第193話古(いにしえ)の物語 著者

京太達は、書庫から屋敷に戻った。


そして、アリエル達に会う為に、エヴィータ王妃の部屋に急ぐ。


部屋の前に立ち、扉を叩く。




「お入りください」




部屋の中に入るが、アリエル達の姿がない。




「エヴィータ王妃、アリエル達は?」




「あの子達なら、王宮よ。


 あの人に、食事を届けに行ったわ」




――行き違いか・・・・・




京太は、お礼を言うと、王宮へと向かう。


屋敷の転移の鏡から王宮に入ると、

扉が開き、タイミングよく部屋の中にアリエル達が入って来た。




「京太様?」




「アリエル、聞きたい事があって、探していたんだ」




「はい、何でしょうか?」




話をする為に、アリエル達に同行していたメイドに

『部屋を貸して欲しい』と伝える。




「畏まりました。


 こちらにどうぞ」




メイドの案内に従い、歩く。




「この部屋でしたら、ご自由にお使い下さい」




京太は、感謝を告げ、部屋のソファーに座る。


アリエル達も向かいのソファーに座ると、先程のメイドがお茶を配る。




全員が落ち着いたところで、京太は、話しを始めた。




「これを見て欲しんだ」




手渡したのは、『古の物語』。


アリエルの手にある本を、ラティ、ハミエは、覗き込む。


3人は、ゆっくりとページを開き、読み始めた。




『古の物語』を読み始めた3人は、懐かしそうに微笑む。




「ふふ・・・・」




そして、最後のページの名前を見つけ、驚いた表情を浮かべた。




「私達の名前が・・・・・」




「知りませんでした」




「私もよ」




3人は、京太の顔を見る。




「京太様、この本を何処で?」




「王宮の書庫だよ。


 それよりも、著者の名前に心当たりはない?」




アリエルは、本の裏に書いてあった名前を確認した。




「ミゼル・・・・・?」




アリエルが悩む横で、思い出したラティが答える。




「アリエル様、あの子ですよ、精霊のミゼルですよ」




「思い出したわ!

