第190話地震 その後

地震騒ぎが落ち着いた頃、屋敷に不備がないかを

確認して回る京太。



――何だったのだろう・・・・・



途中で、出会ったエヴィータ王妃に聞いてみたが、

『地が揺れるのは、初めてのこと』と言っていた。



やはり、この世界で地震は起きない。

そう考えると、

これは、アトラ王国だけの問題ではないのかもしれない。


その推測は正しく、

各国にも被害が及んでいた。









~アクセル王国~




「陛下、各地の状況ですが、本日中には、落ち着きそうです」




「そうか、それで、マリアベルの所は、どうだ?」




「申し訳ございません。


 まだ、何も・・・・・・」




アンドレイ アクセル国王は、シラスの街の娘を心配していた。




「あの子なら、心配は要りません。


 まぁ、ちょっと変わっていますけど、立派な領主です」




エリノア アクセル王妃は、アンドレイ アクセル国王に伝える。




アンドレイ アクセル国王は、王都にいた頃のマリアベルを思い出し、

変な汗を流す。




――やり過ぎていなければいいが・・・・・




そのシラスの街のマリアベルだったが、地震が治まった後、

すぐに街に繰り出していた。




「あんた達、倒壊した家屋の下敷きになった人達を、急いで助け出しなさい。


 ディーノ、ドワイト、手を貸してあげなさい!」




「わかりました」




平民街で倒壊した家屋の瓦礫前で、戸惑う兵士達に、

ディーノは、喝を入れる。




「貴様等、それでもこのシラスの街を守る兵士か!


 前回、教会の聖騎士を追いやった勇気は、何処に行ったのだ!」




執事服を着る大男に、突然怒鳴られ、地震に怯えていた兵士達は正気に戻った。




「申し訳御座いません!


 お前ら、必ず助け出すぞ!」




兵士達は、リレー形式で瓦礫の除去を始める。


それを見ていた、マリアベルは、

近くで倒壊していなかった宿屋に駆け込む。




「おばさん、いる?」




倒れた物の片付けに追われていた、恰幅の良い女性が姿を見せる。




「あら、姫様」




「おばちゃん、忙しいのはわかっているけど、

 あるだけの食材で食事を作って貰えないかな?


 勿論、代金は、私が持つから」




「凝った物は、出来ないけど、それでもいいかい?」




「ありがとう、出来たら温まる物がいいの。


 それで、出来上がったら、この辺りの人に配って欲しいのだけど、

 お願いできる?」




「ああ、姫様の頼みだ、任せておくれ」




「ありがとう、じゃぁ宜しくね!」




マリアベルは、宿を飛び出し、執事のもとに戻る。




「ディーノ、ドワイト、次の場所に行くわよ!」




「はい」




「畏まりました」




マリアベルは、ドワイトの肩に乗せてもらい、再び街の中を進み始めた。




この後も、街の中を回り、市民に声をかけ、時には手伝ったり、

食事の提供を約束して回った。




その光景に、とある冒険者は思う。




「姫様が、この街の領主で良かったな」




「ああ、本当に・・・・・」




「でもよ、姫様、何年経っても、ちっこいままだよな・・・・・」




「・・・・・・それ、女共の前で言うなよ」




「どうして?」




「それは・・・・・あっ!」




何かを言いかけた男の視線が、『ちっこい』と言った男の後ろに向けられる。




「ん?・・・・・」




男の後ろには、何時の間にか、大勢の街の女性達が集まっていた。




「あんた、姫様を馬鹿にしているのかい!」




「・・・・・いや、そんなつもりでは・・・・・」




男は、女性陣に、ボコボコに殴られ、地面に倒れた。




「二度と、姫様の悪口を言うんじゃないよ!」




そう言って、女性達は去って行った。




「い・てぇ・・・・・」




「お前、知らなかったのか?


