第191話古(いにしえ)の物語

王宮の書庫に籠り、10日が過ぎた。




京太達は、手の空いている者達総出で、過去の地震についての文献を探した。


しかし、他に手懸りのなりそうな文献が見当たらない。




皆が諦めかけた時、クオンが笑顔で近づいて来る。




「お兄ちゃん、これ」




京太は、クオンが持っている古い本を受け取り、中を覗く。




「これ、小説だよね」




「うん、なんか上の方から落ちて来た。


 それで、拾ったんだけど、これじゃないかな?って」




「どうしたのじゃ?」




「何々?」




皆が集まって来た。




「クオンが見つけたんだ」




京太は、クオンの頭を撫でる。




「えへへへ・・・・・」




本の題名は『いにしえの物語』。




皆も覗き込む。




「でも、不思議ね。


 何かを記す文献では無く、物語なんて・・・・・」




著者の名を見る。




「【ミゼル】?」




確かに、不思議だった。


この様な書庫に、物語がある事もだが、それ以上に・・・・・落ちて来た?


それと、記録として残っていない事に疑問を持つ。




――何か意味が・・・・・それとも・・・・・




京太は、疑問を残しながらも、クオンから受け取った物語を読み始めた。








『古の物語』




これは、ずっとずっと昔のはなし。


この世界には、四つの大陸があった。




1つは、人や亜人達の住む、大きな大陸。


1つは、人族が住む、伝統を受け継いだ島。


1つは、多種多様な者達が住む島。


そして最後の1つは、魔力の強い者達が住む島があった。




その中でも、魔力を持つ者達の島は狭く、生活も厳しいものであった。




ある時、1人の竜の男は、船に乗り、旅へと出る。


その旅の途中で、大きな大陸を発見した。


竜の男は思う。




「これだけの大地があれば、我々の暮らしも楽になるのでは・・・・・」




竜の男は、その大陸に上がり、旅を始めた。


しかし、その大陸には、既に人族と亜人族が暮らしており

この男の竜の一族を迎え入れて貰えるのかは、わからない。




竜の男は、旅を続ける。




そして、自身と似た格好の者達を見つけた。




竜の男は、警戒しながらも、接触を試みる。


しかし、相手は、『変異種』だと叫び、竜の男に攻撃を浴びせた。




「待ってくれ!


 俺は、争う為に来たんじゃない!」




竜の男は必死に訴えたが、全く聞き入れてもらえず、

攻撃だけが増してゆく。




――どうして・・・・・




傷だらけになりながらも、なんとか逃げ延びた竜の男は、

仕方なく、その場から去る決意をした。




傷だらけになりながらも、仲間の事を思い、旅を続ける竜の男。


途中、森の中で、結界の様な物を発見した。




竜の男が触れると、結界が消えた為、

用心しながら先に進むと、突如、攻撃を受けた。




「何者だ!


 ここは、我等の住まう場所。


結界を破壊し、我が領域に無断で入るとは、どういうつもりだ!」




竜の男は、両手を上げた。




「勝手に入った事は、謝罪する。


 結界の事は、申し訳ない。


 私は、旅をしている者だ」




竜の男は、素直に答え、謝罪を口にした時、

背後から、声が聞こえてきた。




「見つけたぞ!」




逃げ延びたと思っていた竜の男だったが、

前回、接触を試みたの竜の男と似た種族が、ここまで追って来たのだ。




「あれは、竜人族。


 これは、罠だったのか!」




エルフが、竜の男を睨みつけた。


「ま、待ってくれ!


 誤解だ!」


竜の男は、必死に弁明するが、それより先に戦いが始まってしまった。




「やめろ!