 本好きの精霊、ミゼルね」




「はい、でも、あの子がこんな本を書いていたなんて・・・・・・」




驚く3人に、京太が問う。




「精霊のミゼルって誰?」




「ちょっと変わった精霊です。


 本来は、森に住む木の精霊だったのですが、

 伐採された木と一緒に街にやって来てから、

 本に夢中になりまして・・・・・」




アリエルは、思い出しながら笑う。


すると隣で、『うんうん』と頷いていたハミエが、話を続けた。




「あの子、最初は読んでいるだけでしたが、

 『私も書く』って言い出したのよね」




「そうそう、それで旅に出たのですよね」




3人は、懐かしそうに笑みを浮かべていた。


思い出に浸っている3人に声をかける。




「それで、このミゼルは、何処にいるの?」




「わかりません。


 ですが、この本を書庫で見つけたのでしたら、もしかしたら・・・・・」




京太は、クオンに聞く。




「この本は、落ちて来たんだよね」




「そうだよ、本を探して歩いていたら、上から落ちて来たんだよ」




「クオン様、その場所は、覚えておられますか?」




「勿論だよ」




「では、準備をして、その場所に向かいましょう」




アリエルの言葉に、疑問を浮かべる。




「準備?」




「はい、その辺りは、お任せください」




アリエル達は、準備を整えてから、書庫に向かった。


書庫に入ると、クオンに場所を聞く。




「クオン様、その場所に案内をお願い致します」




「うん!」




クオンに案内された場所は、書庫の奥まったところで、

埃だらけの場所だった。




「本棚も無いし、丁度良いですわ」




アリエルは、連れて来ていた手伝いの者達に指示を出し、準備を始める。




――机に、紙、筆・・・・・・



本棚の無い片隅に、机を置き、魔道具のランプで明かりを灯す。




「ミゼル、準備は整えたわよ、好きに使って」




アリエルの声が響く。


そして、静まり返る書庫。




「ねぇ・・・・・」




ソニアが口を開きかけた時、緑色の光が、『フワフワ』と浮かびながら、

机に近づいた。




――あれが、精霊?・・・・・




静かに驚く仲間達を通り、緑色の光は、椅子の上で止まる。


すると『ポンッ』という音と共に、姿を現した。




「精霊?」




「・・・・・本当に?」




「・・・・・・嘘、でしょ・・・」




皆が、不思議に思うのも仕方がない。


現れたミゼルの恰好は、ボサボサ頭に瓶底眼鏡。


服装はだらしなく、どう見ても、引き籠りか、

昭和のアニメに出て来る苦学生にしか見えなかった。




アリエルは、ミゼルに近づく。




「ミゼル、久し振りですね」




「・・・・・・」




ミゼルは、貰った紙に、黙々と何かを綴っている。




「ミゼル?」




「・・・・・」




周りの様子が見えない程、集中していた。




「余程、書きたかったのですね」




アリエルは微笑むと、メイドに伝える。




「テーブルの横に、もう1つテーブルを、

 それと、食事の準備をお願いします」




メイドは尋ねる。




「精霊様は、何を、お召し上がりになるのでしょうか?」




「そうね・・・・・果物とフレッシュジュース、後はパンをお願いします」




「畏まりました」




ついて来ていた手伝いの男達とメイドは、準備の為に去って行った。






「京太様、申し訳御座いません。


 暫くこのままにして頂けませんか?」




「そうだね、先にアリエル達の話を聞かせてもらっていいかな?」




「はい、喜んで」




京太達は、ミゼルを放置し、一旦、先程の部屋に戻る。




部屋に入り、一息つくと、京太が問う。




「あの小説の話だけど、あれは事実なの?」




「はい、少し着色がありましたが、概ね事実です」




「なら、この地に残った理由については?」




アリエルが代表して答える。




「間違いありません。


 私達は、天使の力を殆ど封印し、

 神の巫女として、アラアイ教国に降り立った事は、ご存知だと思います。


 それとは、別に、あの島とアビスホールを監視する任務を受けていました。


 もし、あの島に変化が訪れた時は、

 必ず伝えるようにと、仰せつかっておりましたので」




京太は納得した。




「僕が知った時点で、アリエル達の任務は終っていたの?」




「はい、その通りですが、

 私達も詳しい事までは、理解しておりませんが

 あの時、出来る限りの事をお伝えしようと・・・・・


 ただ、あの島の結界は、魔法の神イシス様の力で封印し、

 その後に、隠蔽の魔術を使って島を隠した事は、知っております」



京太は、謁見の間での事を、後悔しながらも、話を続ける。



「場所は?」



「おおよその位置は、わかります。


 アラアイ教国より、北西の海の中心辺りです」




「ありがとう、それで、見つける方法はある?」




「いえ、ありません。


 魔法の神イシス様は、誰も近づけないように、

 神の気と魔力を混ぜて隠蔽の魔術を使いましたから、無理だと思います」




「えっ!?」




京太は、見つける方法を思いつく。




「それ、魔法の神イシスの気を見つければいいんだよね」




「はい」




「多分だけど、僕なら探せると思うよ」




「え!?」




驚く3人だったが、よく考えると、京太なら出来ると確信する。




「同じ神である京太様なら、問題ありませんね」




「うん、だけど・・・・・・もしかして、忘れていたの?」




「い、いえ・・・・・そんな事は・・・・・」




笑って誤魔化された。



その後、一旦屋敷に戻る事にし転移の鏡を潜ると

なかなか帰って来ない娘達を心配したエヴィータ王妃が、

転移の鏡の前で待っていた。




「皆、大丈夫?


 心配したわよ」




「母様、ごめんなさい。


 でも、王宮で精霊を見つけましたの」



「まぁまぁ、王宮に精霊ですか、

 詳しい話は、お部屋で聞きましょう」




エヴィータ王妃は笑みを浮かべながら、

アリエルと手を繋ぎ、部屋に戻って行く。


その光景は、微笑ましく思えるが・・・


――アリエルは、見た目幼女だけど、実際は・・・・・・


そんな事を考えていると、アリエルが突然振り向き、冷たい目を向けた。



「ひぃ!」



――考えないようにしよう・・・・・・




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