 前にな、酒場で酔った男が『姫様がチビ』とか

 『成長が止まって、嫁の貰い手が無い』とか、冗談で言ったんだよ。


 そしたら、そこの女将が怒りだして、

 周りにいた女性達と一緒に男をボコボコにしてから、

 服をひん剥いて、外に放り出したんだよ」




「え・・・・・」




男の顔色が、青くなる。




「話は、それで終わらないんだ。


 翌日には、その話が女性達の間で広まっていて、

 男は、宿にも泊まれなくなったんだ」



「・・・・・本当に?」



「ああ。


 だが、それだけじゃねえ、食堂も娼館も出入り禁止だ」




「へ・・・・・」




「市場でも、物を売って貰えない」




「そんなの、この街で生きていけないぞ」




「そうだ、男は、この街から出て行くしか無くなったんだよ」




男の顔色は、青から白に変わっていた。




「・・・・・怖ぇよ」




「お前も、気を付けるんだな」




「ちょっ!」




話が終わると、男は去って行き、『ちっこい』と言った男は、取り残される。



冒険者の男は見ていた。



マリアベルが、街の住人に声をかけ、困っている人々を助ける姿を・・・・・

そして、この街の住人は、マリアベルに感謝している事を理解する。



「これは、ヤバい!」



男は急いで市場に行き、意味も無く食材を買う。




――良かったぁ・・・・・売って貰えた・・・・・




『ホッ』とした男は、泊まっている宿屋に戻り、食材を渡すと、

困っている人を助ける為に、街の中に消えた。



――このままでは、俺も・・・・・



シラスの街でも、重傷者は出た。


しかし、マリアベルが惜しみなく、魔法や治療薬を使い、

住人達を助けた為に死者はいない。






マリアベルが、シラスの街で陣頭指揮を執っていたように、

武装国家ハーグでは、アリソン タガート女王。


シーワン王国では、キーラ女王が陣頭指揮を執り、住民達の混乱を抑え、

救護と倒壊した建物の復旧に、全力を注いだ。




そして、地震から、一週間が過ぎた。




各国は、今回の地震の調査を始めていた。




だが、手掛かりになる物は何も見つからず、無駄に時間だけが過ぎていく。


街の復興にも目途が立ち、

地震から3ヵ月後、再び、地震が各地を襲う。




2度目の地震は、前回を大きく上回る揺れで、立っている事も儘ならなかった。


その為、被害も大きい。




昔から建っていた家屋は崩壊し、川に架けていた橋も、無くなり

多くの死者も出た。




各国は、被害状況を確認した後、復旧を急ぐとともに、

再び、調査団を結成する。




そんな中、アトラ王国では、

今回の調査を、京太に依頼する事にした。





~謁見の間にて~


大勢の貴族が集まる中、国王エイリーク アトラは

問いかける。


「京太殿、無理なお願いをするが、この度の調査依頼

 引き受けては、貰えないだろうか?」



『例の夢の件が、関係しているかも?』と思っていた京太は、

その場で即答する。


「勿論、お受けいたします」


「おお、そうか、

 ならば、必要な物は、こちらで準備をしよう」



謁見の間でのやり取りを終えた京太達は

場所を替えて会議を始めた。




エイリーク アトラ国王は、過去の資料などから、

今回の出来事に、悪魔が絡んでいる可能性がある事を京太に話す。




「この国の古い書物の中に、


『悪魔、復活の時、糧となる恐怖を与える為、 地が唸り声を上げる』


 そう書いてあるのだ」


その言葉を聞き、アリエルが、京太に伝える。


「それは、封印された竜人の地に、関係していると思います」




確信する。




――これは、放ってはおけない・・・・・・



「それで・・・・」



アリエルは、続けて話そうとしたが、考えに耽っていた京太は

聞き取れておらず、遮ってしまう。



「アリエル、ありがとう。


 少し、調べてみるよ」



「あ、はい・・・・」




その日から、京太達は城の書庫に籠り、手掛かりを探す事にした。




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