第192話古(いにしえ)の物語 2

ガーハランドの蹂躙。


ただ、同胞に重ねた竜人族を助けたいと思った事から始まった筈だった・・・・・。




しかし、剣を振るうガーハランドの攻撃は、エルフ族と竜人族を死に追いやる。


頭では、わかっているが、身体が言う事を聞かない。




――これは、私が・・・・・・どうして・・・・・




迫り来る者、逃げようとする者、容赦なくガーハランドの振るう剣の餌食となった。




――もう止めてくれ!・・・・・




心の叫びは、届かない。


ガーハランドの体には、別の人格が宿り、体の自由を奪いつつあるのだ。




「貴様を助ける対価に、体を貰った・・・・・・」




ガーハランドが発した言葉。


だが、それは別の人格。




――俺は、竜人族を助けたいと願った筈だ!・・・・・




「そうだったな。


 しかし、奴らは私に剣を向けた。


 ならば、貴様を守る為に抵抗するしかなかろう」


確かに、その通りなのだが、

それでもガーハランドの心は、悲しみに染まる。



その気持ちが、大きくなるにつれ、ガーハランドの意識は薄れて行く。


そんな状態でも、別人格は、心に投げかける。


「よく見ろ、これは、貴様が望んだのだ」



――俺が、望んだ?・・・・・・



「そうだ。


 貴様の願いで、大勢の人が死んだのだ」



追い詰めるように別人格は話す。



――俺は、望んでいない・・・・・



「本当にそう言い切れるのか・・・・・

 貴様が望んだから、私は、ここにいるのだぞ!」



――そうだったのか・・・・・・私の責任だったのか・・・・・



ガーハランドが罪を認めた瞬間、残っていた意識が消えた。



「フフフ・・・・・

 これで、この体は私の物だ」



ガーハランドの体を乗っ取った者は、高らかに笑う。



「ハァハッハッハ・・・・・

 やっとだ、やっとこの地で、肉体を得る事に成功したぞ!」



男の名は、【アドラメレク】、狡猾で野心家の悪魔。



完全に、体を乗っ取った今。

アドラメレクにとって、エルフも竜人も関係ない。


全ての者が、獲物に過ぎない。



「さて、始めるか」



戦いに、アドラメレクが参戦すると

彼の独断場となり

エルフも竜人も関係なく、次々に殺され

魂を奪われる。



蹂躙は、生きている者がいる限り続き、

最後は、アドラメレク以外、立っている者はいなくなった。



「いい運動に、なりましたが

 まだ、足りませんね」



独り言を呟いたアドラメレクは、

この場から去り、次の街へと向かう。



そして、見つけた村や街を蹂躙し、次々に魂を奪った。



大陸中をまわったアドラメレクは、

満足したのか、体内に貯めた魂と一緒に、

ガーハランドの記憶を辿り、故郷の島へと戻る。



海を渡り、島に戻ったアドラメレクは、

ガーハランドを装い、皆と接する。




「ガーハランド、その姿は!?」




「この姿か?


 驚くのも無理も無いが、この姿は大陸で見つけた魔法によって

 強化した姿だよ、見た目は、こんな感じだが、色々と便利なんだ。


 空も飛べるし、力も強くなったぞ」




「そうなのか?」




「ああ、皆にもその恩恵を受けて貰いたくて、島に戻って来たんだ。


 俺を信じて貰えないか?」




ガーハランドの姿をしたアドラメレクは、その日から説得を続け、

最後には島民全員の了解を得る事に成功する。




説得に成功した、次の日の夜、

女、子供を含めた島民全員が広場に集まった。




そこで始まる儀式。


広場には、密かに描かれた魔法陣。


アドラメレクは、『昏睡』の魔法を使い、

島民を眠らせると、呪文を唱え始める。




「天は天に、地は地に、その言われに縛り付けられた我が同胞よ、

 今、この地に顕現の時来たる。


 供物となる魂と肉体を持って姿を現せ」




アドラメレクは、体内に集めていた魂を、一気に解放した。


黒く染まった魂は、数個が纏まると、

次々に、島民達の肉体に宿り始める。




痙攣を起こし、悲鳴に似た叫び声を上げる島民達。


その光景を、ほくそ笑みながら見つめるアドラメレク。




暫くして、痙攣が治まり、意識を取り戻した島民達の姿は、

アドラメレクと同じ姿へと変わっていた。


スッと立ち上がった島民たちは、アドラメレクの前に集まり、

膝をつき、頭を垂れた。




「アドラメレク様、無事、この地で肉体を得る事が出来ました。


 何なりとご命令を」




「これより、この地を我等の物とする。


 先ずは、同胞の復活の為、多くの魂を集めるのだ!」




「畏まりました。


 我が同胞、そしてアドラメレク様の為、

 その任、達成して見せましょう」




その日より、始まった竜魔人達の殺戮の日々。



当然、各国や種族達は、全力で抵抗したが

空を飛び、能力で上回る竜魔人達に勝てる筈も無く、

段々と劣勢に陥る。



そんな時、巫女は、神への交信を試みる決意をし

各地に散らばっていた巫女達を、アラアイ教国の神殿に集め、祈りを捧げた。



「神よ、どうか、願いを・・・・・」



その願いを聞き入れた神は、天界から天使達を送り込んだ。


今までは、無敵状態だった竜魔人達だったが、

力も強く、数で圧倒する天使達に成す統べなく破て行き

とうとう、この世界の端にある島へと追いやられた。



逃げた竜魔人達の後を追い、島にやってきた天使達だったが、

そこで異様な物を発見する。


禍々しく、底の見えない、暗く、大きな渦。




「天使長様、あれは、何でしょう?」




「クッ、あのような物まで・・・・・・一度、監視を残し、撤退します」




天使長は何も答えず、天界に引き返すと、創造神アトゥムに報告をした。




「そうか・・・・・奴らの動きは、気になっていたが、まさか地上で・・・・・」




「アトゥム様、如何なさいますか?」




「むやみに手を出せば、取り返しのつかない事にもなり兼ねん。


 神を送り、封印する事にする。


 決して『アビスホール』には、近寄ってならんぞ」




「畏まりました」




後日、創造神アトゥムは、神を送り、島の封印に成功させた。



そして、巫女の集まったアラアイ教国に、3名の天使を派遣した。


それが、アリエル、ハミエル、ラティエルの3人である。




3人は、アラアイ教国に滞在し、この世界を見守る任に着いたのだった。



「「「えっ!?」」」



小説に目を通していた皆の声が重なる。


全員が顔を見合わす。




沈黙の後、ソニアを筆頭に、仲間達が口を開く。




「なら、詳しい事は、あの子達に聞けば良かったの?」



「でも、何度も会っているわよね」



「うん、・・・・・もしかして、神に知らせるのが任務だから、

 京太が、知った時点で、任務終了?」



「それも違うかも・・・・、

 思いだしたのだけど、

 アリエルは、謁見の間で、何か話そうとしていたような・・・・」



「でも、話さなかったんでしょう」



「それは・・・・・」



「おお!

 わらわも思い出したぞ。


 あの時、主様が、分かったと返答しておったぞ!」



視線が、京太に集中する。



何とも言えない状況。



「・・・・・・取り敢えず、戻ろうか」




京太の言葉に従い、全員が、書庫から出て行った。




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