 武器を置くんだ!」




そんな竜の男の声は届かず、争いは、益々激しくなってゆく。



そんな争いの中、竜の男にも、剣が向けられた。




「貴様が、連れて来たんだろうがぁ!!!」




怒りの形相で、襲いかかるエルフ。




竜の男は、仕方なく剣を抜いた。


魔力が流れ、剣が紅く染まると、

向かって来ていたエルフの首を切り落とす。



竜の男の攻撃は、それだけでは終らない。



剣を振るった余波で、

周囲の者達と、全ての木々を切り倒したのだ。



「え!?」



轟音を立てて、次々と木が倒れる。


それに巻き込まれるエルフと竜人達。


圧倒的な力を目にして、周囲の動きが止まる。




――今だ!・・・・・・




竜の男は、静まり返った戦場で、名乗りをあげた。




「私は、竜魔人【ガーハランド】、貴方達と戦うつもりは無い」




エルフの男が返答する。




「私は、エルフ族の戦士【クラ】だ。


 我が同胞を殺しておきながら、戦う気が無いとは、いったい、どの様なつもりだ」




――捕らえられても、話し合いをすれば・・・・・・




薄い望みなのは、承知の上で、ガーハランドは覚悟を決め、クラと向き合う。




「先程は、失礼した。


 戦う気は無かったのだが、やむを得ず抵抗させてもらった。


 改めて謝罪する」




ガーハランドは、頭を下げる。




「・・・・・貴殿の謝罪を受け入れよう。


 ただし、里に同行し、長老に自らの口で、説明をするのだ」




「わかった。


 従おう」




ガーハランドは、剣を収めたが、

後を追って来た竜人達は抵抗をみせる。



「勝手に話を進めないでもらいたい。


 我等は、それでは納得が出来ない」




クラが問う。




「なら、どうしたいのだ?」




「その男の身柄は、こちらで預かる」




「・・・・・・」




エルフと竜人族で睨み合いが始まった。


そんな中、エルフの援軍が到着し、静かに竜人達の背後を取った。




クラに合図が送られる。




――敵の背後を取った、何時でも攻撃可能・・・・・・




「竜人族の代表よ、そろそろ決着をつけよう。


 我々の提案は、変わらん。


 貴様等は、どうする?


 力ずくで奪うのか?」




「我が名は、【ホグ】。

 

 我らには。我らの考えがある。


 『変異種』とみられるそこの男は、生かしてなどおけぬ。


 抵抗するなら、竜の血族である我等の誇りに掛けて戦おう」




話し合いは決裂した。


そして再び始まる戦い。




背後から弓で狙われる竜人族。


それに抵抗し、ブレスを吐き、森と一緒にエルフを焼き払う竜人達。




だが、多勢に無勢、竜人達は、時と共に仲間を失い、敗戦が濃厚に。




その様子を、黙って見ているしかないガーハランド。


彼は、先の条件通り、エルフの里に連行される為に、拘束されているが

目の前の光景に、心を痛める。




――私が、この大陸に来た為に・・・・・




蹂躙され始めた竜人達。



竜魔人であるガーハランドは、似た姿を持つ竜人達に同胞の姿を重ねてしまう。


同時に、湧き上がる怒り。



「・・・・・もう止めてくれ・・・」



心の底から絞り出した言葉だったが

クラは、聞き入れない。



「先にこの地に押し入ったのは、奴らだ」



「なら、退路を・・・・・」




「甘い!

 既に、交渉は決裂した。


 1人でも残せば、再び攻めて来よう、

 なので、殲滅あるのみ」




会話の間にも、目の前で繰り広げられる光景。



――聞き入れてもらえないのだな・・・・・



覚悟を決めたガーハランドは、必死に縄を解こうとするが

解けない。


「止めろと言っているんだ!」


必死に叫ぶが、結果は同じ。


縄に食い込む皮膚。


血が滲む。


──誰か・・・誰か・・・

  力を・・・・



ガーハランドの思いが通じたのか

脳裏に誰かの言葉が聞こえて来る。



――助けたいか・・・・・・



「誰だ!」


思わず声に出し、辺りを見渡すが、

声の主と思われる者の姿はない。


当然というべきか、ガーハランドの質問に返答は無い。


だが、脳裏に、新たな言葉が届く。



――力が欲しいか?


  この場を切り抜け、戦いを終わらせる程の力が欲しいか?・・・・・



この言葉に是非も無く答える。



「俺の力だけでは無理だ・・・

  頼む、力を・・・・・・」




――フッ、良かろう。


  貴様の願い聞き入れた・・・

  ただし、対価は貰うがな・・・・・・



「えっ!?」



驚くガーハランドだったが、時すでに遅し。


ガーハランドの体は、徐々に漆黒に染まり、目は、紅く染まる。




「グガァァァァァ!!!」




突然、叫び声をあげ、変化していくガーハランドに、

クラを始めとするエルフ達は、驚きを見せていた。




「何が起きている!?」




慌てふためくエルフ達。


そんなエルフ達を余所に、縛られていたロープを引き千切るガーハランド。


この時のガーハランドは、既に、今までのハーランドではない。


目は紅く、背中には、隆起した背びれと羽。


灰色に近かった体の色は、漆黒。




「ふぅ・・・・・」




一呼吸置いた後、クラを睨む。




「ここからが本番だ。


 さぁ、始めようか・・・・・」




ガーハランドの蹂躙劇が始まる。




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