貴様、長いぞ!


 いつまでそうしておるのだ!!」




「お兄ちゃん、笑っていないで、何とかしてよ!」




京太の周りでは、じゃれ合うような喧嘩が起き、

いつもの様に騒がしく、楽しい一日が終わる。






その日の深夜、3度目の地震。


大きく縦に揺れ、周囲の飾り物を叩き落とす。


次に、立ち上がる人々を歩かせないように、横に揺れた。




ベッドの上に座る京太。




「前の物より大きいな・・・・・」




転移者である京太は、日本で何度も地震を経験している。


しかし、周囲の者達は、まだ3度目。




そんな中でも、ナイトハルトは、警備隊を動かし、

京太から聞いた災害を、起こさないように全力を尽くしていた。




「這ってでもいい、ゆっくり落ち着いて回れ、

 必ず各家庭に、火を消して、広場に集まるように伝えるのだ!」




本部を自宅に構えたナイトハルトは、適切に指示を送る。


その為、警備隊員達も一丸となって街に散り、警戒と呼びかけを続けた。




空が薄明るくなった頃には、地震は終っていた。


だが、警備隊員達は休まず、倒壊した家屋からの人命救出や

瓦礫の撤去に取り掛かっている。




京太の屋敷でも、全員が庭に避難して難を逃れていたが

今は、屋敷内の清掃に励んでいる。




スミスは、メイドの仕事ですからと手伝いを拒否したが、

京太の『全員でやろう』の一言に、皆が賛成した為に、

スミスに陣頭指揮を執って貰いながら、片付けに励んだ。




日が完全に昇った頃、片付けも終り、今は食堂で寛いでいる。



食事を摂り、少し仮眠をとった後、京太、ラゴ、フーカ、アイシャの4人は、

例の島、バーレンを探す旅に出る事に決めた。




空を飛び、先ずは予定通り、旧アラアイ教国に辿り着く。


アラアイ教国は、崩壊してしまったが、

まだそこには、多くの人達が住んでいる。




しかし、この度の地震で、震源地が近い事も重なり、殆んどの建物が崩れ、

数日経った今でも、悲惨な有様だった。




「ごめん、少し遅れてもいいかな?」




「京太の好きにすればよい、わらわは、ついて行くぞ」




笑顔で告げるアイシャ。


全員が地上に降り、瓦礫の撤去作業から始める。



ただ、降りて来る時に、フーカの天使の羽に気が付いた者達が、

膝をつき始めた時には困った。



だが、ご満悦のフーカ。


ノリノリで答えていた。




「みんな、聞きなさい!


 此処からは、私の指示に従うのよ!


 いいわかった?」




住民達は、頭を下げる。


その後・・・




「これで助かる」



「神は、見放されていなかったのだ!」



「天使様を使わせて下さるとは・・・・・・」



口々に、安堵の言葉とフーカ降臨に涙を流して喜んでいた。




――これ、助けるしかないよね・・・・・




そんな事を思いながら、フーカを見ると、

京太に、ピースサインを送って笑っていた。




――あいつ、絶対、僕に頼るつもりだ・・・・・




京太達も覚悟を決めて、取り組み始めた。


2日後、瓦礫の撤去、人命の救助を終え、再び空に上がる。


街からは、歓声と感謝の言葉が聞こえていた。




――この人達の為にも、決着をつけてやる。




京太は、気合を入れ直し、再び、バーレンを探しに向かう。


高速で飛び、暫くすると、予定の座標に到着したのだが。




「何も無いのぅ」



「うん、何も感じないよ」



「ちょっと待って」



京太は、神気を解放し、魔力を強める。




――【魔法の神、イシス】、力を・・・・・・




体の周りに可視出来る程のオーラが現れる。




周りの仲間も息を潜める。




「ディスペル」




この魔法により、隠れていた島が現れた。




「おおっ!


 あそこが、バーレンか・・・・・・」




「そうみたいだが・・・・・・」




「なんか、禍々しいね」




3人がそう言うのも、無理も無い。


隠蔽の魔術が消え、姿を見せたバーレンは、上空を黒い何かが飛び交っており、

時折見える地上には、異常なほど大きいアビスホールがあった。




「これが、地震の原因だろうな」




アイシャとラゴは、アビスホールを見ている。




「その様じゃな」




京太もアビスホールを見ている。




――あれが、原因か・・・・・




「あれは、何かを生み出そうとしている様じゃ」




「生み出す?」




「そうだ、だが、何かおかしいのだ・・・・・」




「ん?」




京太は、まだ、はっきりと理解出来ていなかった。


しかし、アイシャとラゴは理解している。




「結界を破る方が良い?」




ラゴに問う。




「主様、それは、遠慮した方が良かろう、それに・・・・・・」




ラゴの視線の先には、大きな黒い鳥が、京太達目掛けて飛んで来ていた。


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